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【書評】西股総生『杉山城の時代』(角川選書)

 埼玉県の比企地方に、杉山城という中世城郭があります。建造物のない土の城ですが、完成度が高いため城マニアの間で「知る人ぞ知る名城」になり、最近ではテレビなどに取り上げられるようになりました。

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 しかし、杉山城について記した文献は乏しく、誰が築いたのかについては謎に包まれてきました。この杉山城の謎に迫ったのが本書『杉山城の時代』です。

2000年代に登場した新説

 この杉山城、縄張りが非常に巧みであることから、城郭研究者の間では「天文末~永禄年間(1550~60年代)に、北条氏が築城したのだろう」とされてきました。

 『定説』に重大な疑義が突きつけられたのは、2000年代に入ってからのことだ。杉山城の主郭を中心として数次にわたる発掘調査が行われ、そこで出土した遺物の年代が、15世紀後半から16世紀前半におさまる、という結果が示されたのである。

 遺物の年代に従うなら、北条氏がこの地域に進出する以前の、山内上杉氏と扇谷上杉氏の構想の中で築かれたことになります。

 物証があるなら、戦国前期築城説が妥当だろうと、誰もが考えます。しかし、長年城郭研究に携わっていた西股先生は疑問を唱えます。

発掘調査の結果は絶対なのか?

 杉山城の「新説」に納得していないのは、多くは縄張り研究者たちだ。もちろん筆者も、その一人である。では、縄張り研究者とは、突きつけられた証拠を認めずに自分の殻に閉じこもっている、頑迷固陋の輩なのだろうか。

 説得力が高く見える新説の問題点を、西股先生は(縄張り研究者の限界も承知の上で)非常に論理的・合理的に突いていきます。

 例えば、杉山城で発掘された陶器片は、考古学的に1530年ごろまでのもの、とされました。ですが、このことが直ちに「杉山城は1530年以前に築かれた」証拠になるでしょうか。

 陶磁器の生産地から、関東の奥地にまで新製品がすぐ届くものでしょうか。乱世で流通が滞っていた可能性も高く、タイムラグがあってもおかしくありません。

 陶磁器は大事に使えば長持ちし、数十年程度は使えます。また、杉山城は領主が住むような館ではなく、純粋に軍事目的の砦のようなもの。

 城に入って野営する雑兵は、果たして最新式の生活用具をわざわざ買いそろえるでしょうか。壊れても惜しくないありあわせの品を持ち込むのではないでしょうか。

 このように、発掘調査の結果が、1530年代以降に築城された可能性を決して否定できないことを論証していきます。

 筆者が北条氏築城説を論拠はほかにもありますが、これ以上内容を紹介するのは、推理小説のネタバレをするようで無粋でしょう。

 学問的に誠実な姿勢で書かれ、かつスリリングな論考が展開されています。筆者の論に賛成するかどうかは別として、城好きなら必ず楽しく読めると思います。

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