月次 (つきなみ)

短い小説を書いたりイラストを描いたりしています。ブログから移行しました。月並みな話を、…

月次 (つきなみ)

短い小説を書いたりイラストを描いたりしています。ブログから移行しました。月並みな話を、ちらりと覗いていただけると嬉しいです。

マガジン

  • 一話で終わる短編

    単発の話を纏めています。続きができたものは別のマガジンに移します。

  • 空想の部屋

    短編小説『空想の部屋』です。作り物の世界の話です。全3話完結。

  • 自作品語り

    自作小説の解説です。ネタバレになりますのでご注意ください。

  • 海底と空洞の目

    短編小説「海底と空洞の目」です。何かが見えている人の話です。続話を書いたら追加します。

  • 影憑き

    短編小説「影憑き」です。死者と生者が入れ替わる現象の話です。どこから読んでも分かる内容になっていますが、番号順を推奨します。続話を書いたら追加します。

最近の記事

繋がらない縁

 地面に連なる細い線で描かれた円の羅列に、眉を顰めたのは私だけではないはずだ。といってもその意味は恐らく異なる。これを不快に思った人の多くは「こんなところに落書きしやがって」と苛立ち、そうでない人はむしろ微笑ましく感じているだろう。懐かしさを湛えた子供の遊びとして、けんけんぱ、と呟きながら。  しかしこれは違うのものだ。円はひたすら続いているが、不規則に乱れてもいる。それゆえにテンポよく飛び込みたくなる箇所もあるが、よくよく見ればめちゃくちゃだ。ただ道をふらふらとゆく、千鳥

    • 開けない、開かない、開けたくない

       断捨離というわけではないけれど、身の回りの物を整理し始めていた。目の前のクローゼットには何年も放置している箱がいくつもある。大小さまざま、いざ開けてみたら空なんてこともあった。しっかりした作りだから捨てるのはもったいないと思ったのだろう。紙製だけど厚くて丈夫。蓋に紐が付いていて、ぱかっと開くと蓋の裏に鏡が貼り付けられている。  少しだけ淀んだ空気を感じて、これは捨てたほうがいいな、と思った。こんなにちゃんとした物なのに、どうやって手に入れたのか記憶にない。掘り出した物は思

      • 空想を掲げかけあがる(空想の部屋 3)

         真夜中だというのに、観測者のコミュニティルームでは騒ぎが続いていた。深夜零時なんていつもならもっと閑散としているのに、今日は画面上のコメントがどんどん更新されていく。目も手も追い付かないほどだ。  二十二時には帰ってきているはずの同居人からは、遅くなるという連絡があった。彼はこの騒動の原因のひとつだから、それも仕方のないことだ。こちらとしても帰りを待っているわけではなく、寝ていてもよかったのだけど、この状況ではどうにも寝付けなかった。  架空のキャラクターの生活を眺める

        • 作品解説:『影憑き』についてのあれこれ

          唐突に始まる自作小説語りです。以前のブログでは裏話も晒していくよ!と言っていたのですが、物語を書きたい気持ちのほうが大きくなってしまい、結局晒すというほど書いていませんでした。放置、よくない。 ここからは内容に触れていますので、興味を持ってくださった未読でネタバレがお嫌な方は、先に本作を読んでいただけると嬉しいです。 『影憑き』という話は死者と生者が入れ替わる理不尽に見舞われた人を淡々と書いていて、派手さもなく設定はゆるいです。ガバガバ。ツッコまれたら何も言えません。私の

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        • 一話で終わる短編
          11本
        • 空想の部屋
          3本
        • 自作品語り
          1本
        • 海底と空洞の目
          2本
        • 影憑き
          4本
        • 終焉をつなぐ軌跡
          2本

        記事

          空想は底でうずくまる (空想の部屋 2)

           やり過ぎたかなあ……という呟きとともに椅子が軋む音がした。フューリーは腕を組んで首を傾げ、うーん、と唸る。鈍く光るモニターは暗い色をしたまま、地面に横たわる物体をぼんやりと映していた。白いシャツがかろうじてそれを人だと認識させる。何階だったか忘れたが、明らかに助からない高さから落ちたのだ。既に命は尽きているだろう。  私は直前に届いた通知を確認して、自分のキャラクターを表示させていた。画面上の彼はそろそろ就寝時間のはずなのに、珍しく来客があったのだ。部屋の入り口で立ち話を

          空想は底でうずくまる (空想の部屋 2)

          空想の端にぶらさがる (空想の部屋 1)

           千切れた腕を大事そうに抱えて、女の子は満ち足りた顔をしていた。その腕は血を流さず、離れるべくして離れたように綺麗な切断面を見せている。骨らしき物に肉らしき物、繊維状の何か。何でできているのかは分からないけど、作り物なのに本物に見えてしまう。だけど実際は精巧でも何でもない、腕という記号みたいなモノだ。  決められた時間に扉は閉じられる。男の子はいつもどおり部屋を出て行こうとして、女の子に腕を掴まれた。行かないでと言いながら放さない女の子を困った顔で見ているうちに、扉は静かに

          空想の端にぶらさがる (空想の部屋 1)

          海底と空洞の目 2

           見えない不穏が教室を支配していた。見えないのに、火を見るよりも明らか。最初はここまでじゃなかった。でも、確実に始まっていた。それがいつしか、誰にでも分かるような気配に変わった。  クラス内ヒエラルキーで上位のグループは、どうしたって力を持っている。自称霊感少女の属していた下位グループを自認する人たちは一緒になって騒いでいたはずなのに、今やすっかり下僕のようだ。取り巻く空気が従属を強要しているように見える。あの時から。  空き教室から節子と二人で見ていたあの場面。何かが変

          海底と空洞の目 2

          海底と空洞の目 1

           自称霊感少女というやつ。あそこがなんだかイヤだと言った瞬間から、私も私も、と賛同者が一挙に押し寄せた。祭りでも始まったかの勢い。確かに暗く人気の無い場所は気味が悪い。でもさぁ、あそこで自殺者が出たとか、聞いたことない話をでっち上げるのは違くない? 調べたわけじゃないけどさぁ。地縛霊がどうとか、今まで無かった事実がいきなり現れて、こうも話題を掻っさらうのはなんだか作為的。みんなの顔も興奮気味で楽しそうだ。  ウソ、とは言い切れないけども。限りなく嘘くさい。まあ、どっちでもい

          海底と空洞の目 1

          ここから先は異世界

           起こらないはずのちょっとした受難の話をしようと思う。理不尽と言えば理不尽、悔しいと言えばもちろん悔しいが、笑い話と言えなくもない。  なんか壮絶だなあ、と素直な感想を述べたところで、それあなたが言います? と笑われてしまった。私は今頭から水浸しである。殴られるよりましじゃない? いやあ、どっちもきついな。のんきな会話をしながら、目の前で知り合い程度の男女が言い争っているのを眺める。女性が一方的に男性をポカポカと叩きまくっていて、ありとあらゆる罵声を浴びせ、男性も負けじと言

          ここから先は異世界

          影憑き 4

           初めは記憶の曖昧さで混乱していた。二人分の過去が入り乱れてどれが誰なのか判らず、時間とともにあれはあっち、それはそっち、と自然に分かれていくまで、自分が「どっち」なのかすら判断できなかった。正確に言えば、今でも確信を持てるわけではない。周りが自分をそう呼び、体に残る痕跡があり、それらが示すのが「あっち」であり「そっち」であり、その上でこうなったから「こっち」なのだろうと、そう思っているだけだ。   統合と言うよりは収束。そこに至るまでに自分の中で起こっていたのは、ひとつひ

          影憑き 3

           気配を感じないお前は幽霊みたいだと言われた記憶がある。たった一度だけなのに、ずっと頭にこびり付いている。そのとき私は息を殺して生きている自分に気付いた。誰も私を見ないでほしい。目を向けず、興味を持たず、通り過ぎてほしい。そうすれば傷付くこともないのだと。  気付かなければよかったのだ。けれども母の放った言葉は、忘れられない一言として刻まれてしまった。私は何度も反芻して、深く深く、抉られるように付いた傷を、自分で引き裂いていた。  母との二人暮らしは息の詰まるものだった。

          影憑き 2

          「私たちの息子は死にました」  母親の声には確固たる決意が表れていた。確かに、彼らの息子は二週間ほど前に亡くなり、既に遺骨と化している。葬儀が終わりひとつの区切りが付いたとしても、長い人生を思えばまだ二週間。憔悴した表情が次第に強張ってゆくのを目にする前から、無理なことは分かっていた。むしろすんなり受け入れるほうが珍しい。  目覚めた少年は記憶を有しており、自分はトナミユキだと名乗った。調べると確かに戸波行という人物は存在しており、そして事故死している。しかしその記憶が本

          影憑き 1

           ガラス越しにベッドに座っている若い男は、既に白い靄を纏っていた。その姿で平然としていられる者はほぼ居ない。大抵は恐怖に怯えるか、諦めたように空を見詰めている。稀に抵抗し続ける者も居るが、何れにせよまともな状態とは言い難い。男もこちらに気付いて睨み付けてくる元気はあるものの、その顔はやつれて疲れ切っているのが分かる。歳の頃は三十歳前後、がっしりとした体躯をしているが、それが余計に悲愴感を漂わせていた。  しかしまだ表情が判別できる。進行すれば体の全ては灰色の靄に覆われ、ぼや

          終焉をつなぐ軌跡 2

           魔法使いの伝説で不思議に思うことはない? この伝説を我々がどうやって知るに至ったのか。誰も見たことのない球体の存在が、どうして伝説と化したのか。これは種明かしだから、聴きたくなければここでやめよう。  真実というのはそれほど整ったものではない。もしかしたら期待外れかもしれないよ。それでもいいなら話そうか。  実際のところ、球体は彼一人のものではなかったんだ。創ったのも維持していたのも彼ではあったのだけど、その中に招かれた人間というのが何人かいた。彼は優秀な魔法使いだから

          終焉をつなぐ軌跡 2

          終焉をつなぐ軌跡 1

           一人の魔法使いがいた。優秀な彼には幼い頃から創り続けているものがあり、それは長い年月をかけて構築された、小さな世界の始まりだった。  球体に収まったひとつの宇宙。最初は誰も知らない秘密の部屋が、一軒の家となり、集落となり、都市となり。世の中のあらゆることを知る度にその知識を蓄える場として、世界は少しずつ拡がっていった。  野望があったわけではない。彼はただ純粋に、箱庭で遊んでいるだけだった。楽しい玩具として、やがて日々の息抜きとして。人形を設置して、まるで生きた都市の如

          終焉をつなぐ軌跡 1

          温度

           カラッカラに乾いている私の傍で何方かがシメシメと湿り出した。 連れが現状を語っていたのを聞いてしまったのだろう。つらい、かなしい、せつない、そんな境遇への哀憫を目の端に湛えて、鼻の奥に込み上げる同情を軽く啜り上げる。わあすごい。赤の他人の話をこんなに真っ直ぐに受け止める素直な心。盗み聞きになってしまった居心地の悪さなど感じてはいなさそうだ。かわいそう、という呟きまで聞こえてきた。おねえさんたち、それは余計な一言ですよ。  目の前の友人はその反応に一瞥をくれるものの、満足も