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【書評】ルイス・フロイス『ヨーロッパ文化と日本文化』(岩波文庫)

 安土桃山時代に来日し、織田信長や豊臣秀吉などの権力者ともかかわりがあった宣教師がルイス・フロイスです。

 彼が本国に送った報告書や、著書『日本史』は戦国日本を知るための貴重な史料です。『日本史』(中公文庫で全12巻)を読むのはハードルが高いですが、手にしやすいものもあります。それが、『ヨーロッパ文化と日本文化』(岩波文庫)です。


「われわれ」と「彼ら」

 1585年に成立したこの書物は、『日欧文化比較』という別の邦題を持ちます。文字通り、日本人とヨーロッパ人の文化の違いを簡潔に説明しています。例えば、次のような感じですね。(「われわれ」=ヨーロッパ人、「彼ら」=日本人)

 われわれの刀や極めて価値あるものは美しく装飾が施されている。彼らの価値あるものは飾りもなく、装飾も施されていない。

P27

 われわれば履物を履いたまま家に入る。日本ではそれは無礼なことであり、靴は戸口で脱がなければならない。

P.30

 本書は、男性や女性・児童の習慣、僧侶について、食事や飲酒について、家屋についてなど、全14章からなります。

 かなり細かいものもあり、フロイスの鋭い観察眼や、細かいことまで記録しておく几帳面さがうかがえます。次のようなものを読むと、「よく気づいて記録したものだ」と感心します。

 われわれの碇は鉄製である。彼らのは木製である。

P.162

 ヨーロッパの子供は長い間襁褓(むつき)に包まれ、その中で手を拘束される。日本の子供は生まれてすぐに着物を着せられ、手はいつも自由になっている。

P.62

日本女性の地位や価値観

 女性についても、有名なものがいくつかあります。

 ヨーロッパでは未婚の女性の最高の栄誉と貴さは、貞操であり、またその純潔が侵されない貞潔さである。日本の女性は処女の純潔を少しも重んじない。それを欠いても、名誉も失わなければ、結婚もできる。

P39

 日本女性の経済的自立についても言及があります。

 ヨーロッパでは財産は夫婦の間で共有である。日本では各人が自分の分を保有している。時には妻が夫に高利で貸し付ける。

P49

食べ物について

 文化の違いといえば、食についても気になりますね。

 われわれは乳製品、チーズ、バター、骨の髄などをよろこぶ。日本人はこれらのものをすべて忌み嫌う。彼らにとっては悪臭がひどいのである。

P101

 当時の日本人は、チーズの発酵臭などは悪臭に感じたようです。見慣れない食べ物が受け付けないのは現代人もわかるでしょう。

 われわれの間では腐敗した肉や魚を食べたり、贈ったりするのは無礼なことである。日本人はそれを食べ、また悪臭を放っても躊躇することなくそれを贈る。

P104

 これは日本の発酵食品のことを述べているのでしょう。ヨーロッパ人と日本人は、相手の発酵食品の臭いを、お互い悪臭とみなしていたのですね。

 異なる文化に接した時の驚きや好奇心を率直に記したフロイスの書は、現代にも通じる古びないものを持っているといえます。

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