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【ゴースト・キッチン】大型資金調達が止まらない、アメリカとインドのスタートアップ事情

COVID-19の影響で外出自粛やリモートワークが増えたことで、デリバリー市場が世界的に伸びています。

世界各地で既存の飲食店は営業制限による売上減少を補うべく続々とデリバリーサービスをスタートさせていますが、同時にデリバリー市場に参入し始めたのが、実店舗を持たずにデリバリーに特化したフードサービスを展開する「ゴースト・レストラン」です。

今回は成長目覚ましいフードデリバリー市場の中で存在感を高めるゴースト・レストランの実態と、それを支援するサービスを展開するスタートアップの動向について、先行しているアメリカとインドの事例を中心に調べてみました。

2030年までに1兆ドルの市場規模になる可能性

テクノロジーの発達やスマホシフト、そしてUber Eatsをはじめとするプラットフォーマーの登場により、COVID-19以前からフードデリバリー市場は右肩上がりで成長していました。

英国の市場調査会社ユーロモニター・インターナショナルでフードサービス研究の責任者を務めるMichael Schaefer氏によると、全世界の飲食業界のデリバリー売上が2014年から2019年で約2倍に伸長したと言います。特にデリバリーサービスの需要が高いインドではレストラン売上高の70%、米国では50%をデリバリーが占めているそうです。

COVID-19のパンデミックがもたらした外出自粛、リモートワークの推進、飲食店の営業停止・営業制限、非対面接触のニーズ増、といったさまざまな変化は、このデリバリー市場の拡大をさらに加速させることになりました。

同ユーロモニター・インターナショナルの調査では、世界各国の30〜44歳の消費者の46%が、2020年にテイクアウトまたはデリバリーで食品を注文したことがあると答えたそうです(2019年は34%)。

国内に目を向けてみても、ネット注文によるフードデリバリーサービス市場は2018年が3,631億円だったのに対し、2019年は4,172億円、2020年は4,960億円、2021年は5,678億円と順調に拡大し続けており、2023年には6,821億円になると予測されています(ICT総研調べ)。

この市場に新たなビジネスモデル形態として参入しているのが、実店舗の機能を持たない厨房施設でデリバリー専門のフードサービスを提供するゴースト・キッチン(別名:クラウド・キッチン)です。

ゴースト・キッチンはデリバリー専門の料理を調理するキッチンであることが最大の特徴で、ゴースト・レストランを支える重要なインフラになりつつあります。

ちなみに、ゴースト・レストラン市場が拡大する中で似たような言葉がいろいろと出てきていますね(ゴースト・キッチンゴースト・レストランダーク・キッチンクラウド・キッチンシェア・キッチンバーチャル・レストランなど)。

定義付けには諸説あるのですが

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と、ここでは定義してみました。それから、既存の飲食店のキッチンをデリバリー専門のフードサービス事業者が間借りするパターンもあるようです。

アメリカではUber元CEOが手がけるCloudKitchensをはじめ、ゴースト・キッチン用のプラットフォームを展開する企業が続々と登場し、大型の資金調達にも成功しています。

Michael Schaefer氏は、ゴースト・キッチンが2030年までに1兆ドルの世界的な市場に成長すると、大きな期待を寄せています。

Uber元CEOが手がけるスタートアップは、ユニコーン企業に成長

ゴースト・レストランの発展に伴い、関連するサービスを提供するスタートアップ企業も台頭しています。いくつか海外の事例を見てみましょう。

アメリカでは、第三者企業が運営するゴースト・キッチン施設を各ブランドが共同で利用するビジネス形態が主流となっているようです。先述したCloudKitchensはゴースト・キッチンを含むフードデリバリー事業に必要なあらゆるインフラを提供するプラットフォームとして台頭。使われていない不動産を活用して調理スペースを作り、安く貸し出すことで、多くの新規ゴースト・レストラン事業者を生み出しました。同じカリフォルニアに拠点を置くKitchen Unitedは全国の交通量が多く賑やかなロケーションに複数の事業者が入れるキッチンセンターを設立することで安価かつ利便性の高いサービスを実現しています。

ニューヨークのZuulもゴースト・キッチンのプラットフォームを提供している企業ですが、2020年にバーチャル上のフードホール「Zuul Market」をローンチし、複数のゴースト・レストランの商品を顧客が好きに組み合わせて注文できるサービスを実現しています。

一方、ゴースト・キッチンの可能性を拡張するチャレンジをしているのが、カリフォルニアのOrderMarkです。同社はゴースト・レストラン事業者向けに注文管理プラットフォームを提供していましたが、さらにキッチンの稼働率に余裕がある飲食店向けにバーチャル・レストランのブランドを提供するNextbiteというサービスを展開。既存の飲食店は、Nextbiteにラインナップされている豊富なブランドの中から好きなものを選び、簡単なトレーニングを受けるだけでレシピを作れます。スタッフや設備などのリソースは既存のものを活用できるため、固定費を抑えながら新たな収益源を獲得できるのです。

これらの事例で注目すべきなのは、どの企業も大型の資金調達に成功しているということ。Kitchen United が2018年にシリーズAラウンドで1,000万ドルを調達、2019年にシリーズBラウンドで4,000万ドルを調達して世間を賑わせると、CloudKitchensは2019年にサウジアラビアの政府系ファンドから4億ドルの資金調達を行い、企業価値が約50億ドルと評価されたことで一気にユニコーン企業の仲間入りを果たしたという報道もありました。

その他、Zuulは2020年に900万ドルを調達し、OrderMarkもシリーズCで1億2,000万ドルの大型調達を実現しています。

この傾向から、ゴースト・キッチンが単なる一過性の流行りではなく、投資家からも評価される将来性をもったビジネスであることが窺えるでしょう。

深刻なパンデミック下でも勢いが止まらないインドのスタートアップ

もう一つ、ゴースト・キッチンが発展しているインドの現状も紹介します。

世界有数の経済大国として急成長を遂げているインドでは、オンラインのフードデリバリー市場も右肩上がりで成長しています。グローバルな市場調査会社IMARCは、インドのフードデリバリー市場が2019年に29億ドルに達したと発表。さらに2020年〜2025年の間に年間平均成長率27.2%で拡大し、2025年までに127億ドルに到達すると予測しています。

インドのフードデリバリー市場を牽引しているのが、ZomatoSwiggyの2大サービスです。

Zomatoは2008年に飲食店情報サイトとしてスタートしましたが、2015年からデリバリー事業に参入し、今ではメイン事業になっています。同社は2020年にUber Eatsのインド事業を買収し、サービスを継承することを発表。2021年にはIPOを申請しました。

一方、2014年の創業以来フードデリバリー事業を主軸に活動しているSwiggyは、2017年にクラウド・キッチンのプラットフォーム「Swiggy Access」を開始し、順調にサービスを拡大させてきました。南アフリカ発のNaspersや中国のTencentから資金調達を行い、2021年にはFalcon Edge Capital、Goldman Sachs、Accel、ProsusVenturesなどの投資家から8億ドルの大型資金調達を実行するなど、ライバル企業であるZomatoに劣らない存在感を示しています。

また、いくつかのローカルスタートアップ企業も健闘しています。

例えば、FreshMenuはバンガロールを拠点にグルガオン、デリー(サケットとその周辺地域)、ムンバイの一部地域でサービスが浸透しており、2020年までに合計約2,580万ドルを調達しているようです。

プネを拠点とするREBEL FOODSが運営するFassosはインド全土にゴースト・キッチンを展開。2020年に5,000万ドルの資金調達を行っています。

ニューデリーを拠点とするKitchens Centreに関しては、2019年の創業ながらすでに25都市以上に500以上のキッチンを展開し、PitchBookの情報によると2020年に3億ドルの資金調達に成功しているようです。

大規模なパンデミックによる経済への打撃が懸念されるインドですが、Swiggyをはじめとするゴースト・キッチン事業各社は順調に成長を続けており、投資家からの期待値も高いことが分かります。

IT企業×スタートアップで、ゲームチェンジが起きる可能性も

国内でも、都心部でゴースト・キッチン施設を提供する企業、そこに出店するデリバリー専門のフード事業者は徐々に増えています。その背景には、Uber Eatsや出前館などのフードデリバリーサービスが急速に浸透したことが挙げられます。

近年もバーチャル・レストラン出店サービスやクラウド・キッチン導入サービスを展開する「cookpy(ククピー)」、オンラインデリバリー専門のシェア型クラウド・キッチン「Kitchen BASE」、デリバリー専門のゴースト・レストラン「Ghost Kitchens」、Uber Eats正規代理店を強みにバーチャル・レストランの開業サポートや、バーチャル・レストランのフランチャイズ展開を行う「YO-PLUS」など、新しいスタートアップ企業が続々と登場しています。

今後は、既存の飲食店にデリバリー専門のキッチン機能を提供するサービスや、ゴースト・キッチンの可能性を拡張するような新しいサービスの登場にも期待できそうです。

また、使われていない駐車場や駐車用建物をゴースト・キッチンのような調理施設に有効活用するアメリカ発スタートアップREEF Technologyに対し、ソフトバンクグループが大型投資を実行したり、同ファンドがSwiggyに最大約5億ドルの出資を交渉しているという情報もあり、IT企業が国内外のスタートアップと連携してゴースト・キッチン市場に新風を吹かせる可能性も見逃せません。


今後、COVID-19のパンデミックが鎮火された後の世界で、ゴースト・キッチンの需要がどのように変化するのかも含めて、引き続き注目したいと思います。





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