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戌亥さんと、クセの強い喫茶店にて

鳥を見上げて鶫さんを、サバをかごに入れながらささみさんを思う。
弁当屋に並ぶヒレカツ弁当にともきちさんを思い出し、銭湯を見かけてひょっとして今、日野笙さんがここにいるかもしれないと胸をときめかせる。

あくまで上に挙げたのはごくごく一例なのだけれど、そんなふうに、普段何気なくnoteを読むなかで「その人といえばコレ」みたいなイメージが育まれていくことがある。

いくつかの記事を経て定まることもあるし、一つの記事から受けた鮮烈な印象が「その人といえば◯◯」と定着することもある。
たまにひょんなことからそのイメージががらりと塗り替えられることもあって、それもまた楽しい。

さてそんな私にとって、戌亥さんといえば「タンクトップ」だった。

いやいや、他にもいろいろ紹介したいことはあるのだ。
ピリカさんのやっている音声配信「すまいるスパイス」の初代パーソナリティだったこととか、漫画『僕のヒーローアカデミア』や『ミステリと言う勿れ』、韓国のアイドルグループBTSを熱く推してることとか、カラーセラピストの資格を持っていることとか。

それなのに。
彼女からTwitterのDMで「いま埼玉県某所にいます。◯日の午前中、もし都合が合えば会いませんか?」という旨の連絡をもらったとき、私は「さすがタンクトップの戌亥さん!!」と一人感激してしまった。

全然タンクトップ関係ないじゃんとお思いでしょう。
いまとなっては、私もそう思う。
けれどその瞬間は、タンクトップの持つ颯爽とした自由な雰囲気と突然のお誘いとが、なんの違和感もなく重なってしまったのだ。
私自身はタンクトップが絶望的に似合わない分、タンクトップへの憧れも鮮烈なのかもしれない。

ともかく、指定されていたのはそのDMから二日後の午前中だった。
最初はお互いのいる場所からの中間地点でお茶できればと思ったものの、よさげなカフェ探しは難航した。
結局戌亥さんのお言葉に甘えて、戌亥ファミリーに私の住む町に来てもらうことに。

私がお誘いしたのは、いかにも古風な喫茶店。
ご近所さんに「いつ行ってもガラガラだけど、モーニングはわりと豪華」と教えてもらってから、ずっと気になっていたのだ。
私たちは時間の許すかぎりおしゃべりしたいから、きっとガラガラの方がいいだろう。

お店のURLを送った翌朝、戌亥ファミリーが私の町にやってきた。
この日はあいにくの雨で、少し肌寒い日だった。
先に店内に入ってお店のおばちゃんに「あとで車で友だちが来る予定」と伝えたら、彼女は「こんな雨の日に繁盛するなんて、いったい何が起きているんだか」とブツブツ呟いた。

たしかに店の奥では大学のサークルっぽい5〜6人の男女グループが賑やかにモーニングを食べている。
おばちゃんは私と雑談したりテーブルを拭いたりと、店内をトンビのように旋回しながら常に彼らの動向に目を光らせていて、お皿が空くや否や威勢よく靴音を響かせて下げに向かった。

そんな彼女の様子をこわごわ見守っていたらお店のドアがカランと開いて、シュッとした女の人が入ってきた。

あ!戌亥さん!

この日の戌亥さんはもちろん全然タンクトップじゃなくて普通におしゃれなシャツをお召しだったのだけれど、それでも「きっとこの人!」という確信はビビッとくるものらしい。

「るるるさん!はじめまして、お待たせしました〜!」
「いえいえ、来てくださってありがとうございます!」

そんな挨拶を交わしていたら、すかさずおばちゃんが現れて「傘は店内に置いて」と感動の「はじめまして」に一枚噛んできた。
いや、さっきからキャラ濃すぎじゃない?

気を取り直して紅茶を選び、モーニングを注文する。
分厚いトーストに、ベーコンエッグ、サラダと、食後にフルーツ。
紅茶ポットと一緒に運ばれてきた、布帽子みたいな保温カバーもかわいい。

おしゃモーニング。画面左奥に写っているのが保温カバー。

そして私たちは、いろんなことを話した。
戌亥さんの新しいお仕事の話や旦那さんとの馴れ初め、彼女がワーホリで行ったオーストラリアの話、そしてお子さんの保育園の話。
そして私の、彼氏とその両親との旅行の話や、埼玉を離れる寂しさなどなど。

ちょうど彼氏との同棲先が決まって慌てふためいていたところだったので、「クロネコヤマトのコンテナ便なら1万5000円くらいで運んでもらえるよ!」というアドバイスも、もうとにかくありがたくって。
今はまだ手で持てるものだけ新居に運び込んでいる状態なので、引っ越しにトドメを刺すときに使わせてもらおうと目論んでいる。

一通り食べ終えてゆるゆるとしゃべっていたら、なんと戌亥さんの旦那さんとお子さんもご来店。
あらやだ、もうそんな時間!?と焦ったのもつかの間、彼らは通称パリピ席(と私が呼んでいる)店内中央の巨大テーブルに座って、サンドイッチやらババロアやらコロッケやら、次々に注文し始めた。
時計を見上げると、知らぬ間に二時間近く経っていた。

まだまだ話したいけど、お二人が食べ終わったら帰る雰囲気になりそうですよね。
そうヒソヒソ話して、戌亥さんと音声配信を録ることに。
初めて知ったのだけれど、noteの機能で5分だけ録れるものがあるんですって。

そして第一回は私のエッセイ集『春夏秋冬、ビール日和』のご紹介とぬか漬けの話、第二回、第三回は戌亥さんの推し漫画と三度に分けて収録した。

戌亥さんってば、相変わらずお声が素敵。
あたし生で聞いちゃったわよ!戌亥さんの艶やかなお声を!
そう戌亥ファンの人たちに自慢したいくらい、贅沢な経験だった。

音声を録っている最中に、お子さんがこちらに来て戌亥さんに話しかけ、ふくふくしたほっぺを膨らませてババロアを召し上がっていた。
いつも戌亥さんの投稿や音声「日常の一コマ」を聴いている人は重々ご存知だと思うんですけど、この子めっちゃかわいいんですよ!
バラ色の頬にあどけない声、そして好奇心に輝く瞳。
もう、「主人公はこの俺だぜ」感がハンパない。
ぐあー、かわいい〜〜!!!
もうねもうね、ついニヤケてしまうかわいさなの!

再会を約束して戌亥さんたちを見送った数日後、あの喫茶店を教えてくれたご近所さんに会った。
「喫茶店行きましたよ!」と言ったら「どうだった?」と聞かれたので、モーニングはおいしかったしお店の雰囲気もよかったけれど、おばちゃんがめっちゃ俊敏に皿を下げに来るから一人で行くのはちょっと緊張するかも、と正直に伝えた。

すると彼女は、「そこがいいんじゃない。ばあやみたいで」と泰然と言った。
彼女は食べ終えた瞬間に皿を下げにくるおばちゃんをお屋敷のばあやに設定し、「ばあや、トーストの皿が空いたわ。食後のフルーツを持ってきてちょうだい」とか「ばあや、水のグラスがもうすぐなくなるわ。注いでもらえるかしら」と心の中で呼びかけているらしい。
そしてせかせかと動き回るばあやのことは気にせず、持参した本を優雅に読んでいるらしい。
メンタルが、妄想力が、強すぎる。

戌亥さんが来てくれなかったら、たぶん行くことはなかった喫茶店。
「いつもガラガラの喫茶店」だったその店は、戌亥さんとお茶した「思い出の喫茶店」になり、そしてご近所さんの手によって「ばあやのいる喫茶店」になった。

そんなふうに喫茶店のイメージはガラッと変わった一方で、「タンクトップの戌亥さん」は私の中では依然として「タンクトップの戌亥さん」である。
行動力に溢れていて爽やかで、チャレンジャー。でも人への配慮も、人一倍。
そんなnote通りの素敵なお人柄に、「私も新天地、切り拓いていこう」とエネルギーをもらった。
いや新天地に行く前にもう一度あの喫茶店に行って、今度は「ばあやを召し抱えるお嬢様モード」で楽しんでみたいけれど。

いかにも初夏の気温になってきた今日この頃。「戌亥さん、そろそろタンクトップ出すのかなぁ」と空に目を細めて、一人クスクス笑っている。

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