【書評】下斗米伸夫『ソビエト連邦史』(講談社学術文庫)
ロシア・ソ連史研究の第一人者によるソビエト連邦の通史です。
「ソ連という国家よりも、共産党という党が優越する」という異様な国家の形はどのようにして生まれ、どのような結果をもたらしたか。ロシア革命期から活躍し、スターリンの大粛清も生き延びた政治家、モロトフの生涯を追いながらソ連の歴史を描き出しています。
もっとも、文体が晦渋かつ基礎用語の解説もあまり親切ではないため、ソ連史の初心者にはあまりお勧めできません。
モロトフの逸話
本書で印象に残ったのは、ヴャチェスラフ・モロトフの挿話でしょうか。
モロトフはスターリンの忠実な右腕でしたが、夫人が逮捕されカザフに送られています。また、死ぬ直前のスターリンはモロトフ自身の粛清も準備していたといいます。
にも関わらず、彼は「スターリンの死を心から悲しんだ」唯一の政府高官でした。
なお、スターリンの葬儀が行われた1953年3月9日は、奇しくもモロトフの誕生日でした。
フルシチョフやマレンコフに、プレゼントは何がいいか聞かれたモロトフは、「夫人を返してほしい」と答えました。この言葉が効いたのかはわかりませんが、モロトフ夫人は間もなく釈放され、名誉回復第一号となりました。
本書の末尾、ソ連時代に法的根拠なく処断された人間は1150万人にのぼるという推計が提示されています。
極めて陰惨な歴史ですが、現代史を知る上でソ連史は避けて通れないテーマだと思います。
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