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〈僕らはきっと変わらぬ愛を歌う〉 にしな、ツアー「1999」ファイナル公演に至る愛の旅路を振り返る。

【11/17(木) にしな 「1999」 @ LINE CUBE SHIBUYA】

僕が初めてにしなの音楽に出会ったのは、昨年の春にリリースされた"ヘビースモーク"を聴いた時だった。

思わず、耳を疑った。長きにわたるJ-POP史において、これほどまでに美しいメロディが手付かずのまま残されていたことに驚き、そして、その普遍的な響きを放つ流麗なメロディを見事に描き出した彼女のソングライターとしての才能に惹かれた。同時に、純粋無垢さと妖艶さの両方を兼ね備えた天性の歌声に触れ、彼女が誇るシンガーとしての並々ならぬポテンシャルに圧倒された。一聴して、とてつもないアーティストに出会ってしまったと思った。


その年の年末、2021年の日本の音楽シーンを振り返る記事の中で、僕はこの曲について次のように綴った。

ジャンルの多様化とクロスオーバーが著しく進む2021年の音楽シーンにおいて、彼女は、その歌声の力で確固たるポジションを勝ち取ってみせた。このフォークを軸としたポップスには、あえて言ってしまえば音楽的な新規性はない。しかしだからこそ、僕はこの曲を聴いて、とても原初的な音楽の感動を味わうことができた。彼女が綴ったパーソナルな恋心が、その純粋無垢な歌声を通して無数のリスナーに響き、一人ひとりの胸の中に「私の歌」として共有されていく。この現象は、まさにポップ・ミュージックの魔法であり、シンプルに素晴らしい楽曲と歌声が、正しく発見されヒットする2021年の音楽シーンは、とても健全だと思う。

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この記事の中で「あえて言ってしまえば音楽的な新規性はない。」という前置きを用いているが、それは、あくまでも"ヘビースモーク"という楽曲単体を指したものである。にしなは、同曲を収録した1stアルバム『odds and ends』をリリースした後、様々なアレンジャーとタッグを組みながら、冒険心に満ちた楽曲を次々と生み出し続けてきた。

例えば、ドラマ『お耳に合いましたら。』の主題歌に起用された"東京マーブル"は、パソコン音楽クラブと共に制作されたカラフルなダンスチューンで、にしなが誇るポップセンスが最上級に爆発した名曲だった。

また、打ち込みを主軸とした"U+"も彼女にとって新基軸の楽曲で、弾き語り&バンドという形態から解き放たれたことで、紡ぐメロディも歌い方が大きく変化した。


そして、新しい挑戦を通して自らの表現の可能性を押し広げ続けてきた彼女の旅路は、この夏にリリースされた2ndアルバム『1999』において一つの美しい結実を見せる。

例えば、六畳一間の生活をテーマにした"ワンルーム"(初期から存在していた弾き語り曲を正式レコーディング)が象徴しているように、極めてパーソナルな心象風景の中に誰もが共鳴できる普遍性を鮮やかに描き出していく彼女の筆致は、今作においても見事に冴えわたっている。

そうした等身大の心情を歌う一方で、彼女は今作で、今まで以上に深く壮大なテーマにも挑んでいる。特筆すべきは、今作のラストを締め括る"1999"だ。「終末世界」という究極のモチーフを引き合いに出すことでしか表現できなかった普遍的な愛、その壮絶な重みと深みを伝える超重要楽曲で、今後の彼女の新たな代表曲になっていくことは間違いないだろう。


非常に前置きが長くなってしまったが、2ndアルバム『1999』を掲げて開催されたツアー「1999」の最終公演を観た上で感じたことを書き記しておきたい。

まず、新作『1999』の楽曲がセットリストに加わったことによって、にしなの音楽世界の広がりが一気に増した。前作の"ヘビースモーク"や新作の"ワンルーム"のように、半径3メートルの日常における恋心を歌った楽曲もあれば、一方で、青春の刹那的な輝きを讃える"青藍遊泳"のように、果てしない射程を持つ極めて普遍的な楽曲もある。また、上述した"U+"のように、音楽の宇宙へとリスナーを導くスケール感たっぷりの楽曲も、とても豊かで躍動的な響きを放っていた。

そうした新旧の多彩な楽曲たちを通して紡がれるのは、普遍的な愛を巡る深淵な旅路だ。愛を求めて傷付いて、時に塞ぎ込みながら、それでも懲りずに再び愛を求めて生きていく。大切な人のことを全て理解することも、自分のことを全て理解してもらうこともできないけれど、それでも、いつかお互いを心から信じ合える未来を信じながら、懸命に一歩ずつ前へ進んでいく。そうした切実な歩みを温かく肯定する数々の歌に触れて、ライブ中、何度も強く心を震わせられた。

ライブの本編は、何があっても〈僕らはきっと変わらぬ愛を歌う〉("1999")という深い確信をもって締め括られた。本編の全16曲を通して描かれた普遍的な愛を巡る旅路は、その過程における迷いや揺らぎを含めて、とても眩く美しい輝きを放っていたように思う。あまりにも感動的なライブだった。

アンコールでは、先日リリースされたばかりの最新曲"ホットミルク"がライブ初披露され、そして最後は、新作のオープニングナンバーにして、痛快なロックチューンである"アイニコイ"によって大団円を迎えた。音源よりも格段にBPMを速めた性急なアレンジで、そのエネルギッシュなパフォーマンスは、このツアーが終わった後から幕を開ける新章への期待を高めさせるものだった。


改めて、とても巨大な才能だと思う。去年、初めて"ヘビースモーク"を聴いた時にも圧倒されたけど、今回のライブを観てその確信が更に深まった。彼女が誇るシンガーとしての、そしてソングライターとしての才能は、これからきっと、日本のポップ・ミュージックシーンのど真ん中で、今は想像もできないほどのスケール感をもって開花していくと思う。

引き続き、全力で応援していきたい。



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