『生きることは頼ること』を上梓しました
講談社現代新書さんから、『生きることは頼ること──「自己責任論」から「弱い責任」へ』を上梓いたしました。本日から書店で販売されています。
この本のテーマは、自己責任論を批判しながら、かといって無責任さをただ肯定するのでもなく、もう一つの責任概念として、「弱い責任」を提唱するというものです。
自己責任論は、基本的に、誰にも頼ることなく、自分のことを自分自身で決定することができる、自律的な人間像を前提としています。しかし、この人間像は現実を反映したものではありません。私たちは、誰もが子供としてこの世界に誕生し、そして最期には多くの場合、誰かを頼って生涯を終えるからです。そして、そうでなかったとしても、私たちは自覚がないままに、誰かを頼り、また誰かに頼られながら存在しています。
そうした、相互に頼り合いながら存在しているということと整合する責任概念として、本書が提唱しているのが、「弱い責任」です。ここでいう「弱い」とは、私たちが本質的に傷つきやすい存在であり、一人では責任を果たすことができないような、脆弱な存在であるということです。
こうした責任概念を基礎づけるために、この本では、ヨナス、キテイ、バトラーという三人の哲学を参照しています。またその過程で、近年の人文書における責任概念をめぐる重要な議論として、國分功一郎さんの思想に対する批判的な検討にも、紙幅を割いています。
「ケア」や「利他」といった、近年の人文書におけるキーワードは、責任=自己責任論と思い込まれている限り、ともすれば責任概念とミスマッチであると理解されかねません。そうした誤解は、こうした諸概念が無責任さを正当化するものだと捉えられ、いわれのない批判を受ける要因にもなります。そうした事態を回避するために、責任の概念をより豊かな視点で、私たちの生きる現実と整合するものとして説明することもまた、本書の目的の一部です。
本書は、抽象的なテーマであるにもかかわらず、新しい概念を提唱するという試みに取り組んだこともあり、「はじめに」に非常に力を入れて書きました。可能な限りわかりやすい文章で、問題をクリアに提示しているつもりです。ぜひ、書店で「はじめに」だけでもご覧ください。下記のリンクから、「ためしよみ」もできます。
私たちには、自分の責任を果たすために、他者を頼らなければならないときがあります。しかしそれは何も恥ずかしいことではありません。私たちは、自らが責任の主体であるという誇りをもって、他者から差し出された手を取ってよいのです。そうした、当たり前の事実を説明しうる責任概念を、本書は描き出そうとしています。よろしければぜひ。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000398285
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