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ものすごい英訳 -リクライニング仏陀と〇〇ランドバスツアー- #045

最近、友人からとんでもないことを教わった。

仏が横になっている姿の「涅槃仏」(ねはんぶつ)というのがあるのだが、その英語訳が「リクライニングブッダ(Reclining Budda)」だというのだ。

これはものすごいことになっている。

たしかに仏は横になっている。しかし「リクライニング」はないのではないか。

リクライニングと聞くとやはり、まず浮かぶのは「リクライニングチェア」である。背もたれの角度を調整する機能のついたイスのことだ。マッサージチェアはもちろんのこと、飛行機や新幹線、車などの乗り物の他、オフィスでのイスやゲーミングチェアなどにもその機能がある。

背もたれを倒して身体を深く沈みこませ、ほっと一息つく。

「極楽、極楽」

極楽浄土。

たしかに仏はその境地に至ったのかもしれないが、これはきっと意味が違う。仏は横になった姿勢をしてはいるが、それは何もただリラックスして、ゴロゴロしているわけではないだろう。

「仏が横になってテレビでyoutubeを観ている。ポテチを食べながら」

なんなら私も一緒に横になりたい。仏がどんな動画を観ているのか、ポテチにどんな感想を言うのか気になるところである。

漫画『聖おにいさん』の冒頭で、下界に降りてきたブッダがアパートの畳の上で横になって寝ていると、窓から部屋に入ってきた鳥たちが次々と彼の上に止まっていく。彼は言う。

「今日はコレ、涅槃とかじゃないから!」

「リクライニング」と聞いて思い浮かぶのは、その『聖おにいさん』の緩いイメージである(下リンクのトップページでその部分が読めます)。

『超カンタン英語で仏教がよくわかる(大來尚順著)』によると「涅槃(ねはん)」というのは、「人間の迷いがなくなった状態」「悩みや苦しみから解放された境地のことで、仏教のゴールとされている。「解脱(げだつ)」も同じ意味合いだ。「涅槃」は「ニルヴァーナ(Nirvana)」と英訳されている。

実際「涅槃仏」には「Nirvana Budda」という英語表記もあり、こちらは「リクライニングブッダ」と比べて違和感がなく安心である。


涅槃仏の英訳を教えてくれた友人がもう一つ教えてくれたのは、「浄土」が「ピュアランド(pure land)」と英訳されていることだ。

煩悩やなんの苦しみもない状態を‟pure‟と表現するのはわからなくはないのだが、こう言われたらどうか。

「私達と一緒に、ピュアランドを目指しませんか?」

これはちょっと怖い気がする。

一体どこに連れていかれるのだろう。あまりにポジティブすぎる言葉に、逆に警戒心が湧いてくる。

前掲書の大來尚順さんは「浄土(清らかな世界)」について、「イメージは、まったく苦しみのない理想郷です。ディズニーランドのような夢の国だと思ってください」と説明している。そんな世俗的なテーマパークのイメージでよかったのか。

「リクライニングして、ディズニーランドに行きませんか」

バスツアーである。楽しそうだ。これが修行になるのだろうか。欲にまみれているのではないか。

(なお著者の大來尚順さんは浄土真宗本願寺派のご住職で、米国仏教大学院修士課程を修了、ハーバード大学神学部研究員をされていた方である)

私は普段、心理職としてマインドフルネス瞑想を教えたり、自分でもその時間を持つようにしている。でも、欲にまみれているし、怒りや悲しみに圧倒されることもたくさんある。

いつか私も涅槃の境地に至る日もくるのだろうか。そう思いつつも、ポテチを食べながら横になり、好きな動画を観ていたりする今日この頃だ。

(追記1)
Nirvana Buddhaと訳されている涅槃像(画像1)を見た妻は、「…これ、乳首出すぎじゃない?」と言った。

Reclining Buddhaの仏像(画像2画像3)は袈裟で乳首が隠れているため、我々の間でニルヴァーナとリクライニングの違いは「乳首が出ているか否か」ではないかいう説が浮上した。

(追記2)
『勇者ヨシヒコ』(テレビ東京系ドラマ)にでてくる、非常に人間らしく俗っぽい「仏」(佐藤二朗)が好きだ。分かる方がいたら嬉しい。仏には子どもがいて、好きなものを聞かれたその子は「お肉ですね。お肉なら何でも好きです」と言っていた。欲にまみれている。

(追記3)
伝説的なロックバンド「ニルヴァーナ」のバンド名の由来も「涅槃Nirvana」である。ボーカルとギターを担当していたカート・コバーンは「詩的で美しくて響きのいい名前を付けたかった」と言う。またバンドのベーシストだったクリス・ノヴォセリックによると「この言葉自体には意味があるけど、特に深い考えがあったわけじゃないんだ」とのこと。

「おれたちの音楽を聴けば、涅槃に至れるぜ!」という意味だったら面白いのになぁと思う。きっと世界各地で、彼らの音楽を聴く修行は大流行だ。

参考(サイト1サイト2

(追記4)
『超カンタン英語で仏教がよくわかる(大來尚順著)』は仏教の用語や概念を英語で考えると分かりやすいというコンセプトで書かれており、とても興味深かった。とくに「業(カルマ)」が‟action‟「諸行無常」が‟Everything is changing‟(すべてのものごとは変化している)と訳されているのがわかりやすく、衝撃的だった。

2024年2月22日執筆、2024年2月25日投稿

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