見出し画像

2021年、僕の心を震わせた「邦楽」ベスト10

ウィズ・コロナ時代、2年目へ突入。先行きの見えない困難な日々において、それでも、いやだからこそ、この逆境を共に乗り越えていくための素晴らしい楽曲が、今年も日本の音楽シーンから次々と生まれていった。そして、2021年の音楽史は途絶えることなく、力強く更新されていった。それはとても奇跡的なことのように思えるし、一方で、同時に明確な必然も感じる。

数々のライブやフェスが中止に追い込まれる中で、例年以上に創作に深く向き合ったアーティストは多いと思う。今という時代に鳴らすべき音や掲げるべきメッセージを模索し、無数のトライアルを通して作品へと結実させる。そうして生まれた楽曲には、「音楽を止めてはならない」という不屈の意志が宿っているのだと思う。そしてそれは、あらゆるアーティストや制作スタッフ、そして僕たちリスナーの総意だ。

ポップ・ミュージックとは、「今」を生きるアーティストによる、「今」を生きる僕たちリスナーのための音楽である。そうした音楽は、その必然として時代との強固な結び付きを内包しており、そして何より変化を恐れない。この1年間、僕は、数々の革新的な素晴らしい楽曲に出会うことができた。このコロナ禍においても、日本の音楽シーンは確実に前進している。心からそう確信できることは、とても幸福なことだと思う。

今回は、2021年にリリースされた邦楽の中から、特に、僕が心を震わせられた10曲を厳選して紹介したい。このリストが、あなたが、新しいアーティストや楽曲との出会いのきっかけとなったら嬉しい。


------------------------------


【10位】
にしな/ヘビースモーク

ジャンルの多様化とクロスオーバーが著しく進む2021年の音楽シーンにおいて、彼女は、その歌声の力で確固たるポジションを勝ち取ってみせた。このフォークを軸としたポップスには、あえて言ってしまえば音楽的な新規性はない。しかしだからこそ、僕はこの曲を聴いて、とても原初的な音楽の感動を味わうことができた。彼女が綴ったパーソナルな恋心が、その純粋無垢な歌声を通して無数のリスナーに響き、一人ひとりの胸の中に「私の歌」として共有されていく。この現象は、まさにポップ・ミュージックの魔法であり、シンプルに素晴らしい楽曲と歌声が、正しく発見されヒットする2021年の音楽シーンは、とても健全だと思う。


【9位】
WurtS/リトルダンサー feat. Ito(PEOPLE 1)

ヒップホップにも通じる軽やかなヴァイブスを感じさせるし、楽曲の装いは一切の衒いのないポップスではある。しかし彼はきっと、バンドサウンドへの強い想いを持っているのだろう。日本の音楽シーンにおいて、ロックが、ポップな表現として受容され消費されるようになって久しいが、彼はそうした流れをむしろ好機として捉えているのだと思う。そして、J-POPシーンの中心地から、極めてラジカルな地殻変動を起こそうと企んでいるはずだ。2020年代、新しいロックの景色が開かれていく予感がする。まだまだ謎に包まれたアーティストではあるが、凄まじいポテンシャルを秘めた存在であることは間違いない。


【8位】
SixTONES/マスカラ

まさに、初期のKinKi Kidsの楽曲にも通じる「憂いのジャニーズ歌謡」の最新型であると思う。常田大希という超巨大は才能が、現行のJ-POPシーンにおける最強のドメインの一つ「ジャニーズ」と接続したことは、2021年の日本の音楽シーンにおける最も革新的な出来事の一つであり、実際に、SixTONESのパフォーマンスを通して生み出される熱狂は本当に凄まじいものだった。いつの時代も、ジャニーズ・ポップスは、その時代における新たな才能によって支えられてきたが、この幸福な関係性は令和時代にも続いていくだろうし、そして、更に加速していく機運も感じている。


【7位】
(sic)boy/Creepy Nightmare feat. lil aaron

あるアーティストや楽曲について、従来的な価値観に基づいてジャンル分けをすることは、この2021年の音楽シーンにおいては、もはやほとんど意味を成さない。「ヒップホップ or ロック」という二項対立そのものが不毛で、そうした捉え方をしようとすると、彼の才能の本質を見誤る気がする。数々のジャンルを軽やかに往来するボーダーレスな音楽性でありながら、一方でヒップホップの揺るぎない精神性が貫かれており、そして、ダーティーでダークなトラックが、彼の記名性を表す通奏低音として鳴っている。もし彼が、アンダーグラウンドシーンから、メジャーシーンへ進撃する時が来たらと思うとゾクゾクするし、意外とその日は遠くないかもしれない。


【6位】
V6/雨

言葉では表し切れないほど深い哀しみが、ヒップホップを基軸とした歌とダンスによって強烈なエネルギーに昇華されていく。その壮絶な展開に、心が震える。ユーロビートから始まり、その後、2000年代にかけて老若男女の背中を押す王道のポップスを追求してきた6人は、その後に、シックでアダルトなダンスナンバーの数々を経由して、ついに最後には、この成熟と洗練の極地へと達した。26年間、誠実に、懸命に、表現の新しい可能性を追求し続けてきた彼らだからこそなし得た快挙であり、そうした歩みは、あまりにも美しく、正しかった。とても感動的なナンバーであり、同時にこの曲は、後進のジャニーズグループの指針となるはずだ。


【5位】
UVERworld/EN

未曾有のパンデミックという逆境の中において、それでもUVERworldは、ライブバンドとして幾多のステージの上に立ち、懸命に走り続けている。そして、このコロナ禍において生まれた新たなライブアンセムが”EN”だ。歌でもラップでもポエトリーリーディングでもない。一人ひとりの観客と魂を直接ぶつけ合うような熾烈な絶唱に乗せて届けられるのは、まるでパンチラインだけを繋ぎ合わせたような魂のリリックである。ラストの《俺達にとって音楽はビジネスなんかじゃねぇ!/これが人生の全て!/見つけろ! お前にとっての「全て」》という叫びが最も象徴的なように、今、自らの生き様をこれほどまでにダイレクトに歌い鳴らすロックバンドは、広い世界を見渡しても他にいないだろう。


【4位】
STUTS & 松たか子 with 3exes/Presence Remix(feat. T-Pablow, Daichi Yamamoto, NENE, BIM, KID FRESINO)

ヒップホップの精神性が、その本質を削がれることも薄められることもなく、ダイレクトにお茶の間へと鳴り響いた。それは、日本のヒップホップ史におけるエポックメイキングな出来事であり、改めて振り返っても、同曲がドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌となったことの意義は深い。近年稀に見る極めて幸福なタイアップだと思う。トラックやラップの素晴らしさについては改めて説明するまでもないが、この楽曲は、松たか子が歌う歌詞も本当に凄い。特に《心の中に残る後悔へ/大切に何度でも呼びかける/ここから始まる/新しい朝に向けて/夢はもう醒めた》の一節は、迷いや後悔を抱えながら生きる私たちの日々を肯定する普遍的な人生賛歌として響く。


【3位】
millennium parade/2992

これは、もはや「今」を通り越して、「未来」のために鳴らされる未知なるポップ・ミュージックである。1992年生まれの常田大希が、1000年先に向けて描いた音と詩の風景は、壮大で美しく、そして切ない。絶望と希望が交互にバトンタッチし合うようにして紡がれるメッセージは、極めて痛切な祈りや願いとして響いていて、この破格のスケールを誇る楽曲が、日本のメジャーシーンのド真ん中で鳴りわたった事実に、僕は強く心を震わせられた。「King Gnu=J-POPシーンへの進撃」「millennium parade=オルタナティブな表現の追求」という安易な二項対立は、もはや成立しない。常田は、この両輪をもってして、日本の音楽シーンに不可逆的な革新を起こそうとしているのだ。その規格外のビジョンに、もはや言葉を失う。


【2位】
ONE OK ROCK/Renegades

ロックは、いつだって時代の逆風に向き合い続けてきた音楽ジャンルである。そんな中、今、全世界的に、何度目かの「ロック復権」の機運が高まりつつあるが、2021年、この日本においてそのムーブメントの象徴を担ったのは、やはりONE OK ROCKであった。単なる原点回帰ではなく、現行のポップ・ミュージック・シーンにフィットする新機軸のロックを生み出すために、彼らは盟友のエド・シーランと共に試行錯誤を重ねた。そしてその果敢なトライアルは、ここに見事に結実している。コロナ禍において、あらゆるロックバンドはかつてない苦境を強いられることになったが、それでも、ONE OK ROCKが示してくれた希望は、計り知れないほどに輝かしいものだった。2022年、ここからロックの反撃が始まる。


【1位】
YOASOBI/三原色

"夜に駆ける"がリリースされたのが、2019年の12月。Ayaseとikuraは、2020年の1年間を通して、一気に時のポップスターの座に上り詰めた。2021年は、バーチャル上の存在として認知を拡大させてきた2人が、テレビ出演やオンラインライブを通して、その等身大の表現者としての生き方を訴求し続けてきた1年間となった。そして、12月の初の有観客公演「NICE TO MEET YOU」にて、ついに2人は、リスナーとの「はじめまして」を果たした。令和の音楽シーンを象徴する2人の華麗なシンデレラストーリーは、その瞬間に一つの美しい結実を迎えたのだと思う。YOASOBIの新しい代表曲となった"三原色"は、まさに、いつかリスナーと直接会う日のための「約束の唄」であり、だからこそ、初めての邂逅の日に歌われた同曲は、とても感動的なものであった。

2021年、YOASOBIの音楽は、僕たちの日々の生活を彩り、支え、肯定するポップ・ミュージックとして、数え切れない人々の人生の一部となった。2022年以降、「はじめまして」の先に続く第二章は、これまで以上に多くの人々と、より深く通じ合うための挑戦の物語となると思う。そしてそれは同時に、ポップ・ミュージックの希望を描いていく物語になると、僕は確信している。


2021年、僕の心を震わせた「邦楽」ベスト10

【1位】YOASOBI/三原色
【2位】ONE OK ROCK/Renegades
【3位】millennium parade/2992
【4位】STUTS & 松たか子 with 3exes/Presence Remix(feat. T-Pablow, Daichi Yamamoto, NENE, BIM, KID FRESINO)
【5位】UVERworld/EN
【6位】V6/雨
【7位】(sic)boy/Creepy Nightmare feat. lil aaron
【8位】SixTONES/マスカラ
【9位】WurtS/リトルダンサー feat. Ito(PEOPLE 1)
【10位】にしな/ヘビースモーク



【関連記事】


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

最後までお読み頂き、誠にありがとうございます。 これからも引き続き、「音楽」と「映画」を「言葉」にして綴っていきます。共感してくださった方は、フォロー/サポートをして頂けたら嬉しいです。 もしサポートを頂けた場合は、新しく「言葉」を綴ることで、全力でご期待に応えていきます。