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Eve、初の日本武道館公演を通して感じた温かな「親密さ」について。

【8/29(月) Eve @ 日本武道館】

今から約5年前、2017年に初めて『文化』を聴いた時の衝撃は今でも鮮明に覚えていて、あえて語弊を恐れずに言えば、それは、2012年に初めて米津玄師の『diorama』を聴いた時の感覚と非常によく似たものだった。僕がEveに初めて出会ったその時には、彼のアーティストとしてのアイデンティティは既に完全に確立されていて、とてつもない才能との出会いに心の底からワクワクした。そして、この才能に全力でベットしようと決めた。

その後のEveの快進撃については、もはや説明不要だと思う。例えば、"廻廻奇譚"(2020)のクリティカルヒットが最も象徴的なように、彼はシーンからの巨大な期待に堂々と応え続けながら、幾度とないブレイクスルーを繰り返してきた。そして、あれから5年が経ち、今やEveは、音楽シーンだけではなく、2020年代のユースカルチャー全体を力強く牽引していくような非常に頼もしい存在になった。


一方で、彼はコロナ禍に突入して以降、しばらくの間、ライブの場を通してリスナーと直接コミュニケーションする機会を奪われてしまっていた。だからこそ、今年の春に開催された約2年半ぶりのツアー「Eve Live Tour 2022 廻人」は、その失われた時間をリスナーと共に取り戻すかのような非常に感動的なものになった。

僕は5月5日の東京ガーデンシアター公演を観て、その時の感動を次のように綴った。

約100分ほどのライブではあったが、それぞれの楽曲における映像演出の力も相まって、何十本もの映画を一気に観たかのような驚きと興奮が押し寄せてきた。映像演出や舞台演出、サウンドの上質さを含め、この密度、この濃度のライブ体験を提供できるアーティストは、極めて稀である。

僕は、これまでの人生において数え切れないほどのライブを観てきたけれど、それでもなお、これほどまでに深く、まっさらな感動を味わえたことに驚いたし、何よりも嬉しかった。

2020年代は、Eveの時代になる。その確信が更に深まった一夜を振り返る。

今から読み返すと、とても大胆なことを無防備に書き綴っているようにも思えるけれど、その全てが正直な気持ちで、そしてそれは、あれから数ヶ月が経った今も一切揺らいではいない。それどころか、今回の初の日本武道館公演を観て、Eveというアーティストが誇る巨大な才能に改めて圧倒された。


最新作『廻人』(2022)のパートから始まり、『Smile』(2020)、『おとぎ』(2019)、『文化』(2017)へと遡りながら、ラストで再び『廻人』のパートが幕を開ける構成は、春のツアーと同様のものであった。そして、"退屈を再演しないで"で締め括られた本編の後のアンコールで披露されたのは、新たな代表曲となった新曲"Bubble feat. Uta"だ。廻り続ける時間のループを突破して、その先の未来へと歩み出す意志を伝えるような力強い名演だったと思う。

そして、今回の追加公演においては、中盤に"杪夏"、"蒼のワルツ"、"心海" の3曲が追加されていた。ストリングスアレンジで披露されたこの3曲が、言葉を失うほどに美しい心象風景を描き出していく感動的な展開に、思わず何度も息を呑んだ。特に、夏の終わりを歌った"杪夏"は、まさにこの日のために作られた楽曲のように響いていて、《また会えたなら 覚えていたい/この景色をずっと  ずっと  ずっと》という切実な言葉がもたらす深い余韻が、いつまでも胸に残り続けている。Eveにとって、そしてリスナーにとって、ライブという場がいかにかけがえのないものであるか、改めて噛み締める時間となった。


アンコールのMCで、Eveは、「みんなのことは、もう赤の他人とは思っていないので、遊びに来たくなったら、現実逃避したくなったら、ライブ作って待ってるのでまた来てください。皆さん、それまで心を豊かにして、お互い成長した姿で会いましょう。」と丁寧に言葉を選びながら告げた。僕が驚いたのは、そのEveの語り口から伝わる温かな親密さで、それは5月の時と比べても更に増していたように思う。もちろん、追加公演だからこそ、ツアー本編よりもリラックスしてステージに臨むことができていたのかもしれない。それでも、今回は特に、Eveが立つステージと客席の距離がグッと近く感じた。

僕たちはEveの素顔すら知らないけれど、それにもかかわらず、音楽を通してとても近くに彼の存在を感じることができる。それは非常に不思議な体験ではあるけれど、逆に言えば、これこそがライブという親密な場だからこそ得られるコミュニケーションの実感なのだと思う。何度も繰り返しにはなってしまうが、だからこそ、Eveのライブの時間は、いつだってかけがえのない瞬間の連続なのだ。



最後に。言うまでもなく、Eveが誇るのは、決して武道館には収まりきらない破格の才能であり、今回の追加公演2daysは一つの通過点にすぎない。きっとすぐに、もっと壮大な、今は想像も及ばないような美しい景色を見せてくれると思う。引き続き、全力で応援していきたい。




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