遠山雄亮/将棋プロ棋士

プロ棋士/棋士会副会長。Webを使った将棋の普及活動に尽力し「Yahoo!ニュース」な…

遠山雄亮/将棋プロ棋士

プロ棋士/棋士会副会長。Webを使った将棋の普及活動に尽力し「Yahoo!ニュース」などで執筆中。note社より「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」発売中。「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」も発売中。趣味はテニス・相撲観戦。家族は妻と猫2匹(元保護猫)。

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新刊『イチから学ぶ将棋のロジック  三間飛車編』9月22日発売開始!

9月22日に新刊が発売開始となりました。 定跡書ではなく上達書本書の大きな特徴は、「将棋のロジックを学ぶ」にあります。 三間飛車を戦法の中心に据えていますが、定跡書ではありません。 あくまで「上達書」なのです。 メインとなる対象は、初段を目指す級位者の大人の方です。 お子さんでも高学年以上なら理解できる内容だと思います。 そして初段以上の方でも、必ず学びがあるはずです。 上達書なので、三間飛車を指さない人でも参考になる内容です。 振り飛車党であれば必ず役に立ちますし、居

    • AIの勝率表示と体感との乖離~自戦記 松尾八段戦~

      一次予選の決勝で、モバイル中継で配信のあった対局でした。 後手で角換わりへ進み、リードして終盤戦へ。 しかし踏み込みを欠いて追い詰められていきました。 後手△が私です。 ▲5二角成と角を成ってきたところ。この手が詰めろになることをウッカリして慌てました。 (▲3三と△同桂に▲3二馬が好手で、以下詰みとなる) 実戦は秒読みの中、時間ギリギリで△8三金と着手。飛車の横ぎきを通して詰めろを防ぎました。 しかしこの場面で△8三金とただ受けるだけの手を指すようでは、負けだと思いま

      • 逆転を導いたタイムマネジメント~自戦記 門倉五段戦~

        予選の決勝で、モバイル中継で配信のあった対局でした。 序盤で失敗、中盤でもチャンスを逃して完全な負け将棋に。 諦めかけていましたが、自玉が詰みそうで詰まず、逆転ムードに。 後手玉は▲4四金△5六玉▲5七歩△6五玉▲7五金、という順で詰めろがかかっています。 自然なのは△6七歩成です。相手玉を追い詰めながら、自玉を安全にしている、ように見えます。この手が第一感でした。 ところが△6七歩成だと▲4四金△5六玉▲5七歩でとん死します。 △5七同とに▲6六金まで。△6七歩成は

        • 研究と実戦の違い~自戦記 松尾八段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 先手で角換わり腰掛け銀に。 序盤戦、相手の工夫に頭を悩ませました。 1つ目の図が実戦で表れたもの。 2つ目の図は定跡とされている進行です。 先日noteに書いた記事でも取り上げたものです。 現代角換わり腰掛け銀2023 ~「▲4五桂」をめぐる冒険~ 違いは後手の玉が3一か4二か、というもの。 後手が途中で手損をした(6二の金は7二→6二と動いた)ことにより、定跡では3一にいる後手の玉が実戦の図では4二にいます。 玉の位置という

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        新刊『イチから学ぶ将棋のロジック  三間飛車編』9月22日発売開始!

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          現代角換わり腰掛け銀2023 ~「▲4五桂」をめぐる冒険~

          はじめに noteに現代角換わり腰掛け銀について書いてから早3年。 時代は流れ、現在では、藤井聡太竜王の得意戦法として猛威を振るっています。 ここから、現代角換わり腰掛け銀の現在地について書き進めていきます。 9000字近い長文になりますが、わかりやすく書いたつもりです。 詳細な変化については、書籍等でご確認ください。 「▲4五桂」の代表的な局面 今回のテーマといえる「▲4五桂」(△6五桂含む)の代表的な局面を挙げました。これらの図を一つずつ理解していくことで、現代角

          現代角換わり腰掛け銀2023 ~「▲4五桂」をめぐる冒険~

          タイムマネジメントが導いた勝ちへの道筋~伊藤真六段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 先手で相掛かりに。一手一手が難しく苦労しました。 中盤では駒を取り合う激しい展開に。 図は終盤戦。一瞬のチャンスをつかみました。 ▲6三馬と迫りたいのですが、△同馬▲同桂成に△5九角からトン死します。 手順は、△5九角▲5八玉△4九銀▲同玉△3七桂 ▲5八玉に△4八角成が好手で詰みとなります。 手順中△4九銀が妙手で、△6九銀だと▲4九玉と逃げて竜のききが止まってしまうので詰みません。 実戦は最初の図で▲5六銀と馬取りに銀を上

          タイムマネジメントが導いた勝ちへの道筋~伊藤真六段戦~

          間違えた方向性とタイムマネジメント~大橋六段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 先手で相掛かりに進み、先攻してペースを握りました。 ただ、調子がいいと思っていたところから、やや形勢に自信が持てなくなって迎えた図。 先手▲が私です。 ここで▲4四角成が普通の手ですが、△4三金とされて飛車と馬の両取りになってどう指すか。 実戦は先に▲2四飛と飛車を切り飛ばし、△同歩▲4四角成△4三金▲同馬と突進しましたが、攻めが届きませんでした。 ではどうするべきだったか。 単に▲4四角成として△4三金の図がポイントでした。

          間違えた方向性とタイムマネジメント~大橋六段戦~

          拾えなかった妙防~金井六段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 先手で相掛かりへ進み、相手の斜め棒銀を受ける展開に。 迎えた図。先手▲が私です。 ▲8五歩△同飛と飛車を呼んだところ。 当然とばかりに▲7六銀と飛車取りに銀を上がりましたが、もっといい受けがありました。 ▲8八銀が妙防でした。 次に▲7六銀△8二飛▲8七歩となると、後手の銀が詰んでしまいます。 よって△8七歩ときますが、▲7七銀△同銀成▲同桂。 この手が飛車取りになるのが飛車を呼んだ効果。 つまり、▲8五歩△同飛を入れたことで▲

          拾えなかった妙防~金井六段戦~

          思い切りが呼んだ勝利~金井六段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 仕掛けで思い切った攻めを敢行し、中盤を通り越して終盤へ。 迎えた図。後手△が私です。 ▲4四桂と両取りにきたところ。もう終盤戦なので金を逃げる余裕はありません。 ここで△7六銀と踏み込みました。 攻めとしては普通の手ですが、先手に手番を渡すのが怖いところ。 具体的には、 ・▲5二桂成△同玉▲7二銀(or角)と飛車と玉をいっぺんに攻める ・▲6五歩(△同銀上には▲6四歩、△同銀引なら△7六銀を無効化) ・▲7三歩(△7六銀と歩を取

          思い切りが呼んだ勝利~金井六段戦~

          2度の2択を誤って転落~郷田九段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 序盤からペースを握り、リードを広げてあとはどう勝つか、という流れに。 迎えた図。先手▲が私です。 △6七歩の詰めろに対し、▲同金と▲2八飛で迷い、▲同金を選択。 これが転落への第一歩でした。 対して△5八銀成が厳しいことを軽視しました。 次の△7八銀成(△8八銀成)~△8七歩成からの詰めろが受けにくい格好に。 ▲同金に代えて▲2八飛なら相手に手段はなく、そのまま勝っていたことでしょう。 ここで転落しかけましたが、再びチャンスが

          2度の2択を誤って転落~郷田九段戦~

          幻の勝ち筋を追いかけた一局~増田(康)六段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 竜王戦2組昇級者決定戦1回戦で、負けると降級となる一番です。 後手△が私です。 幻の勝ち筋 夕食休憩の図。研究の整っていた形だったので時間の消費が少なく、この局面を迎えた段階でまだ3時間近く残っていました。 いけそうな手応えもあり、残り時間を生かして読みふけりました。 選択肢は△7八金と△6六歩。 △4五同銀は▲4三歩成の空き王手が厳しい形。 そこで△7八金▲同銀△4五銀として、▲4三歩成に△6六桂と攻防手で応じるのが第一感でした

          幻の勝ち筋を追いかけた一局~増田(康)六段戦~

          運命を分けた桂の活用~長谷部四段戦 ~

          囲碁・将棋チャンネルで放送のあった対局でした。 振り駒で先手になり、相掛かりに進みました。先手▲が私です。 うまそうにみえた桂の活用主導権を握られて攻められましたが、やや強引な感じもあり反撃のチャンスを伺っていました。 図は△6六歩ときたところ。恐ろしい狙いを秘めています。 次の狙いは△6七歩成で、後手は角の素抜きを狙っています。 ▲7五金が指したい手ですが、△6七歩成▲同金△8八角成▲8四金の進行は、飛車が取れても馬の威力も大きくて形勢判断がわかりませんでした。 そ

          運命を分けた桂の活用~長谷部四段戦 ~

          現代の思想を攻守で活用した一局~服部四段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 順位戦の最終戦で、相手の昇級がかかっていました。 後手△が私です。 受けの桂相掛かりから相手の棒銀に対し、珍しい受けで対抗しました。 ▲2四歩と合わせてきたところ。△同歩▲同銀と進めてしまうと棒銀がさばけて先手の狙い通りの展開です。 そこで相手の主張を通すまいと、△1三桂と対抗しました。 レアな受け方ですが、水面下では知られた手です。 ただ微妙な違いで成否がわかれるため、本局でも成立するのかギリギリだと思いました。 具体的には▲2

          現代の思想を攻守で活用した一局~服部四段戦~

          四間飛車3連戦からみる、令和の対振り飛車戦略 ~自戦記 特別編~

          2022年に入り、3局連続で先手四間飛車と対峙しました。 ここ最近は振り飛車の採用がプロ全体でも増加傾向にあるとはいえ、極端な偏りです。 今回はその3局がどんな展開に進んだのか、ご紹介します。 現代振り飛車の現状が垣間見えるはずです。 端の突き合い3局とも出だしは一緒でした。 開局早々、先手が端を打診してきました。これが現代振り飛車の指し方です。後手の対応によって振る筋を変えたり、角道を止めなかったりします。 私は3局とも△1四歩と受けて、端を突き合う形を選択しました

          四間飛車3連戦からみる、令和の対振り飛車戦略 ~自戦記 特別編~

          昇級を引き寄せた0.5手を稼ぐ犠打~高見七段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 結果的に竜王戦2組昇級を決めた一局となりました。 犠打その1終盤戦、相手は飛車を軸に横からの攻めを狙ってきました。 飛車が二段目で自玉をにらんでいるので、△3七歩成~△4八と、と進むと厳しい攻めになります。 そこで▲2九歩と打ちました。△同飛成なら飛車のききがそれて安全度が増します。 当然△3八飛成と逃げてきますが、そこで▲4五桂△4三金ときかしました(△4五同歩は▲3三馬と金を取れる)。 やはり△3七歩成~△4八とが残っています

          昇級を引き寄せた0.5手を稼ぐ犠打~高見七段戦~

          勝ちのない二択と堅かった金冠~杉本(和)五段戦~

          モバイル中継で配信のあった対局でした。 運命(?)の二択相手の先手中飛車から角交換となり、ジックリした展開へ。 ねじり合いが続き、終盤はチャンスがきたかと思いました。 直前で相手の竜を消して、調子が良さそうでした。 角を逃げるのか、手抜いて攻めるのか。 少なくともどちらか一つは勝ちがあるとみて、秒読みのなか非常に迷いました。 実戦は△8五角と逃げたところ、▲7九歩と受けてきました。 攻めてくる手しか読んでおらず、受けといっても自玉と反対の金を守る手には意表を突かれまし

          勝ちのない二択と堅かった金冠~杉本(和)五段戦~