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次の駅までのひとときに

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わたしのなんでもないエッセイ
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2020年5月の記事一覧

クリームチーズのみそ漬けに恋をして

クリームチーズのみそ漬けに恋をして

28歳の酒豪ともなれば、行きつけの店のひとつやふたつ持っているものである。それぞれに必ず頼む「お決まりメニュー」があって、その味はしっかりと舌に染みついている。

ふいに恋しくなって、今すぐにでも口にしたいのに近くのスーパーやコンビニでは手に入らなくて、衝動が加速することもしばしば。

2月の中旬以降、もう3か月以上も外食していない。「あの店のあのメニューが食べたい!」欲求はただ今絶賛無双中。

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生命の息吹はお断りしますけど

生命の息吹はお断りしますけど

「生命の息吹の練習をさせていただけませんか?」

公園で突然おじさんに声をかけられた。

音も流さずに振り付けを確認していた私たちはぴたりと踊るのをやめ、その中肉中背の冴えない男に不審と好奇の目を向けた。

当時私は大学のよさこいサークルに所属し、柄にもなく踊り狂っていた。考えなくても体がひとりでに動き出す。指先に感情を乗せひらり、太鼓のリズムで飛び、風を切って回る。それまで勉強一筋だった文学少女

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さよなら、ばくだんおにぎり

さよなら、ばくだんおにぎり

ぴったりとくっついたラップの端を指先ではがす。狭いキッチンに広げ、くいっと手首をスナップさせ切り離したら、まんべんなく塩を。

炊飯器をオープン。覗けば少し黄ばんだ昨夜の白米。プラスチックのしゃもじにどっしり重みを感じるぐらい乗せたらそのままラップへ。平らになるよう軽く広げ、端から両手で包み込む。薄いラップ越しの熱は乾燥した皮膚に刺すように伝わってくる。「あっつ、つ、つ」ソフトボー大のそれが声と同

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