戸谷洋志

1988年生。立命館大学大学院先端総合学術研究科・准教授。博士(文学)。専門は哲学・倫…

戸谷洋志

1988年生。立命館大学大学院先端総合学術研究科・准教授。博士(文学)。専門は哲学・倫理学。ハンス・ヨナスを主要な研究対象としながら、「責任」・「未来」・「技術」・「対話」をキーワードに、研究・実践しています。

記事一覧

糖質ゼロカルパスとショート動画

糖質ゼロのカルパスというものがある。 おやつについつまんでしまう。 糖質ゼロだから、基本は無である。 口が寂しいときには、いつ食べてもよい。 朝食の直後だろうが、…

戸谷洋志
3週間前
7

ハッシュタグ的連帯

『SNSの哲学』のなかで、ハッシュタグ的連帯について書いている。典型的なのは「#me too」を利用した運動の手法だ。そのタグをつければ、一つの政治的な立場を代表する意見…

戸谷洋志
3週間前
6

筋肉との対話

筋トレが好きな人は、しばしば、筋肉をある種の友達として表現する。筋肉に語り掛け、筋肉と対話し、筋肉と合意を交わす。そうすると筋肉はこちらの期待に応えてくれる。筋…

戸谷洋志
3週間前
6

犬目線の桃太郎

多分、ある集団のなかで誰かを「推す」ということは、その集団の中心をその誰かに置くということ、その集団を、「推し」によって意味づける、ということを意味する。 たと…

戸谷洋志
1か月前
11

春の虫

春の虫が苦手だ。 多分、虫の量だけで言うなら、夏の方がたくさんの虫が飛び交っているのだろう。 しかし、春の虫と夏の虫は、なんだか少し違う。どこが違うのか。それは…

戸谷洋志
1か月前
6

おかか閣下

頭の中でイメージが結びついている言葉というものが、いくつかある。 僕のなかでの筆頭は、「おかか」と「閣下」。多分、おかかはおにぎりの文脈で知って、閣下は『天空の…

戸谷洋志
1か月前
6

コロシアム

古代ローマの円形闘技場(コロシアム)では、各地の奴隷が集められて剣闘士として育成され、血なまぐさい戦いがショーとして営まれた。賭け事の類も行われていたらしい。ま…

戸谷洋志
1か月前
4

ハザードランプ

僕は通勤にバイクを使っている。バイクは事故を起こすとこちらが大けがをするので、極めて慎重に運転するようにしている。とりわけ、前方の車がハザードランプを焚いたとき…

戸谷洋志
1か月前
10

イルカの話

バーチャル・リアリティという言葉は、1931年にアントナン・アルトーという思想家が作り出した言葉だと言われている。当たり前だけど、彼が念頭に置いていたのは、テクノロ…

戸谷洋志
1か月前
7

格闘技の技を道場の外で使用するのはやめましょう

僕は大学生のときに、大学の近くにある空手の道場に通っていた。大学でフルコンタクトの空手部に入っていたのだが、練習が激しすぎてやめた。何かめちゃくちゃな稽古やトレ…

戸谷洋志
1か月前
13

ミニマリストについて

ミニマリストには二種類いると思っている。一つは、最適化されたミニマリスト、もう一つは、反時代的なミニマリストだ。 最適化されたミニマリストは、その都度の状況に応…

戸谷洋志
1か月前
17

反出生主義のこと

ダ・ヴィンチ恐山こと品田遊さんと対談させていただいた。 今回のテーマは反出生主義で、僕の『親ガチャの哲学』と、品田さんの『ただしい人類滅亡計画』を交錯させる内容…

戸谷洋志
1か月前
33

三軒茶屋的風景

出張で東京に来るたびに思うが、ホテルの高騰がひどい。出張先から賄われる宿泊費では完全に赤字になる。1万円台で泊まれるところなんて、カプセルホテルくらいだ。どうに…

戸谷洋志
1か月前
16

虫の話

宮沢賢治の童話に、『よだかの星』という小品がある。よだかは実在する鳥であり、空を飛びながら虫を食べる。物語のなかで、彼は鷹からいじめられている。その被害に苦しみ…

戸谷洋志
1か月前
16

授業で木魚を導入した話

今年度、大学の授業で新たなアイテムを導入した。「木魚」だ。 もともと僕は授業で頻繁にグループワークをする。グループワークは時間管理が命だ。制限時間を予告し、その…

戸谷洋志
3か月前
28

未来が見えるガラスの玉があったら、どれくらいの間楽しめる?

未来が見えるガラス玉があったら、とりあえず、とてつもなく未来を見るのであれば楽しめると思う。たとえば一万年後。そこに人間がいるのかどうかは分からないけど、もしい…

戸谷洋志
1年前
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糖質ゼロカルパスとショート動画

糖質ゼロカルパスとショート動画

糖質ゼロのカルパスというものがある。
おやつについつまんでしまう。

糖質ゼロだから、基本は無である。
口が寂しいときには、いつ食べてもよい。
朝食の直後だろうが、夕食後だろうが、寝る前だろうが関係ない。
いくら食べても太るということはない。なんといっても糖質ゼロなのだから。

そんな馬鹿なことを考えていくと、当然太っていくわけだが、糖質ゼロ=いつ食べても構わないが、危険なのだ。無はいくら足しても

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ハッシュタグ的連帯

ハッシュタグ的連帯

『SNSの哲学』のなかで、ハッシュタグ的連帯について書いている。典型的なのは「#me too」を利用した運動の手法だ。そのタグをつければ、一つの政治的な立場を代表する意見として、検索されることができる。それによって、他者がそのハッシュタグを検索したとき、その立場を支持する人々のボリュームを、ある種の量として捉えることができるようになる。

ただ、「me too」は、政治的な立場の表明としては、いさ

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筋肉との対話

筋肉との対話

筋トレが好きな人は、しばしば、筋肉をある種の友達として表現する。筋肉に語り掛け、筋肉と対話し、筋肉と合意を交わす。そうすると筋肉はこちらの期待に応えてくれる。筋肉は裏切らない。そういう言説をよく見る。

僕は筋肉が友達だとは思わない。なぜなら僕は筋肉を傷つけているからだ。もし僕が筋肉だったら、僕のようなやつを決して好きにはならない。できれば僕の肉体から離れて、穏やかな筋肉たちが住まう農村的な筋肉共

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犬目線の桃太郎

犬目線の桃太郎

多分、ある集団のなかで誰かを「推す」ということは、その集団の中心をその誰かに置くということ、その集団を、「推し」によって意味づける、ということを意味する。

たとえば『ONE PIECE』でサンジを推すなら、その物語はサンジを中心としたものとして再構成される。サンジが紙面に登場していないときも、「サンジはこのときどこにいるんだろう」「サンジはこの発言をどう受け止めているんだろう」と、パースペクティ

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春の虫

春の虫

春の虫が苦手だ。

多分、虫の量だけで言うなら、夏の方がたくさんの虫が飛び交っているのだろう。

しかし、春の虫と夏の虫は、なんだか少し違う。どこが違うのか。それはすなわち、テンションだ。春の虫はテンションが高い。長い冬を越えて久しぶりに再会したメンバーとの旧交を温めるかのように、はしゃぎまわっている。

それはまるで、同窓会のようですらある。「おい!ひさしぶり!しばらく見ない間に太ったなお前!い

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おかか閣下

おかか閣下

頭の中でイメージが結びついている言葉というものが、いくつかある。

僕のなかでの筆頭は、「おかか」と「閣下」。多分、おかかはおにぎりの文脈で知って、閣下は『天空の城ラピュタ』か何かで知った。そしておそらく、ほぼ同時期に知ったのだと思う。しかも、日常生活での登場頻度がほとんど同じくらいなのもよくない。閣下という言葉を聞くと、なんだか口のなかでおかかの味がする。あるいは、おかかを食べていると、脳裏に閣

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コロシアム

コロシアム

古代ローマの円形闘技場(コロシアム)では、各地の奴隷が集められて剣闘士として育成され、血なまぐさい戦いがショーとして営まれた。賭け事の類も行われていたらしい。また、ショーは一対一の決闘の形式だけではなく、史実の戦争を再現した模擬戦や、動物との戦い、さらには闘技場に人工の湖を設け、模擬海戦が行われることもあったという。

「パンとサーカス」と言われるときの「サーカス」は、現代のサーカスを指すのではな

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ハザードランプ

ハザードランプ

僕は通勤にバイクを使っている。バイクは事故を起こすとこちらが大けがをするので、極めて慎重に運転するようにしている。とりわけ、前方の車がハザードランプを焚いたときには、全神経が研ぎ澄まされる。

なぜなら、ハザードランプは多義的だからだ。それは、「これからバックしますよ」という合図かも知れないし、「先に行ってください」という合図かも知れない。あるいはもしかしたら、こちらに何かの合図を送っているわけで

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イルカの話

イルカの話

バーチャル・リアリティという言葉は、1931年にアントナン・アルトーという思想家が作り出した言葉だと言われている。当たり前だけど、彼が念頭に置いていたのは、テクノロジーによって構成された視聴覚的な疑似空間のことではなく、演劇のことだった。彼は「錬金術的演劇」という評論のなかで、演劇をある種の錬金術として説明し、そして両者はともにバーチャル・リアリティを作り出そうとするものである、と述べている。

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格闘技の技を道場の外で使用するのはやめましょう

僕は大学生のときに、大学の近くにある空手の道場に通っていた。大学でフルコンタクトの空手部に入っていたのだが、練習が激しすぎてやめた。何かめちゃくちゃな稽古やトレーニングを強いられたわけではないのだが、先輩が強すぎて、ゲーム性が崩壊していたのだ。

大学近くの道場はライトコンタクトだった。これは、組手のときに本気で相手を強打するのではなく、いいタイミングで技が入ったらポイントを取って、そのポイントの

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ミニマリストについて

ミニマリストには二種類いると思っている。一つは、最適化されたミニマリスト、もう一つは、反時代的なミニマリストだ。

最適化されたミニマリストは、その都度の状況に応じて、必要最小限の道具だけを持とうとする人である。こうした人は、実は、たくさんの商品を買っては、そのほとんどをろくに使いもせずに廃棄したり、転売する。なぜなら、どのように最適化するかはその人が置かれた状況によって左右されるのであり、最適化

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反出生主義のこと

ダ・ヴィンチ恐山こと品田遊さんと対談させていただいた。

今回のテーマは反出生主義で、僕の『親ガチャの哲学』と、品田さんの『ただしい人類滅亡計画』を交錯させる内容だった。

対談の内容としては、相当にボリューミーで、少し時間をかけて消化していかないといけないな、と思いつつ、二つだけ振り返っておきたい。

一つは、品田さんの『ただしい人類滅亡計画』における、議論と共鳴の関係。この本のなかでは、途中ま

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三軒茶屋的風景

出張で東京に来るたびに思うが、ホテルの高騰がひどい。出張先から賄われる宿泊費では完全に赤字になる。1万円台で泊まれるところなんて、カプセルホテルくらいだ。どうにかしてくれ。

そういうわけで、東京に来るたびに、1円でも安いホテルを探すことになる。場所にこだわることなんてできない。だから毎回違うホテルを取ることになる。今回は三軒茶屋の宿を取った。

考えてみれば、三軒茶屋に来たのは初めてだった。おし

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虫の話

宮沢賢治の童話に、『よだかの星』という小品がある。よだかは実在する鳥であり、空を飛びながら虫を食べる。物語のなかで、彼は鷹からいじめられている。その被害に苦しみながら、いつものように虫を食べていると、はたと気づく。自分もまた虫を食べている。虫にとっては自分もまた加害者である。結局自分は、鷹が自分をいじめ、自分が虫を食べるこの加害と被害の連鎖に巻き込まれており、そこから抜け出せない。そのことに深く絶

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授業で木魚を導入した話

授業で木魚を導入した話

今年度、大学の授業で新たなアイテムを導入した。「木魚」だ。

もともと僕は授業で頻繁にグループワークをする。グループワークは時間管理が命だ。制限時間を予告し、その時間がきたら強制的に議論を打ち切らせる。時間管理を徹底しなければ、グループワークは有効に機能しない。

そのときに問題になるのは、どうやって議論を打ち切らせるかだ。「はい、やめ!」と言うのでもいい。しかし、それではなんだか命令口調になって

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未来が見えるガラスの玉があったら、どれくらいの間楽しめる?

未来が見えるガラスの玉があったら、どれくらいの間楽しめる?

未来が見えるガラス玉があったら、とりあえず、とてつもなく未来を見るのであれば楽しめると思う。たとえば一万年後。そこに人間がいるのかどうかは分からないけど、もしいたら生活様式はずいぶん違っているだろうし、反対に別の生物が地球を支配していても面白い。

荒野になっていても不思議には思わない。でも、地上が燃え盛る火の海になっていたら、何が起きたんだろうと思う。どれくらい長い間、火の海になっているのかも気

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