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小売、物流、フィナンシャルの課題に挑むケニアのスタートアップ企業たち

先月はテクノロジーで社会課題解決に挑むアフリカのスタートアップ企業の中から、ナイジェリアのラストワンマイル領域に注目して紹介しましたが、今回はケニアのスタートアップ企業を調べてみたいと思います。

「ラストフロンティア」と呼ばれるアフリカでテック系スタートアップ企業が急成長していることは前回お伝えしたとおりですが、JICAによる開発途上国の起業家を支援するプロジェクト「Project NINJA(Next Innovation with Japan)」が発表した資料によると、2020年のアフリカにおける国別スタートアップ資金調達合計額は1位がナイジェリア(3億700万ドル)で、2位がケニア(3億400万ドル)となっています。

さらに2020年に最も大きな資金調達額を記録したのはケニアのフィンテック系スタートアップ企業のDPO Group(2億8,000万ドル)でした。この他にもケニア発のスタートアップ企業が大きな注目を集めているようです。

今回は2021年7月に開催された第1回 Ninja Accelerator in KenyaのDemo Dayに登場したスタートアップ企業を中心に紹介したいと思います。

全ての人に金融サービスを届ける「ファイナンシャル・インクルージョン」を目指す

最初に紹介するのは、2018年創業のKwaraです。ケニアの小規模農家や非正規雇用者は、銀行口座を持っていないことや信用不足が原因で金融サービスを十分に活用できないケースがあります。なお、ケニアでは相互扶助の金融の仕組みとしてSACCO(Saving and Credit Cooperative Organization:貯蓄信用組合)が定着しており、SACCOの会員は余剰資金を利子付きで預金し、資金を必要とする場合は会員の預金を元手に借り入れができます。ただ、SACCOの職員は金融や会計の専門家ではなく、帳簿への記録も手作業で行っていたため、貸借のトラブルも頻発していたようです。

そこに目をつけたKwaraは、SACCOが管理する資金の流れなどの金融情報を可視化するプラットフォームを開発。小規模農家などの信用スコアリングを可視化することで、多くの人びとに金融サービスを活用できる機会を提供しました。

さらに同社のプラットフォームはクラウドサービスを基盤としているため、アフリカでも需要が高まっているオンラインバンキングへの移行も促進。これまで手作業が中心だったSACCOのDX化を促進しトラブル削減に貢献しています。

ジェトロ「ビジネス短信」によると、2019年のケニア就労人口約1,800万人のうち約1,500万人が非正規就労者(暫定値)で、銀行口座や信用情報を持たない人を含む全ての人が金融サービスにアクセスできるようになる「ファイナンシャル・インクルージョン」の実現が重要な課題の一つとされています。Kwaraはケニアだけでなくアフリカの他の国やアジア・南米への展開も検討しており、グローバル規模で「ファイナンシャル・インクルージョン」の課題に挑戦するスタートアップ企業として大きな注目を集めているのです。

配送の遅延やコスト増大をテクノロジーで解決!

Kwaraと同じく2018年創業のAmitruckも急成長中のスタートアップの一つです。同社はDHL、Unilever、Weetabix、Sky.Gardenといった物流業者・EC事業者と個人をつなぐプラットフォームを提供しています。

ケニアでは渋滞などの交通事情や、仲介業者が複数入ることによるコスト増大などで、商品が「時間通り/適正な価格」で消費者に届きにくく、ドライバーに適正な報酬が支払われないという課題があります。同社が開発したアプリでは、消費者が商品情報や配達希望日などの基本情報を入力し、ドライバーはその情報に対して価格を提示。消費者がドライバーを選定して、選ばれたドライバーが商品を配送します。配達状況はアプリでのトラッキングが可能で、問題なく配達された場合のみ決済が行われます。この仕組みにより、物流コストの削減や価格の透明性などが担保され、配送の最適化を実現しているのです。

同社はまずケニア国内での課題解決に取り組み、将来的にはケニア以外の国への進出も視野に入れているようです。

物流・小売の課題解決にチャレンジするスタートアップ企業

物流・小売領域のスタートアップ企業をもういくつか見てみましょう。

2013年創業のSokowatchは、キオスクなど小規模小売業者に資金調達の機会をサポートし、必要なときに商品を注文し店舗で商品を受け取ることができるB2Bプラットフォームを提供しています。

アフリカではキオスクが数多く存在し、個人消費の多くがキオスクなどの販売店で行われていると言われています。しかし、規模の小さい個人店では商品を仕入れに出かけるたびに店舗を締めなければいけないこと、在庫切れによって買い物客が欲しい商品が手に入らないことなどが大きな機会損失となっています。

そこで同社は、販売店オーナーがモバイルアプリで必要な商品を注文し、メーカーの商品を届ける仕組みを構築。低価格で仕入れることで価格や品揃えの競争力強化につながっているようです。

また、過去の購買データをもとに小売業者を評価することで銀行口座を持っていないオーナーに対してもファイナンスを提供しています。さらに、同サービスでは数多くの店舗の売上や注文をリアルタイムに把握しているので、メーカーはこれらのデータをマーケティング戦略に活用し、小売店はSokowatchから個別のプロモーションやビジネスインサイトを提案してもらえるのです。

同社は2020年にシリーズAラウンドで1,400万ドルを調達し、さらなるサービス拡大を目論んでいます。

Demo Dayとは別になりますが、他にも小売業者のサプライチェーン市場を刷新しようとしているスタートアップ企業がいます。2018年創業のMarketForceは、日用消費財の小売流通とデジタル金融サービスのB2BプラットフォームRejaReja」を開発し、小売における流通や金融サービスの最適化を目指しています。ちなみに「RejaReja」はスワヒリ語で「小売」を意味し、同社は小売ビジネスの成長を支援するだけでなく、アフリカの人々がきちんとした生活を送れるような手段を提供することを使命に掲げて急成長を遂げています。


もう一つ、ご紹介したいのがSavo Storeです。同社はアメリカで販売されている商品を購入してアフリカまで届けるプラットフォームを開発。AmazonやWalmart、Macy’sといった大手小売業者の商品だけでなく、アメリカ国内の中小規模の専門店から商品を購入できるのが特徴です。Savo Storeは購入取引から貨物輸送、通関などの手続きも全て代行するため、ユーザーは面倒な手続きなしでアメリカの商品を購入できます。

また、同社はさまざまな航空会社や運送業者と契約を結ぶことで国際輸送コストを50%以上削減しているとのこと。さらに、購入前に関税を含めた見積が提示されるため、越境ECにありがちな「後から高額な関税が請求される」といった不安も取り除いているのです。

さて、今回は2回にわたってナイジェリアとケニアのスタートアップ企業動向をお伝えいたしましたが、他にも2020年資金調達合計額2億6,900万ドルを記録したエジプトや、2020年資金調達額が最も大きなアフリカベンチャー企業トップ10に3社がランクインした南アフリカ、株式投資額が前年度比102%増の1億1,100万ドルに達したガーナなど、盛り上がりを見せている国はたくさんあります。

また気になる情報を見つけたら、他の国のスタートアップ情報もリサーチしてみたいと思います。


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