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入院は、エネルギー回復のプロセス。私がここにいるのは、見捨てられたからじゃない。

確かにそこは、鍵のかかった場所。

それを、閉鎖的と言うけれど。
私はね、結構気に入ってた。

子どもの頃。いつも見ていた病院は、木々が生い茂り、高い塀がとても印象的な所でした。


もし私が、
統合失調症を患うことがなく、この病を知らずに過ごしていたら。
こんな思い出話なんて、きっとすることもなかったでしょう。


これは、とても昔の話。


私が幼少期を過ごした家の近くに、大きな病院がありました。

そこは、
少し陽の当たりが悪そうで。
人の気配を殆ど感じない。

いつも、
ひっそりと寂しくて。
晴れの日も、薄暗い…。

他とは少し違った、その異様な雰囲気が、
幼い私には、不気味ささえも感じさせるような場所でした。

そして大人たちが、
その場所を病院と呼ぶことが、ずっと不思議でした。

なぜなら、
私の両親は、決して、私をそこへ連れて行ってくれなかったから。

たとえば、
風邪を引いた時だって。
転んで泣いた時だって。
高い熱が出た時だって。

「あの病院は、ちっとも私を助けてくれない…。」

だから私は、
大人たちとの約束も、ずっと守ってきたのです。

「あの病院の近くで遊んではダメよ。」
「危ないから、あの中に入ってはダメよ。」
「怖い思いを、するかもしれないからね。」

大丈夫。
私、あそこは、あまり好きじゃない。


それが、私が育った街の精神科病院でした。

もうそれは、数十年も前の話。

かつて精神分裂病と呼ばれていた病。それは、とてもポピュラーで、私もその例外ではない。

私は、自身に異変を感じてから間もなく、統合失調症と診断されました。
その後、医師の判断により、数カ月の入院生活を送る事になります。

私のように、
統合失調症では、入院治療を必要とする場合があります。

その発病、あるいは再発により、
入院が必要と判断される程に症状が悪化している場合。

つまり、
幻聴・妄想・興奮といった、強い陽性症状が現れた場合。
自分や他人を傷付ける兆候や可能性があるとされた場合。

などです。

この判断からすると、私の入院は正しい選択です。


その頃、私はよく煙草を吸っていました。
ベランダの隅に、灰皿代わりの空き缶を、いくつも並べて。

そこから、見える景色は、
すぐ向かいのマンションの汚い壁だったり。
すぐ下の歩道を歩く知らない人々だったり。

ちっとも、素敵じゃなかった。

だけど、
そんな時間や風景が、私は大好きだったから。

いつも通りに目覚めた朝。
楽しく過ごせた一日の夜。
凄く疲れた時。
ちっとも眠れない時。

いつもここで、煙草を吸っていました。
それもある時から、パタリとやめました。


…抑えられない不安や衝動。

ここから落ちたら、台無しだ…。


嫌な予感というもの。

私は、誰よりも先に気付いていたのだと思います。

そのうちに、
大好きだった日常の景色や音は、とても騒々しく、私を苦しめるものへと変わってしまいました。

もう絶対に窓は開けない。

煙草は、部屋の中で吸えばいい。

私が入院する病院は、実家から程遠く。幼い頃に見ていた場所とはまるで違うところでした。


花と緑に囲まれて。
白と黄色を基調に。
明るくて、優しくて。

両親が、私の入院先にと選んだのは、そんな病院でした。

この病院では、統合失調症の治療を積極的に行っていました。
そのため、私と同じ病棟に入院されている方の多くが統合失調症患者でした。

次第に症状が落ち着き、再び人とコミュニケーションが取れるようになると、私は、病棟内で沢山の方と話をしました。

精神科病院には、実に色々な方がいらっしゃっいます。

こっそり煙草を1本多く吸う方法。
眠れない時の看護師への訴え方。

食事がやってくるルートと時間。
誰よりも先に食後の薬を受け取る方法。

そんなことを教わったり。

退院しても、またすぐに戻ってくる方には、
「おかえり」
なんて言って笑い合うこともできました。


かつて分裂病と呼ばれていた病。
過去の閉鎖的なイメージも、まだ色濃く残っているのが現実です。

そのため、病気や入院を受け入れられないこともあるでしょう。

精神病は、心の病です。
しかし、心の病は、体(脳)の病でもあります。

どのような病でも、その症状や回復へのプロセスは様々です。
もちろん、研究や医療が進むことによって、それらは変化していきます。

それは、統合失調症も同じです。

もし、より多くの人が…、
この病を他と同じように捉えることができたなら。

きっと、沢山のことが変わるはずです。

もし、私が…
このまま統合失調症を発症することがなかったら。

大切なことに、今も気付かずにいたはずです。


もちろんそれは、まだ幼い私にはわからなかったこと。
そして、病気になるまで誰も教えてはくれなかったこと。



統合失調症になることで、私は確実に変わった。

私にも、できること。
私だから、できること。

それを探すことが、今の私にできること。

頂いたサポートは、より沢山の方へお伝えできることを目指して、今後の活動に、大切に使わせて頂きます。