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AIの勝率表示と体感との乖離~自戦記 松尾八段戦~

一次予選の決勝で、モバイル中継で配信のあった対局でした。

後手で角換わりへ進み、リードして終盤戦へ。
しかし踏み込みを欠いて追い詰められていきました。
後手△が私です。


杏=成香

▲5二角成と角を成ってきたところ。この手が詰めろになることをウッカリして慌てました。
(▲3三と△同桂に▲3二馬が好手で、以下詰みとなる)
実戦は秒読みの中、時間ギリギリで△8三金と着手。飛車の横ぎきを通して詰めろを防ぎました。

しかしこの場面で△8三金とただ受けるだけの手を指すようでは、負けだと思いました。
事実、先手から有望な筋がいくつも見えます。
実戦は▲3三と△同桂▲4三馬引と迫ってきました。

この手は▲3二馬以下の詰めろです。
ここで切り札の△6五桂を放ちました。
この手は先手の馬筋を止めて詰めろを防ぎながら△7七金以下の詰めろで、いわゆる詰めろ逃れの詰めろです。
▲同歩と取らせて△7五香と再び詰めろで迫ります。

実戦は△7五香に▲3一銀△1三玉と進みました。


△6五桂と打った後に、図で▲3三馬と桂を取る手が先手玉の詰めろを消す手になることに気が付き、青ざめました。桂を取った歩が動いたことで馬筋が通るようになっています。

▲3一銀と打たれたところでは負けを覚悟しました。しかし、考えているうちに、△1三玉▲3三馬と進んだ局面で後手玉に詰みがない可能性があることを思い当たりました。


先手から▲2二銀打とすれば簡単そうですが、△1二玉と逃げたときにどうか。秒読みの中では分かりませんでしたが、不詰みを信じて祈るような気持ちでした。
結論から言えば、図で後手玉に詰みはないので、△7六香で勝ち筋です。

実戦は△1三玉に▲2二銀打△同飛▲同銀不成△同玉▲7二飛△1三玉▲3三馬と進みました。今度の▲3三馬は詰めろになっていますが、後手の手駒が増えたので先手玉に詰みが生じています。
実戦も△7九銀から即詰みに討ち取って勝ちをつかみました。


実戦で指している時は、▲5二角成に△8三金では負け筋だと思いましたし、感想戦でも互いにその意見が一致して先手の勝ち筋を探しました。
しかし、後でモバイル中継を見たら、AIは後手95%と示していました。人間の体感と大きく乖離している数字です。

勝率だけを見ていると順調に押し切ったようですが、指している体感としてはジェットコースターのように気持ちが揺れ動いていて、終局時は負け将棋を拾ったような気分でした。
人間同士の戦いにはAIの数字だけでは分からない機微があります。それを伝えることは難しいですが、少しでも感じていただければ幸いです。

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