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2022年、僕の心を震わせた「邦楽」ベスト10

一昨年と昨年は、アーティストもリスナーも、このウィズ・コロナ時代をどう乗り越えるか、というシリアスなテーマに向き合わざるを得なかった年だったと思う。しかし2022年は、これまで音楽シーン全体を覆っていた先行きの見えない不透明な空気が少しずつ晴れていくのを感じさせてくれる1年間だった。何よりも象徴的なのは、ポスト・コロナ時代へ向けて、ライブ/フェスシーンが大きく前進したこと。かつてのような自由なライブ空間を取り戻すことができる日も、決してそう遠くはないと思う。

あいかわらず時代は混沌としていて、国内外を見渡せば、狂ったように悲痛な出来事に胸を痛めることも多いけれど、そうした日々においても、今年も素晴らしいポップ・ミュージックが日本の音楽シーンから続々と生まれていった。僕は、ポップ・ミュージックとは、「今」を生きるアーティストによる、「今」を生きる私たちリスナーのための音楽であると定義できると思っている。2022年の今こそ求められる音、届けられるべきメッセージ、今こそ起きるべくして起きる革新、そして、今こそ台頭すべきニューカマー。今年も、2022年のシーンを象徴するような数々のアーティスト/楽曲と出会えたことが、一人の音楽ライターとして、一人のリスナーとして、何よりも嬉しかった。

今回は、2022年に、僕が特に強く心を震わせられた邦楽10曲をランキング形式で紹介していく。この記事が、あなたが新しい音楽と出会う一つのきっかけとなったら嬉しい。




【10位】
乃木坂46/バンドエイド剥がすような別れ方

乃木坂46にとっての代表曲"君の名は希望"がリリースされてから、もうすぐ10年の歳月が経つ。グループの礎を作ってきた1期生、2期生のほとんどのメンバーは既に卒業してしまったが、乃木坂46が大切に育み続けてきた精神性は、現在グループを牽引する3期生、4期生へと丁寧に受け継がれている。そして2022年、そうした先輩たちの姿に希望を抱いてグループに加入した11名の5期生が、初めてステージに立った。「次は自分が、誰かにとっての希望になれますように」という想いを叶えるために、11人は、"バンドエイド剥がすような別れ方"や"17分間"をはじめとした乃木坂46の王道をゆく清廉なアイドルポップスを携え、今、力強く走り始めた。ここから、国民的アイドル・乃木坂46の次の10年が始まる。


【9位】
KANDY TOWN/Curtain Call (feat. KEIJU, Ryohu, IO)

2023年3月、ヒップホップクルー KANDYTOWNの活動が「終演」を迎える。日本の音楽シーン、またユース・カルチャー・シーンにおいて、再びヒップホップが大きな存在感を放つようになってから久しいが、僕にとってKANDYTOWNは、2016年のメジャーデビュー以降から特に目が離せないクルーの一つだった。音楽ライターの仕事をしていると、どうしても、何か新しい動きを「始めること」に着目しがちではあるのだけれど、こうして正しく「終わらせること」のできるKANDYTOWNは、やはり最後の最後まで信頼できるクルーであると思う。《初めたものを片付けに来たのさ/大抵のやつらはちらかしっぱなしさ》という一節が放つ鮮烈な余韻が、いつまでも消えない。「終演」間際にはなってしまったけれど、KANDYTOWNという同世代を代表するヒップホップクルーが一つの時代をつくったことを、ここにしっかりと書き記しておきたい。


【8位】
Chilli Beans./School

2022年のライブ/フェスシーンを振り返ると、やはりChilli Beans. は、コロナ禍で台頭した数多くのニューカマーの中でも明らかに突出した存在感を放っていたように思う。僕自身、「SUMMER SONIC」で彼女たちのステージを初めて観た時、まさに同日に出演したThe 1975やBeabadoobeeと同じように、これから3人は時代のポップ観を根底から覆していくようなとてつもないバンドになっていくと感じた。6月末に公開した上半期ベスト10の記事において、「語弊を恐れずに言えば、初めてチャットモンチーの1stアルバムを聴いた時に限りなく近い感動を覚えた。とんでもないポテンシャルを感じる。」と書いたが、今、その確信はより深いものになっている。3人が好きな音楽のエッセンスを自由に選び取り、それらを無邪気に大胆に配合したカラフルなロックサウンドは、2023年以降のシーンにおいて今以上の異彩を放っていくはず。


【7位】
にしな/1999

2021年の同ランキングで"ヘビースモーク"を選出した時には既に予感していたが、やはり2022年は、にしなが誇る才能が本格的に開花した1年になった。アコースティックギターの弾き語りというスタイルを軸としながら、様々なアレンジャーとタッグを組むことによって自らの表現の可能性を押し広げ続けてきた彼女の旅路は、この夏にリリースされた2ndアルバム『1999』において一つの美しい結実を見せた。何より特筆すべきは、同作のラストを締め括る"1999"だ。「終末世界」という究極のモチーフを引き合いに出すことでしか表現できなかった普遍的な愛、その壮絶な重みと深みを伝える超重要楽曲で、今後の彼女の新たな代表曲になっていくことは間違いないと思う。何があっても《僕らはきっと変わらぬ愛を歌う》という深い覚悟に、静かに心が震える。


【6位】
SixTONES/Rosy

2020年のCDデビュー以降、ジャニーズの、そしてアイドルの表現の可能性を果敢に押し広げ続けてきたSixTONESの6人にとって、2022年は大きな飛躍の1年になった。年明けに2ndアルバム『CITY』をリリースした後も、彼らは、"共鳴"、"Good Luck!"、"Boom-Pow-Wow!"をはじめとした非常に痛快な新曲を立て続けにリリースしていて、それはつまり、総力を見せたかのように思えた『CITY』は、旅の終着点ではなく、ここから幕を開ける新章のはじまりの地に過ぎなかった、ということなのだと思う。ギラギラとした野心と謙虚な向上心を持つ6人にとって、2022年までの歩みはまだまだ序章に過ぎないはず。これから彼らは、ポップ・ミュージック・シーンのど真ん中でどのような新しい革新を巻き起こしていくのか。そして、どのようなジャニーズ観、アイドル観を令和のシーンに提示してくれるのか。日々、期待は高まるばかり。引き続き、全力で支持したい。


【5位】
緑黄色社会/キャラクター

音楽には、ポップ・ミュージックには、リスナーの人生を彩り、肯定し、救い得る力がある、という深い確信。そして、そのポップ・ミュージックの使命を、自分たちこそが担うのだという鮮烈な覚悟。そうした2つの想いが、この楽曲"キャラクター"において、想像し得る限り最も美しい形で結実している。今年結成10周年を迎えた4人のこれまでの旅路は、決して平坦なものではなかったけれど、しかし、確実に時代とシンクロし始めたこのタイミングで、この至高のポップ・アンセムに辿り着けたことは、4人にとって輝かしい自信に繋がったと思う。初の日本武道館公演&年末の紅白歌合戦への出場を経て、彼女たちは2023年以降も、時代と真正面から向き合いながら自分たちが信じる音楽を歌い届け続けていくはず。その旅路の先に、いつか緑黄色社会が、彼女たちが敬愛する先輩・いきものがかりを超越するバンドになる日がきっと訪れると思う。


【4位】
ELLEGARDEN/Mountain Top

9月9日、渾身の新曲"Mountain Top"がライブで初披露(&同日に配信リリース)された時の衝撃は、今でも鮮明に覚えている。《俺は燃え尽きたい/俺は答えを知りたい/俺は最後の勝負を待ち望んでいる》という言葉に滲むあまりにも深い覚悟を感じ取って、思わず身震いした。そして、ついにリリースされた新作アルバム『The End of Yesterday』は、私たちリスナーの約16年分の期待を、そして希望を真正面から引き受けながら、あの2006年の最高傑作『ELEVEN FIRE CRACKERS』を超越するための壮絶な闘いの果てに生み出された作品だった。言うまでもなく、ELLEGARDENの4人は、その闘いに見事に勝った。2020年代を生きる現役のバンドとして、もう一度ここから新しい物語を紡ぎ出す。『The End of Yesterday』、つまり「昨日の終わり」の先へと新たな一歩を歩み出した4人の姿が、とても眩しい。この日が、この時が必ず来ることを、信じて待ち続けて本当によかった。


【3位】
Eve/Bubble feat. Uta

今や、この国におけるユース・カルチャー・シーン全体を牽引する存在となったEve。そうした絶大な影響力を誇るポジションに至った彼が、2022年の音楽シーンに向けて新機軸のロックを果敢に打ち鳴らしてくれたことが、一人のロックリスナーとして何よりも嬉しかった。エレクトロサウンドとバンドサウンドの新結合によってもたらされるハイエナジーな覚醒感は圧巻で、まるで、ロック体験が抜本的にアップデートされてしまったかのような衝撃を覚える。そして何より、突き抜けるような追い風を受けて空高く飛翔していく歌のメロディは、言葉を失うほどに美しい。僕は今年、5月の東京ガーデンシアター公演、8月の日本武道館公演を観たが、そのいずれの公演においても同曲は感動的なハイライトを担っていた。改めて、とても凄まじい楽曲だと思う。2020年代のロック史を力強く更新する渾身のロック・アンセムの誕生を、全力で祝福したい。


【2位】
米津玄師/M八七

《君が望むなら  それは強く応えてくれるのだ/今は全てに恐れるな  痛みを知る  ただ一人であれ》2022年、この勇壮のアンセムを繰り返して聴くたびに、何度も強く心を奮い立たされる思いがした。いつだって凛と、毅然とした佇まいで、人類を守るための戦いに命を懸けて挑み続けるウルトラマン。その孤高なる存在と深く共鳴し合う同曲は、誰しもが心の奥底に秘める「強くなりたい」という切実な願いに、力強く応えてくれる。米津玄師が音楽を通して伝える「強さ」についての提言は、映画『シン・ウルトラマン』の主題歌という文脈を超越して、これから先いくつもの時代を超えて響き続けていくのだと思う。そして、真の「強さ」とは何であるかを、何度も何度も繰り返して私たちの心に訴えかけ続けていくのだと思う。米津が、これほどまでに強靭で一切の衒いのないメッセージソングを生み出したのは今回が初めてであり、そのポップ・ミュージシャンとしての勇気と覚悟に、ただただ感動した。


【1位】
宇多田ヒカル/BADモード

年明けにリリースされた新作『BADモード』によって、今後のJ-POPの絶対的基準は一気に何段階も引き上げられることになってしまった。その意味で、今作はとても罪深い作品なのだと思う。もちろん、今作をグローバルのポップ・ミュージック・シーンとの接続/共振という文脈において評することもできるが、その観点にのみ依拠してしまうと、この作品の本質を見誤ってしまう。これまでの彼女の作品がそうであったように、『BADモード』は、あくまでも日本に生きる私たちの日々の生活に優しく寄り添うJ-POP作品であり、逆に言えば、今作を2022年のJ-POPシーンの中に正しく位置付けることができなければ、J-POPの歴史はそこで終わる。

宇多田ヒカルのデビュー以降、日本のポップ・ミュージックの歴史は、いつだって彼女の歩みと共に更新され続けてきた。それは、令和時代を迎えた今も同じで、彼女が新しい歌を歌い続ける限り、日本のポップ・ミュージックは、いつまでも進化し続けていくのだとさえ思える。その予感、いや、確信は年を重ねるごとに深まるばかり。これからも、その革新の歴史は続いていくとして、彼女と同じ時代を生きられることが、この国に生きる一人の音楽リスナーとして、何よりも嬉しく、そして誇らしい。


2022年、僕の心を震わせた「邦楽」ベスト10

【1位】宇多田ヒカル/BADモード
【2位】米津玄師/M八七
【3位】Eve/Bubble feat. Uta
【4位】ELLEGARDEN/Mountain Top
【5位】緑黄色社会/キャラクター
【6位】SixTONES/Rosy
【7位】にしな/1999
【8位】Chilli Beans./School
【9位】KANDY TOWN/Curtain Call (feat. KEIJU, Ryohu, IO)
【10位】乃木坂46/バンドエイド剥がすような別れ方



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