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最新AIとロボティクスを搭載したイオン「グリーンビーンズ」の革新

ここ数年で世の中に広く浸透した、ECやネットスーパーなどのサービス。コロナ禍をきっかけに日用品や生鮮食品をオンラインで購入し、そのまま継続利用している人は多いのではないでしょうか?
富士経済が2023年5月発表した「通販・EC・ネットスーパーの国内市場調査」によると、ネットスーパー市場は生鮮食品や米、飲料類を中心に堅調な需要があることに加え、流通大手による取り扱い品目数の増加やサービス対応店舗の拡充、エリアカバー率向上による利便性向上と単価アップから、さらなる市場拡大が見込めると予測しています。
今回はネットスーパーの最新事例を、「販売革新」編集委員の梅澤聡さんにレポート頂きました。

ネットスーパーの市場が拡大しています。既存のスーパーマーケット企業が取り組んでいる、店舗出荷型とセンター出荷型とタイプが分かれる中で、実店舗を持たず新たなブランドでオンラインによる、主に食品を提供する事業が登場しました。最新AIとロボティクスを搭載したイオンの「グリーンビーンズ」です。

「グリーンビーンズ」とは

イオングループは2023年7月10日、AI およびロボティクス機能を導入した日本初の顧客フルフィルメントセンター(CFC)を物流拠点とする、オンラインマーケット事業「Green Beans(グリーンビーンズ)」を本格稼働させました。
CFC独自のオペレーションとロジスティクス、個々の購買履歴に合わせたサービス、コールドチェーンによる鮮度管理により、快適な買物環境と鮮度の高い商品の玄関先までの配送を実現させています。
イオンは2019年11月、英国テクノロジー企業Ocado(オカド)グループの子会社、英国オカドソリューションと提携、翌12月に100%子会社のイオンネクストを設立しました。そのイオンネクストは、オカドソリューションの持つ最新デジタル技術を活用した買物体験を提供するため、21年に千葉市緑区誉田町でCFCの建設に着手、23年7月10日、CFCに関係者を招き、出発式を執り行っています。
グリーンビーンズは実店舗を持たない、いわゆるネットスーパーです。新たなブランドを立ち上げて、独自の商品と買物体験をオンラインで訴求します。サービス提供エリアは、グランドオープン時は東京の新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、大田区、千葉の千葉市、船橋市、習志野市として、今後1年を目途に東京23区全域へ配送を拡大していく計画です。

2023年7月10日に本格稼働した千葉市緑区誉田町のCFC。
スーパーマーケット50店舗分の規模に相当、
今後は東京西部、埼玉の北部でCFC稼働を計画

“ネットだから新鮮”を強調

今回稼働した千葉市緑区誉田町のCFCは、一般的なスーパーマーケット(SM)の50店舗分に相当するサイズだといいます。今後予定する東京西部の八王子市で稼働させるCFCも50店舗分の規模を持ち、さらに埼玉県の北部に計画するCFCは100店舗分に相当するといいます。これら3つのCFCが出そろえば、首都圏でSM200店舗規模のマーケットになります。“巨艦”センターが大商圏からオーダーを受けて配送するのです。
これとは正反対に、セブン-イレブンが推進する7NOW(セブンナウ)が、最小商圏のオンラインマーケット事業といえます。お客は最寄りのセブン-イレブンの在庫をオンラインで確認し、スマホから注文、最短30分で商品が届く仕組みです。店内の商品をピックアップするのが店の従業員、配達は本部が契約した配送業者が担います。店の周辺、2,000人商圏で成立する商売です。
これまでリアル店舗は、対象商圏を設定して、業態を確立し、チェーン展開を図ってきました。同じように、オンライン事業も、商圏設定を明確にし、商品やサ―ビスを訴求する段階に入っているように思います。
グリーンビーンズは、配送対応時間が朝7時から夜23時までの1時間単位(当日から14日先まで指定可)、最低購入金額(税別)4,000円、送料(税込)330円、440円、550円に設定、配送時間によって変動するとしています。品目数は約2万品目から段階的に開始し、今後1年を目途に5万品目に拡大する予定です。
最低購入金額4,000円の設定では、毎日少しずつ注文する買物には向いていません。一般にSMの買物は週2~3回、購入金額は1回3,000円程度といわれています。そう考えると、グリーンビーンズを積極的に利用する顧客でも、週1回程度の注文になるのでしょう。
それを裏付けるように、グリーンビーンズでは青果物を対象に「1週間鮮度保証」を付けて販売する商品が数多くあります。既存のネットスーパーにおいて、利用者の心配の一つは青果物の「鮮度」です。リアル店舗であれば、買物の際に手に取って確認できます。さらに自宅で買い置きすると鮮度が劣化するので、頻繁にSMに出掛けて、新しい青果物を購入します。
グリーンビーンズでは、頻繁にSMに出掛けなくても、週に1回の注文により、毎日新鮮な青果物を食べられるとしています。ここで消費者に訴えるポイントは、“ネットなのに新鮮”ではなく、“ネットだから新鮮”な青果物が手に入るとする、意識の転換です。生産地から玄関口まで、リアル店舗では実現できない鮮度の高さをお届けする、とメッセージを発しています。

コールドチェーンの実現と、特殊な包装技術により、
“ネットだから新鮮”と、リアル店舗に対する優位点を訴求

3つの革新と3つの柱

上記の点を踏まえて、グリーンビーンズには3つの革新があります。
第1に、産地から倉庫までのリードタイムを可能な限り短縮し、低温を保った状態で運搬していること。倉庫に到着後も外気に触れる時間を最小限にとどめ、3つの温度帯管理を徹底して保管しています。
倉庫からの配送時も、温度管理された荷室を持つトラックでコールドチェーンを実現、お客の玄関口まで高い鮮度を維持しています。こうした産地からお客の玄関先に届けるまで、途切れることのない温度管理を徹底させることで、前述の「1週間鮮度保証」の青果物の提供を可能としています。
第2に、利用するほどにパーソナライズされていく機能を搭載したこと。購入履歴に基づいて、(1年後には)約5万品目になる品揃えからAIがお薦め商品を提案します。他にも、定期購入設定した商品を、必要な頻度に合わせて自動でカートインする「定期購入」機能、気に入ったレシピから必要な食材を検索できる機能など、最適な商品を短時間で選択できるショートタイムショッピングを推進しています。
第3に、オンラインマーケットならではの幅広い品揃え。独自AIにより在庫数を徹底管理、欠品を最小限に抑制。生鮮品、ミールキット、冷凍食品、大容量パック、日本各地の名産品、輸入食材、ベビー用品、医薬品、ペット用品といった商品のバラエティに特徴を持たせています。
大容量パックは、使い勝手を重視した小分け大容量や業務用商品など、配送によって持ち帰りの負担を解消しています。レシピと食材を一緒にしたミールキットは、社内で試食モニタリングを実施、味の確認を経て商品化しています。
冷凍食品はバリエーション豊かに用意、旬の鮮魚をそのまま冷凍した刺し身の提供など、業界最大規模の約2,000品目の品揃えを予定しています。医薬品は一類、二類、三類を取り扱います。イオンのプライベートブランド、トップバリュも、食料品をはじめ、衣料品、住居余暇商品に至るまで幅広く展開しています。

イオンネクスト代表取締役社長のバラット・ルパーニ氏によると、グリーンビーンズには3つの柱、すなわち「イーズ」(簡単)、「チョイス」(選択肢)、「リライアビリティ」(信頼)があるといいます。イーズは購入履歴に基づくAIによる商品提案で買物が簡単になること、チョイスは前述の幅広い品揃え、リライアビリティは「1週間鮮度保証」に代表される鮮度になります。
信頼できる鮮度の高い商品を99%欠品なしでお届けします。われわれの商品の鮮度はゲームチェンジャーになります。すなわち、オンラインだからフレッシュ、これをぜひ日本の消費者に伝えていきたい」(ルパーニ氏)。ゲームチェンジャーの意味を少し強めに翻訳すると、「市場に大変革を起こす」となります。

最新CFCの4つの特徴

こうした「リライアビリティ」を支える物流拠点が、AI およびロボティクス機能を導入したCFCになります。グリーンビーンズでのCFCは、次の4つの特徴を持ちます。
第1に、お客が注文してから商品が手元に届くまで、全て同一のプラットフォームで稼働する「エンドツーエンド」のシステムにより、全体を最適化し、注文を管理していること。
第2に、注文が入ると最大約1,000台のロボットが秒速4mで移動し、生鮮食品や加工食品、日用品など最大約5万品目の商品の中から、6分間で50個の商品をピッキングすること。ピッキングもシステム化して、商品がつぶれたり傷んだりしないように、重いものや固いものを先に、また鮮度を維持するため、常温、冷蔵、冷凍の順番でピックアップするよう、プログラムしています。
第3に、お客が注文した段階で、配送ルートの計算が始まり、同じ地域のお客がどれくらいの商品を購入していて、どのように配車するのが最も効率的かをAIに最適化させていること。その結果、配送効率が上がり、集中する時間帯でも最大限多くの配送枠をお客に提供することを可能にしています。
第4に、入荷からピッキング、配送に至るまで、常温、冷蔵、冷凍の3温度帯管理を徹底し、お客の手元に高い鮮度を維持して商品をお届けすることを可能にしていることです。

入荷した商品のバーコードを読み込み
登録してバラで出せる出荷の体形をとり、倉庫に保管
お客ごとにソートする前段階のピッキング作業。
作業者は表示器の指示に従い、必要な数量をピッキング
注文が入ると最大約1,000台のロボットが秒速4mで移動
約5万品目の商品の中から、6分間で50個の商品をピッキング

超えるべきハードル

以上のような、革新に満ちた事業ですが、超えるべきハードルがあります。
ネットスーパーは、普段はリアル店舗で購入するお客が、買物に行けないときに、その店のネットスーパーを利用するケースが多いことも事実です。
リアル店舗の鮮度に対する信頼があり、“明日は忙しいから、いつものスーパーに注文しておくか”といった流れでオンラインに移行します。
その意味で、リアル店舗を持たないグリーンビーンズは、最初は苦労するでしょう。
しかしながら、購入頻度の高い青果物の「リライアビリティ」(信頼)、5万品目の中から「チョイス」できる選択肢の豊富さ、さらに短時間で注文が完了するAIを活用したお薦め商品による「イーズ」(簡単)機能などにより、顧客をリピーターにする魅力は備わっていると思います。

今回のグランドオープンにあたり来日した、オカドグループCEO兼共同創業者のティム・スタイナー氏は、次のような期待を述べています。
われわれはAIとロボットを駆使した、世界で最も効率的なフルフィルメント・オペレーションを採用することで、ピッキングを含むさまざまなオペレーションを動かしています。それにより、新鮮な食品を玄関先までお届けしています。

(取材・文:「販売革新」編集委員 梅澤聡)

次世代のオンラインマーケット事業「グリーンビーズ」の戦略と、それを可能にするデジタル技術について詳しくレポートしていただきました。注文から商品が届くまでの各プロセスにおいて、AIやロボティクスを活用しながら最適化を図り、効率のみならず品質も追求することでサービスに付加価値を生み出している点が印象的です。リアル店舗の鮮度に対する信頼や、手に取って選べる安心感などを上回る買物体験を提供できれば、今後のエリア拡大や品目数の増加に伴って利用者が急増する可能性もあるでしょう。一方、利用者増とともに配送件数も増えていく中で、“物流2024年問題”にも対応しながらどのようにサービス品質を維持・向上していくのか、AIやロボティクスなどテクノロジーのさらなる進化にも期待したいと思います。


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