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やめてよ。 (小説)
秋の匂いがするね。
高い空にある三日月を見ながら呟く直人が疎ましかった。冷たさを帯びた風が、にの腕についている脂肪を更に冷たくした。右手に繋がる彼の左手を握りしめる。大して温度差はないが、肌が触れ合っていると温まっていると勘違いしてしまう。秋の匂いって、なんだろう。直人の嗅覚はそれほど優れていないことを知っている。握った手を振りまわしながら考える。
「わからない?」
悪戯っぽく笑う直人の上が
因果はどこまで (小説)
「おじいちゃん、手術するんだって」
琴子の言葉に、ふうんと興味なさげに健史は呟くように言った。珈琲カップを置くことも、視線を合わせることもしない。そのまま口に運ぶと喉を鳴らしてカフェオレを飲みこむ。ようやく置かれたカップの中で、ハート模様が歪んでいる。右手で柄を掴み、左右に動かしながら弄ぶ指先を琴子はじっと見つめた。健史の態度に、薄情だとは思わない。
琴子の祖父は以前から右脚を痛めており、歩く