あおい

本と食と旅と創作がすきなナース。

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最近の記事

いいひと (小説)

「いい人ってなんっちゃ」  いい人と、結婚がしたい。  紅いティントで縁どった唇が大きく開き、閉じた。一言一言を噛みしめるように発する杏香の口内に、頭から吸いこまれる自分を毎度想像してしまう。吸う息に勢いがある。杏香の一挙一動はブリキのおもちゃと同じく、音を立てて周囲を苛立たせる。生活音が大きい人とは暮らせないな。杏香と会うたびそう思う。少し背伸びをしたビストロランチを選択したことを後悔した。彼女のナイフとフォークが動くたび、こめかみも連動する。小さなことが積もりに積もって

    • いやなやつ

      最近、悲しいことがありました。 文章を書いて昇華しようと思いましたが、うまくいかず、ありのまま記録しておこうと思います。ゆめゆめ、同じ過ちを繰り返しませんように。 マッチングアプリで知り合った方と、食事に行きました。2歳下の、真面目そうな方でした。真面目を、履き違えていそうな方でした。つまり、自分自身に誠実そうな人だと感じました。 印象は悪くなく、相手もこちらのことをよく思っているだろうなと感じました。3回目の食事のとき、あちらから交際を申しこまれ了承しました。 付き合って

      • なきむし (小説)

         水槽のなかで、いるかが同じ動きをしている。腹ばいに空気を吐きながら遠ざかり回転し、泡沫を消しながらこちらに向かってくる。優雅な動きに感嘆する。海を自在に泳げて、重力から逃げられる。どんな心地なんだろう。 「いいなあ」 「いいことなんてないだろうよ」  呟くと食い気味に被せられた否定的な言葉に、頭上を振り返る。同じく水槽を眺めている彼の瞳の奥が水色に見えた。  常同行動というらしい。ずっと同じ行動をしている動物達はストレスを感じている。動物園や水族館の生き物は多く、この行動を

        • おやすみおわり

           気圧の変化とか、ホルモンのバランスに左右されながら日々過ごしていると感じます。連休が終わって、今日から仕事を再開します。仕事は嫌いではないけれど、割に合わないと感じることが多々。  高円寺にあるcheekというbar&coffee店で、1人呑みをしました。英語の教材と、小川洋子さんの小説を持って行きました。以前このお店で開催されているラテアート教室に参加したので、1度食事で伺ってみたく念願叶いました。残念ながら、教室の講師の方は接客をしていませんでした。  店内には1人、パ

        いいひと (小説)

          やめてよ。 (小説)

           秋の匂いがするね。  高い空にある三日月を見ながら呟く直人が疎ましかった。冷たさを帯びた風が、にの腕についている脂肪を更に冷たくした。右手に繋がる彼の左手を握りしめる。大して温度差はないが、肌が触れ合っていると温まっていると勘違いしてしまう。秋の匂いって、なんだろう。直人の嗅覚はそれほど優れていないことを知っている。握った手を振りまわしながら考える。 「わからない?」  悪戯っぽく笑う直人の上がった口角を見て、眉間に皺が寄る。背中を押して、坂道に転がしてやりたい。憎らしげな

          やめてよ。 (小説)

          因果はどこまで (小説)

          「おじいちゃん、手術するんだって」  琴子の言葉に、ふうんと興味なさげに健史は呟くように言った。珈琲カップを置くことも、視線を合わせることもしない。そのまま口に運ぶと喉を鳴らしてカフェオレを飲みこむ。ようやく置かれたカップの中で、ハート模様が歪んでいる。右手で柄を掴み、左右に動かしながら弄ぶ指先を琴子はじっと見つめた。健史の態度に、薄情だとは思わない。  琴子の祖父は以前から右脚を痛めており、歩くのが億劫になっていた。祖父と住んでいる地域が近い彼女の話を、健史は何度も聞いてい

          因果はどこまで (小説)

          note はじめました。

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