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吐露

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初期作品
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#心

教えて

ボクは、赤ちゃんのころから引越しをたくさんしてきた。落ち着かない日や眠れない日もあったけど どこに連れて行かれても みんなが笑顔で迎えてくれた。やさしい手で頭をなでてくれた。

小さなころは、ボール遊びに水遊び、お散歩に仲間たちとのあいさつ。楽しかったことの全部を覚えてる。

今の飼い主さん、つまりはボクのボスとは大人になってから出会った。ボスとのお出かけは、ボクにとっては大切な日。

ちゃんと覚

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痛み

私から私の心身への約束事は守られた試しがない。

なので、私は常にバランスを失っている。

例えば「背骨の扉から出掛けてはいけない」という項目があるが、私の小さなカケラ達は、率先して転がり出ようとする。彼らに ごまかしは通用しないのだ。苦しめているのは私だ。彼らの脱出を止める為に筋肉は頑張る。精一杯に筋肉を固め、緊張させ、扉を小さくする。そのたびに私は痛みを感じる。

彼らは何十年も同じ事を繰り返

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私は守られた子供ではなかった。いつも今日という現実に怯えていた。私には何が幸せというものなのかすら分からなかった。それでも不透明な幸せをひたすら願っていた。それは今も変わらない。すべてが嘘ならいいと思う現実にぽつりと立っている。

小学生のうちに日常生活で自分を取り繕うことは自然に覚え、中学生になるころには傷ついていないふりも、強いふりも、何度でも平気で出来た。本当は全然平気ではなかった。いつだっ

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あの目

心をどこかで見失ったり置き去りにしてきたり。そんな人間の目は宇宙のように見える。色濃い暗闇の中へ自分の好きなものだけを投げ込んで生きる。浮遊するそれらは 小さくチカチカと点滅を繰り返す。誰が話していても、誰を見つめていても、浮遊する死者しかいない宇宙にいる。いつも一人きりで遊んでいる。寂しそうにも悲しそうにも見えない。

自分の事で頭がいっぱいの人間とは全く違う目、あの目。さっき すれ違った子供の

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ファンレター

甘い人は人影にも見えない。丸いシャボン玉。淡く重なり合うパステルピンクのベールの向こう。

ロマンチックなセリフ 小さく 繊細で かすれた声 大好き。知らない事ばかりだから いろいろ知りたい。けれど本当は知らないままがいい。

あなたと出会えない運命で良かった。出会ってしまえば、きっとまた少しがっかりしてしまう。やっぱりただの人間なんだと感じてしまう。私だって毎秒腐りゆく人間なんだけど。甘い人は特

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ぼくの心に また虫が湧いた。ぼくの心は透明で小さくてヒンヤリとしている。外側はゴムみたいに強い弾力がある。そんなに おいしそうには見えないし、特別 魅力的な匂いもしないはずなんだけど。

例えばキャベツ。バリバリバリバリ虫に食べられているのに、なぜあんなにうれしそうなの?なぜあんなに優しいの?ぼくは胸が痛い。痛いから、うれしくなんかない。虫は ぼくの胸のあちこちをガジガジかじって小さな穴をあけてい

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止まる息

ふううぅと大きな息を吐く。気付くと止まるボクの息。ウタに変えよう大丈夫。ずっとずっと歌ってきた。自作自演で構わない。楽器なんてなかったけれど、息さえ吐ければ大丈夫。寂しい時は少し長めに。楽しい時は踊りつき。

緑重なる呼吸にも、色鮮やかに香る呼吸にも適わない。だけどボクのウタも満更じゃない。負けてないかもしれないよ。

ボクを助ける最高のウタ。必ず救うよボクのこと。必ず助けるボクのこと。

ふうう

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呪縛

この地に生まれて良かった。天と地に四季がある。内なる者と対峙するには、天に救いを求め自身の内に大きな四季を起こすしかないだろう。そこに時の経過は関係ない。強風に大粒の雨、海を荒立て渦潮の中を回転し大地に放り出され焼け付く日差しを浴びる。天を舞い地を這う者達は優しく、ぼくの思いを察しロープをついばみ食い噛みちぎってゆく。

固いロープは朽ち果てバラバラと体から剥がれ落ちてゆく。心は傷跡だらけだった。

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考える

どんなに事を難しく突き詰めて考えてみても 結局簡単な疑問に戻ってしまうなら、答えがないという答えなんじゃないか?

詩人と哲学者は似ているのかな。

一番わかりやすい言葉で、出会ってもいない人と人が痛みを共感する。たったそれだけでも心に勇気を充電出来る。

この国の金持ちが、すげえ金かけて権力を手に入れる。そして一生懸命何か小難しい言葉を並べてしゃべっているんだけど、伝わらない。何度も同じ事を言っ

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背中合わせ

悲しみは大切な誰かを失った時にだけ起こる感情じゃない。誰かを、自分を、助けたいのにどうにも出来ない時、出来る事には限りがある現実に生きている、それだけでたくさんの悲しみに出くわす。

オセロ。今も昔も白か黒。

白は幸せ、黒は不安。白は悲しみ、黒は憎しみ。対戦ではいつもまけてばかりのぼく。コツも知らないし頭も悪いから仕方ない。

先読みだよ。相手の考えを咲きに読むのさ。人生も同じ。金も人も操れれば

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大丈夫

大丈夫?の一見優しげな言葉が嫌いになった。以前はその優しい一言に酔いしれて、きちんと感謝することも出来たのに。この気持ちの変化は何だろう。

まるで人事なのは お互い様だけれど。友だと思っている人からは これ以上言われたくない。のに言われる。それは気軽な挨拶のように素通りしてゆく。

元気? 大丈夫? 大切な言葉たち。思いやりのパーセンテージは?

まるでボクだけがいつも大変みたいに感じる。こっち

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苦しみは思い込みを生む。

自分の思い込みを手放したいと思う。

集団の思い込みは恐ろしい。他人の思い込みを聞かされる事、押し付けられる事、私の方がまだ大変だったわと自慢げにされる事はさらに不愉快なので避ける。多分ぼくはずっと他人への嫉妬心から逃げるように自分を守ってきた。結果 自分に負けていただけだった。

ぼくには幼なじみはいない。友と呼べる時間にも期限があることを知り、自分だけの運命を知り、

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ビンゴ

白衣着た奴に「死にたいと思うことはありませんか」と聞かれたと同時に頭にきたあたしは「どういう意味ですか?」と聞いていた。口ごもる白衣。

様々な戦いに頑張り続け、人のことばかりにかまけていたら自分の身体をひどく壊して苦しくなり、こんなあたしを誰かに理解して欲しかった。ただそれだけだった。白衣に対して冷静でいられなかったのは、その質問の前にもっと話しを聞いて欲しかったからだ。あの頃のあたしは病院難民

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過去

先生は、今日は楽しかったことを思い出してノートに書いてみましょう。ひとつでも、たくさんでもいいですよと言う。ぼくは心から時計を取り出した。オルゴール音が小さく鳴っていた。プレイボタンを押しっぱなしにしていたんだっけ。マイウェイというお気に入りの曲。ぼくは仕方なく時計の針を少しだけ巻き戻す。

どうしても切ない気持ちになり、針を元に戻す。もう一度だ。集中して巻き戻す。

やっぱり耐えられない。ぼくに

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