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人と地球のためのUIデザイン

こんにちは東芝UIデザインnote事務局です。

もうすぐ桜のシーズンを迎えますが、その開花の時期は、気象庁のサイトによると1960年代は3月30日頃だったのに2000年代には3月22日頃と、40年間で8日も早まっているそうです。桜に限らずですが、気候が大きく変わってきているのを肌身で感じる今日この頃です。一方でSDGs達成に向けての計画は大きく遅れていると言われています。そんな中、社会インフラ事業を担う企業のインハウスデザイナーとして、何が求められるのか?どんなことを考えてデザインに取り組むべきなのか?

今回は、いつもの記事とは少し趣を変えて、UIデザインチームが所属するデザイン開発部の倉増ゼネラルマネージャーサービスデザインの観点からデザインディレクションをする西川シニアフェローで、デザイン活動のコンセプトについて話し合ってもらった内容をお届けします。
少し難しい話もありますが、これからデザイナーを目指す方や社会課題に取り組まれているデザイナーの方の参考になればと思います。
(最後にこの記事にちなんだオンライン展示会の告知がありますので、是非最後まで読んで行って下さいね!)


ひろがるデザイン


西川:昨年9月、ドイツにリジェネラティブ(※)・イノベーションセンターを開所しました。
東芝にとっては「カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミーに関わる技術開発や社会実装を重視する欧州地域の中核の技術拠点」ということで、経営理念である「人と、地球の、明日のために。」の実践にさらに拍車がかかりますね。
(※)リジェネラティブ:地球環境や社会をより良い状態にすることを目指した取り組み


倉増:そうですね。これまでも、欧州の研究拠点では、量子技術やAI、IoT技術などの基礎研究で成果を上げてきています。この度のリジェネラティブ・イノベーションセンターは、地球規模のまったなしの課題に対して、東芝の技術の社会実装のために新たに立ち上げられました。私たちデザイン部門も連携を始めていますが、人と地球の明日のためにしっかり貢献していきたいですね。


西川:リジェネラティブ・イノベーションセンターを起点に、社会課題に対するいろんな取り組みが加速することに期待するところです。同時に、私たちデザイナーにとっても、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといった地球環境に対する取り組みや姿勢は決して他人ごとではないですよね。

私たちのデザインフィロソフィーにも「人のあらゆる境遇に想いを寄せて、地球環境や社会に差し迫った課題を解決する」とあるように、気候変動などの環境の変化やそれにともなう社会的な問題にどう挑むかというのはデザイナーにとっても考えるべき課題ですよね。


倉増:これまでは、お客様やユーザーの期待や困りごとにどう応えるか?ということを中心に考えてきたように思いますが、今やそれだけでは不十分になってきていますよね。つまり、どんなデザイン活動でも気候変動に対する緩和策や適応策まで意識して取り組まなければならなくなっています。エネルギーや社会インフラの事業をやっている会社なので、当然と言えば当然ですが。私たちの製品やサービスが社会システムや地球の生態系の中でどういう影響を与えたり、どんな役割を担うべきなんだろう?というようなことにも想像力をはたらかせてデザインを考えなければならない。その必要性は今後一層増えていくでしょうね。
 

何のためのデザインか?


西川:サービスやアプリなどの、社会の中での意味・価値を意識しながらサービスを創るということですね。社会的な問題にどう挑むかがデザイナーの課題だと言いましたが、それは、プロセスやツールだけでできるものではないと思っています。一番大切なのは、倉増さんが今おっしゃった「想像力をはたらかせる」ということだと思うのです。つまり問題意識を持つということですね。一見社会課題とは距離のあるサービスだったとしても、そういうマインドで取り組むことが、私も大切だと思います。方法論などを企業の中で広く展開するためには、プロセスなどの形式知・型・フレームワークに変換することが有効ですし、もちろんその必要性も感じます。でも、問題意識がないままでツールだけ使っても、表層的な解決策しか導き出せない。
この点、倉増さんも同感ではないでしょうか?


倉増:その通りだと思います。
製品・サービスの提供者とその顧客の関係だけで考えるとWIN-WINなことも、その周辺への影響まで広げて考えてみると、そもそもその両者が期待していたこととは違う結果を引き起こしているってことがあります。
例えば電気自動車が化石燃料でつくった電気で走っていたら?とか、代替肉が森林を伐採した大規模農地で大量の水をくみ上げて生産された大豆が原料だったら?とか。
提供者も、それを買う消費者も脱炭素の実現を期待していた。でも、バックステージまで視野を広げると両者が期待していないことが起きているかもしれない…。そういうことって、私たちのデザイン活動にもありうると思うんです。これまでは人間中心で事業価値を考えてきましたが、今はもっと広い視野で社会価値も含めた価値の循環を意識することが、必要になっているということだと思います。

「そのサービスやデザインが影響するものは何か?それは全体によい循環を生むものか?」と常に自分に問いかける、その意識を持っているのとそうでないのとでは、導き出す解決策も自ずと変わってくるんじゃないかと思います。


西川:社会や経済活動の仕組みや、世の中でどんなことが問題視されていれて、どんな活動がされているのかを、アンテナを張り巡らせて常日頃から掴んでいるからこそ持てる問題意識なのでしょうね。私たちデザイナーにとって、そうしたリサーチ活動が不可欠な時代になってきたとも感じています。「人と、地球の、明日のために。」をかかげる私たちならなおのことですね。そういう意味でもリジェネラティブ・イノベーションセンターでの活動が楽しみです。技術や事業だけでなく、デザインという観点からもできることは多いと思います。

私たちデザイナ―が目をむけるべきこと


倉増:我々デザイナーの仕事の範囲って、広げればどこまでも広がります。
それぞれのプロジェクトのスコープをどこまで広げて考えるべきか、見定めはとても難しいけど、そのスコープの持ち方で提案するものは大きく変わってきます。当然、事業サイドの依頼には応えなければなりませんが、タッチポイントでどんなにいい解決策がデザインできたとしても、上位の目標に対しては効果的な問題解決にはなっていないこともあります。
そこで視点を切り替えて、当初想定していた課題をリフレームして再定義することをプロジェクトメンバーに提案することも、デザイナーの役割のひとつだと思うんです。課題の本質に近づくために、その事業にどっぷり入り込んでいる人とは少し違う視点で、ユーザーやさらにその先の人の立場で考えてみたり、社会や地球、声なき生き物の代弁者になってみたり、視野を広げてシステム全体として捉える俯瞰的な視点が必要になってきますよね。


西川:私もそう思います。
システム思考と言ってもいいかもしれませんが、デザイナーは、ユーザーや顧客という「人」の視点を捉えて活動することはもちろん、その延長にある企業活動、社会の仕組み、自然環境といった全体像の中で、本当は何をすべきなのかを考えて問題提起をする。特に着目すべきは社会課題や環境問題でしょう。企業の中で、純粋に真善美を追求できるのは私たちデザイナーだけだと思うのです。だからこそ私たちが率先して訴えていかなきゃならないですね。その昔、ユーザビリティーやユニバーサルデザインの重要性を説いたように。
環境課題に対するデザイン活動は、UIデザイナーにとっては縁遠いもののように感じるかもしれませんが、これからの全てのデザイナーに大切な問題意識とアプローチじゃないでしょうか。

「調和」「自由」「熱量」


西川:ところで、倉増さんは元々プロダクトのデザイナーとして活躍されていましたよね。海外にも赴任されて、現地法人でデザイン業務のとりまとめなどもやられていました。一度訊いてみたかったのですが、すべてのデザイン活動においてサービスデザインが求められる今、海外での経験がどのよう活かされいますか?


倉増:えっ?いきなり無茶ぶりじゃないですか(笑)
そうですねぇ・・・海外で学んだことのひとつは、「調和」ってことかもしれませんね。特に欧州の人たちは、個々が言いたいことは主張するけれど、全体としてコントロールすべきことやシステマティックなことにはとても理性的というか、個人的には反対でも全体として調和すべきことには協力するみたいなところがあるように思います。それは、あのオーガナイズされた歴史的街並みの価値とか、維持され続けてきた自然を誇りに思っている人が多く、そうした価値観が心の底で共有出来ているからなんだろうなぁと思います。一方アメリカでは、目的達成の為なら失敗を恐れず既成概念を乗り越えてやっちゃう自由さや、それをちからワザでやり切ってしまう熱量があるように思います。

そんな中で、日本人的な精緻さとかホスピタリティみたいなものをどうしたら発揮できるだろうか?と葛藤したこともあります。そんなことを考える機会をもらえたことはよかったと感じています。サステナビリティなど地球規模の課題に、背景の異なる多様な人たちが一緒に取り組まなければならないこれからの時代、価値観や考え方の違いを理解することは一層大切になってくるでしょう。そういう意味でも、若い世代の人たちには視野を広く持って、先ずはいろんなことに挑戦して多様性を体感してもらいたいなあと思います。


西川:私が日本でのんきに構えている間に、そんな苦悩があったんですね・・・なんか申し訳なくなってきた(笑)。
今の話をサービスデザインになぞらえて感じたことをお話しします。

欧州で感じられた「調和」、つまり全体最適の視点は、サービスを設計する上でとても大事な概念ですよね。サービスは、Desirability Feasibility Viabilityといった様々な観点からその価値を検証する必要があります。そうした全体の「調和」こそがサービスデザインの真髄ですよね。ユーザーに望まれるタッチポイントを考えればいいとされてきた過去のUIデザインの考え方とは大きく違う点だと思います。長年UIデザインに取り組んできたデザイナーは、そういった考え方へのアップデートが今必要とされていると感じます。
米国ならではの既成概念に縛られることのない「自由」な発想や「熱量」は、サービスデザインにおいて価値を確認して改善を加えるイテレーティブなプロセスや、アジャイル開発の根底にある考え方にも通じるものがあります。そして価値観の違いを超えた共創を経験されたということで、まさにサービスデザインに必要とされるエッセンスを実体験で学ばれたと言ってもいいですね。

すべての道はサービスデザインに通ず


西川:そう考えると、これまでの様々な経験が倉増さんのサービスデザイン観を形作っていると言えますね。私自身の34年のキャリアを振り返っても同じように感じるんですよね。肉体的にも精神的にもタフな仕事も多々ありましたが、サービスデザインの観点で様々なディレクションを行う今となっては、何一つ無駄はなかったと自負しています。
サービスデザインって、ホリスティックな視点が必要だと言われています。言い方を換えれば、サービスに関連する様々な考え方・方法論・領域を包含する方法論だと言えます。だからこそ、情報設計のノウハウも、グラフィックデザインのスキルも、マーケティングコミュニケーションの経験も、もっと言えばファインアートの実績、哲学の知識、インターンでの職場体験などなど、どんな知見・経験もサービスデザインに役立つはず。

「すべての道はサービスデザインに通ず」というのがぼくの考えです。そう思いませんか?


倉増:結局サービスデザインは仕組み全体を良い方向に向けるために、全貌を俯瞰的に捉えることだと思っています。いろんなことが複雑に絡み合うシステムの全体像を理解する上では、どんな経験も役に立つというのはその通りだと思います。
プロダクトデザイン、UIデザイン、コミュニケーションデザイン、サービスデザインとデザインの対象は様々でも、総じてデザインというものは本質的には同じかもしれないなあと思うのです。複雑な要素群を分解して、整理して、再構成していく。わかりやすく共感してもらうためのアイデアを考え試行錯誤を繰り返し、議論を重ねて実現されたものは、結果的にシンプルに洗練されて、独り歩きしてくれる力を持つ。冒頭のリジェネラティブイノベーションセンターの話にも関係しますが、社会インフラを担う会社のデザイナーとして、複雑な社会課題にこそデザインの力が活かされるでしょうし、自分自身もそれをやりがいに感じながら取り組んでいます。
今後一層インフラを支える東芝には、私たちデザイナーが活躍できる機会も責任もやりがいも増えていくだろうと思っています。


西川;90年入社のぼくもまだいけますかね?(笑)



●ご案内●
この記事に関連したオンライン展示を開催しています。また連動したパネルディスカッションも予定されています。奮ってご参加ください。

“Think a new day 2” オンライン展示開

“Think a new day 2” オンライン展示開催中
私たちは、様々な未来の「可能性」を思い描き、いろいろな人と対話しながら、望ましい未来を考え続けることが、未来を創造するきっかけになると信じています。『 Think a new day 』は、デザイナーが未来の世界で暮らす人々の日常生活を a new day として描いています。

展示連動パネルディスカッション“デザイナーが語る未来の日常 Think a new day~人類の4つの生存課題の未来とは~“
展示されている作品を見ながら、東芝のデザイナーとゲストパネリストが未来の日常について語り合います。まだ見ぬ未来について皆さんも思いを巡らせてみませんか?
第一回|資源・サーキュラー・生態系 ●2/28(水)16:00-17:30
第二回|水資源、食糧と農業     ●3/12(火)16:00-17:30
第三回|エネルギー・気候変動    ●3/25(月)16:00-17:30 
無料でご参加いただけます。
Peatix サイトから事前登録が必要です。




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