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海外から見た日本マーケットのポテンシャルとは?『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則』読みどころ紹介(後編)

前回に引き続き、『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業』を刊行した中垣徹二郎氏と東芝テック鳥井との対談をお届けします。

前編では伝統企業とスタートアップの間を取り持ち、オープンイノベーション推進に貢献する役割を持つ「ポリネーター」のマインドをご紹介しました。後編では鳥井がポリネーターとして心がけていることや、海外から見た日本企業のポテンシャルについて伺います。

ポリネーターに必要なのは、常に相手の立場を想像し、既存ルールへのリスペクトも忘れないこと

−−早速、前編の続きから始めさせていただきます。ポリネーターにはいろんなタイプがいるというお話でしたが、鳥井さんはどんなタイプだと思いますか?

鳥井:何だろう。天然キャラ?よく「真似できない」とか言われますね(笑)。 でも、自分はあまり「型」や「技」にこだわらないタイプかもしれません。どちらかといえば「この会社にはあるものは何か?」「この部署の強みって何だろう?」「それを組み合わせたら何ができるだろう?」という発想をするので、必然的に社内の人たちと関係性を築いて、いろいろな情報を提供してもらっている気がします。社内の関係性を作る上では、まず心理的安全性を感じてもらうことが大切なので、一定の距離感をもって接することを心がけるようにしています。

−−鳥井さんは本書でポリネータ―として取り上げられたことで、まわりから何か反応はありましたか?

鳥井:おかげさまで、社内外の人たちから「鳥井さんってポリネーターだったの?」と言われるようになりました(笑)。

中垣氏:それは嬉しいです(笑)。

鳥井:それから、読んでいただいた人からの感想で多かったのは、「けっこう社内に時間を費やしているんですね」という反応です。
私のような活動をしている人たちは、ともするとスタートアップの人たちばかりに会っていて、社内に向き合っていないと思われがちですけど、やはり社内でどういう風に自分たちの活動を浸透させていくのか、スタートアップのハンズオン活動は社内で信頼関係がなければ絶対できないので、向き合うことは大切だと思っています。
そういう意味で、自分の会社は何なんだろうっていうことに関しても、すごく向き合ってるんだと思います。

−−社内の既存事業部や間接部門との関係構築も、オープンイノベーションに欠かせない要諦ということですね。社内で関係構築をしていく際に何か心がけていることはありますか?

鳥井:自分が心がけているのは、何かを提案しにいく際は、相手の立場に立って、どのような反応をするのかを事前に想像することです。その上で、「やんちゃな変なものを持ってきたぞと思われないようにするにはどうすればいいか?」とか、「他の業務ですごく忙しそうだけど、どうすれば話を聞いてもらえるだろうか?」といったことを考える必要があります。スタートアップと接していると、素晴らしいビジネスに携わっていると感化されてしまうこともあるかもしれませんが、間違っても「すごいものを持ってきたよ」と上から目線になってはいけません。

中垣氏:それはすごく重要なポイントですね。私たちベンチャーキャピタリストも、一歩間違うと“イノベーションの担い手”みたいな偉そうな立場に捉えられてしまうので、コミュニケーションのあり方にはかなり気をつけないといけないと思っています。社内とのコミュニケーションの重要性を伝えたくて、鳥井さんには業務時間をどのようなことに費やしているかデータをとっていただき、本にもパイグラフを載せさせていただきました。

−−そのような中で本書ではスタートアップ特有のスピード感を理解することの大切さも説かれていますが、スタートアップのスピード感に合わせることと、大企業のルールを守りながら進めることとのバランスはどのように取ればいいのでしょうか?

中垣氏:さまざまな観点からのアプローチが考えられますが、やはりリーガルや決裁プロセスがボトルネックになりがちなので、既存のルールと切り分けて新規事業における独自ルールを設計するケースが多い印象です。それから、組織体制の変更も手段の一つですよね。通常の役員会とは異なるメンバー構成で投資委員会を結成し、あらかじめ決められた範囲内での決裁権を委ねることで、スピードを加速させる方法があります。

−−独自ルールを設計することは難しそうですね、何かポイントはありますか?

鳥井:これも先ほどの話に通じることですが、決してやってはいけないのが既存ルールを批判することです。既存ルールが作られた背景にはそれなりの理由があるのですから、大前提としてそれをリスペクトしないといけない。その上で、オープンイノベーションにおいては既存ルールに当てはめるとうまくいかない部分をかなり丁寧に説明し、コンセンサスを取りながら進める必要があります。

中垣氏:おっしゃるとおり、既存ルールは企業を円滑に運営するために最適化されたものであることが多いので、少なくとも合理性はあるんです。

鳥井:そう思います。そして、オープンイノベーションにはオープンイノベーションの合理的なプロセスが存在する。そこを理解してもらうためには丁寧な合意形成や体制づくりが欠かせません。

−−推進する上で、ポリネーターとしての能力が必要になる部分かもしれませんね。

中垣氏:ただし、そこはポリネーターに全部を任せるのではなく、経営層も理解して守ってあげないと新しいことはできないと思います。企業としてオープンイノベーションをやると決めた以上は、ある程度上層部の人が総論で後押ししていただかないと難しかったりします。

鳥井:ポリネーターは一緒に動いてくれる仲間を探したり、カルチャーを醸成する役割で、スーパーマンじゃないですからね(笑)。

中垣氏:その通りです。ポリネーターが企業変革の中心を担っているかというと、決してそんなことはないんですよ。最終的に会社を変えていくのは経営層であり、一人ひとりの従業員であり、会社そのものですから。ポリネーターの役割は、あくまでも変革のきっかけをつくること。世の中の変化やトレンドをキャッチしながら、社内外を飛び回って新しい流れを生み出す人のことだと考えています。

−−なるほど、ポリネーターはとても自社に向き合っているんですね。自社について考える上で、ミッシングピースや強みについてもいろんな視点で見ていると思いますが、例えばどういう見方をすることが大切になりますでしょうか?

中垣氏:自社のアセットは何なのかを、各社が因数分解して考えていくことが大切だと思います。例えば、顧客基盤とひと言で言っても、顧客とどこでつながっている会社なのかを考えることが大切です。東芝テックさんは国内の小売業界に一番多くのルートを持っている企業だと思いますが、POSという売上管理に直結するクリティカルな領域に携わり、そのライフラインを支え続けることで小売企業と強固な信頼関係を築いてきたと思うんです。一方、コンサルティングが得意な会社で、上場企業の経営陣と多くのコネクションがある場合はそこが強みになるはずで、どちらも提供できるバリューは違いますよね。このように他社にはない独自性の高い価値を明確にできると、全てのスタートアップには刺さらなくても、その領域で商品展開したいと思っているスタートアップにとっては唯一無二の存在になれると思うんです。

日本人は自国を過小評価しすぎている?日本のマーケットのポテンシャル

−−少し話は変わりますが、本書では日本の伝統企業がシリコンバレーをはじめとする海外スタートアップにアプローチする際に押さえておくべき「5つの処方箋」が提示されています。シリコンバレーのスタートアップは、日本企業や、日本のマーケットについてどのように捉えているのでしょうか?

中垣氏:日本のマーケットに対する期待値はかなり高いと思います。実際に東芝テックさんもLP出資されてるDNX Venturesも日本のマーケットにエントリーできる点が他社との差別化要因になっていますし、特に昨今はアメリカから中国のマーケットにエントリーしにくい状況がある中で、次の一手として日本が選択肢に入る可能性は高いと思います。

−−その一方で、日本は高度経済成長期と比べてイノベーションが起きにくくなっているという話をメディア等でよく耳にします。

中垣氏:そうですね、グローバルでビジネスを成功させている会社がないわけではないので、起こっていないわけではないと思います。ただ、象徴的に“あれが日本が作ったもの”と言えるものが昔と比べると少ないのは間違いないと思います。
それに対してテクノロジーの世界では、検索エンジンを作ったグーグルやソーシャルメディアを作ったフェイスブックのように、新しい産業を作って、マーケットリーダーになり、世界経済のリーダーになったというイノベーションはこの20年の間で米国から生まれていますよね。

−−そういう流れの中で、日本では少子高齢化や労働力の低下などが課題となっていますが、それでも海外から見ると魅力的な市場に見えるのでしょうか?

中垣氏:少なくともここから数年〜10年間ぐらい、商売するには十分なマーケットがあると思っています。例えば、アメリカのIT業界でいえば、新しいリーダーカンパニーとして成長しているスタートアップが、自分たちの競合製品が、いかに日本で売れているのかを知れば、日本に参入したくなると思いますよ。十分に魅力があると思います。

鳥井:その意味で言うと、日本人は自分の国を過小評価しすぎている側面もあるかもしれませんね。グローバル規模で見れば、GDPも人口も上位に入っていることを考えると、日本はまだまだ恵まれていますよね。

中垣氏:そうですね、悲観的になりすぎることはないと思います。確かにアメリカや中国には遅れを取ったかもしれませんが、この30年が伸びなかったのであれば、これからは伸びしろだらけと捉えることもできます。

鳥井:競争相手として、世界のトップ1、2を見ている位置にいること自体がすごいと思いますけどね。過大評価は危険ですが、逆に自分たちを過小評価しすぎて国内のマーケットにとどまってしまうのはもったいないと思います。
もっと世界を席巻するんだという野心があったほうがいいですし、恐らく松下幸之助氏のような時代を作ってきた人たちはそれを狙ってたんだと思います。

中垣氏:同感です。だからこそ、日本の大企業の中でポリネーターがどんどん増えるといいなと思っています。既存事業を守ることも大事ですが、大企業ならではのリソースを使って大きな花を咲かせたいという野心を秘めた人もたくさんいていいはずです。そういう人たちを巻き込んでオープンイノベーションを推進していくのがポリネーターの役割ですから。
新しいことをやるのはスタートアップでもいいですけど、大企業の中にいるからこそ大きなことがやれるはずとも思います。

−−そういう野心的な人たちを巻き込んでスタートアップと伝統企業がオープンイノベーションに取り組むと面白いものができそうですね。
では最後に、改めて『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業』のおすすめポイントを教えてください。

中垣氏:私はVCの活動を通じて、さまざまな業界の日本を代表する企業の方々とお付き合いする機会をいただけました。そこで出会った人たちは好奇心や夢をもって動いている人たちが多いと感じていますが、ややもすると、近年どんどんスタートアップが華やかになる中で、“スタートアップじゃないと”とか“大企業はダメ”というゼロサム的に考える人が多いかなと思っています。でも、そのような二元論で考えるのではなく、スタートアップに素晴らしい点があるのと同じように、大企業にも販路や人材、お金、技術、ノウハウ、信頼など、スタートアップにはない強みがあり、大きな夢を見れる場所だと思うんです。
「失われた30年」の象徴として伝統企業にいればいるほど、自分はダメなところにいるんじゃないかと自分の会社に対してもネガティブに思ってしまっている人がいる気がしますが、伝統企業だからできること、やる意味があるということを見出すきっかけになってくれるといいですね。この本で紹介しているポリネーターの方々は、まさに伝統企業の中で大きな夢の実現に向かってチャレンジしています。

その道のりが決して平坦ではないという現実も含めて、新しいことに挑戦している人にとっては多くの気づきが得られるのではないかと思います。オープンイノベーションに携わる方はもちろん、何かにチャレンジしたいと考えている多くの方々に読んでいただけると嬉しいです。

−−ありがとうございます。今回いろいろと話をお伺いできたことで、ポリネーターやオープンイノベーションへの理解が深まった気がします。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。


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