マガジンのカバー画像

日記

93
運営しているクリエイター

2023年4月の記事一覧

2023/04/30

どこか遠くでわたしを濡らしていた雨がこの世へ移りこの世を濡らす/大森静佳『てのひらを燃やす』

ぎんいろに凍った雨が伸びてきてぎんいろの檻 傘はひらくな/大森静佳『カミーユ』

雨だよ、と告げてあなたに降りかかるわたしに雨の才能ありぬ/大森静佳『ヘクタール』

大森静佳さんのそれぞれの歌集の中で好きな雨の短歌。「雨の才能」とは「雨を受肉する才能」なのでは、と思います。

2023/04/29

この人はメルヘンに出てくる魔女のような顔をしているな、と思った。魔女的な悪意を感じたわけではなく、自然の生み出した蜜を辛抱強く集め、味わい、そこから少しずつ魔術を引き出してきた孤独な年月がその皺に感じられたのだ。
/多和田葉子『太陽諸島』(2022年、講談社)

彼女は静かに言った。
「魔術儀式を司る魔術師と、SMプレイをコントロールするサディストとに求められるのは同じよ。どちらも、現実とは異なる

もっとみる

2023/04/27

私は悪人なりたくないだけだと思える。

もっと人に尽くすことを喜びたい。

2023/04/26

会場では参加国がそれぞれ、未来をイメージするパビリオンをつくっていた。シンガポールは光だけでできた高層ビル、アイスランドは氷でできた火山、オランダのパビリオンは百台の自転車の上に乗った幽霊船。Hirukoの国のパビリオンは巨大な亀の甲羅のかたちをしていてね、壁も屋根も床も窓さえも再生紙でできていた。/多和田葉子『太陽諸島』(講談社、2022年)

想像力でできた建築(上記の場合はパビリオン)が好き

もっとみる

2023/04/24

蛇口を閉めようとしたら誤ってスイッチを入れてしまい、洗面台が明るくなったのは示唆的でした。いい方に転ぶとは限らないけどね。

眠る時に心地よい姿勢を避けることに意味はないけれど、でもその方が落ち着く、と言う人に何を言えばよかったのか。

返せていないLINE31件。

2023/04/23

自分の思考の質が変わってしまった。以前は物事をどこまでも解体し、風景は限りなくクローズアップして、近づき過ぎた視界が対象の向こう側まで行くか、強すぎるまなざしに見られるものが歪むのを待っていたはずなのに、家族と自分を維持する思考に脳の大半を占められて、そのための作業に体力の多くを割いている。
だからやり方を変えなければなりません。諦めるものを増やさなければなりません。少しでも遠くを見るために。翼は

もっとみる

2023/04/21

距離なのかもしれない、と小説が好きな理由を父か6歳下の妹かどちらかに話している時に思いました。作者が作り出した世界を視線の両脚で奥まで、遠いところまで歩み、読み終えて帰ってくる時の、昂奮が落ち着いてくるのに合わせて測られる距離。人や場合によっては浮かび上がってくる際に初めてはっきりと知覚される深度と言った方が適切かもしれません。冷静になって出発地点を振り返った際に、それがどのくらい小さく見えるかを

もっとみる

2023/04/20

実家の脱衣所で歯を磨いていると、私がいることに気づいた弟が浴室のドアの内側に、泡で私の名前を書いています。浴室内の照明と曇りガラスのせいで、高校生になった弟の姿は私によく似た淡いシルエットとなり、私は、重要な事柄は光を背にしてやってくる、と思いました。

2023/04/19

「生きろ。それも、人生を悲観することなく、自身の役目に幸福を感じ、今まで持っていたものは全て短い貸し出し期間を終えて返却したのだと理解し、知ろうとする子供としての自分を放棄し、必要以上に休むことなく生きろ。お前が得ることのできる美しさがあるとするなら、あらん限りの力を持って背の高い雑草を踏み倒し、次に通るものが煩わされることのないよう、必要ならば火を使うことも厭わず、道を拓き、お前より小さな者たち

もっとみる

2023/04/18

昨日は仕事仲間の家にご飯食べに行きました。楽しかった。「はぁっていうゲーム」をしました。ゲームはとても良いものです。出自を全て均して記憶や人格をアイデンティティとして取り組めるから。

結局私はどこにも属していないような気分になることがあります。社会からは宗教二世の人間として、教団からは社会に出て行った人間として見られるが故に、常に話せないことを中が見えないビニール袋で覆って胸の目立たない場所に隠

もっとみる

2023/04/17

もう何度目になるか分からないけど、私は一度死んで、24歳で6人の子供たちの親として生まれ変わったと思って生きていくのが適当な気がする。
弟妹達のために人生を捧げることを幸福としなければならない。でないと私を社会に繋ぎ止めるための精神システムは壊れてしまう。私は元々弱くて、幸福の中にしか生きられない生き物だから。

問題は私が人生を犠牲にしていると自分で思っていることを、どうやってあの優しい弟妹達に

もっとみる

2023/04/16

お父さんがハローワークに行ってくれて嬉しい。息子にハローワークに行ってとせがまれる父親の気持ちには想像力が及ばない。情けないことです。

その足のなめらかさなまめかしさを春とし呼ばむ他の名はない
「掛け算は好きですよ、わけてもゼロは」嵐の夜の客人と話がはづむ
/笹原玉子『偶然、この官能的な』

なぜこれらの短歌が思い浮かんだのか考えたかったのに、すでに眠くて諦めかけていることを白状しておきます。

2023/04/15

内側から壊せないものと言えば万華鏡ですが、指で折って数えるのは諦めてしまいました。

万華鏡の中に閉じ込められて数歩動く度に無尽蔵に増殖を減少を繰り返す私の像の群れ。一度止まって鏡像の全てを数え終えると、内側からそこは壊せるらしいのだけれど、視線を動かせば視界の端にある像を数えたのか数えていなかったのか分からなくなり、居ても立っても居られなくなって足を踏み出す。不安げな目の私の像が左へ消え右から焦

もっとみる

2023/04/14

親の宗教二世問題と、多産と、文学(結局私は浅いところしか知らないけど)を語ることができる人は少ないと思うから、できるだけ日記を続けたい…というところまで書いて、つまるところ自分の満足で書いているのに違いないのでした。全ての言葉は早い遅いはあるにしろ誰かに書かれる。私は思考の補助線と補助線の記録のために書いている。

身を切るような異質さに震えながら、表面温度を下げた私の皮膚が金属の光を宿すようなそ

もっとみる