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1月13日 『ラ・ラ・ランド』~ミュージカル映画は難しい……。

 『ラ・ラ・ランド』を観た。実は映画の中でもっとも苦手ジャンルはミュージカル映画。それで「私にはミュージカルは難しいんじゃないかな……」と避けていたのだけど、まあ他に観る映画もなくなってきたし、大ヒット映画だから、一応観ておくか……みたいな感じで視聴。
 それで、やっぱりミュージカルは私には難しくて、見終えた後もこりゃガッツリとした感想文は書けないな……。書こうと思ったら、あと3回は最低でも観なくちゃいけない。それはしんどいので、今回は簡単感想文。

 ネタバレ全開です。

 まず冒頭のシーン。大渋滞のハイウェイ。みんな何かしらの夢を持っていて、ハリウッドを目指しているけれど、しかし大渋滞で一歩も進めない……というシーン。
 ミュージカル映画の見方って、表面に描かれているものが全てではなくて、その時、そのシーンで人々がどう思ったか、感じ方を、いちいち歌や踊りにして表現する……というものだから、リアリティを基準に置いて観るのではなく、象徴的に描かれているものを読み取ったり、ある意味で漫画的に解釈していかないといけない。
 ここがミュージカル映画が難しいと感じるところで、映画表現って基本的にはリアリティに重きを置くから、ミュージカルシーンの突飛なイメージとどこかすり合わない。観る側の「頭のチャンネル」をそのシーンそのシーンごとに切り替えて観なければいけない。おそらくアメリカなんかは舞台演劇なんかでそういった表現に親しんでいるから頭のチャンネルを容易に合わせられるのだろうけど、私なんかはミュージカル文化のないところから来た人間なので、このチャンネルの合わせ方が難しい。それでだんだん「何が描かれているのかわからない……」みたいになってしまう。
 冒頭シーンだけど、「大渋滞のハイウェイ」がリアルな描写であると同時に、「観念的な描写」でもある。ハリウッドを目指す人はみんな夢一杯で、渋滞に巻き込まれても、気持ちはウキウキしている。「ハリウッドで一山当てるんだ!」と夢を描いている。しかし実際にはハリウッドを目指す人は大量にいて、一歩も進めない……という状況を表現しているシーンということになる。

 ハリウッドはかなり特殊な土地柄で、そこに住む人はみんな「何かしらの夢」を抱えてやってくる人。実際に行ってみた人に聞くと、タクシーの運転手でも「オレ、実はあの映画の脚本やってたんだ」とか話してくれる。街ゆく人がことごとく「俳優志望」「脚本家志望」「デザイナー志望」……という感じに「○○志望」が山のように集まって作られている街。「一般人」がむしろ少数派の世界。でも実際に何かしらの役職、というか座席に座れる人はその中でもごく一部……というシビアな世界がハリウッド。だからそのちょっとしかない座席を目指して、大渋滞を起こしている……というふうに冒頭シーンで描かれる。
 で、その中で主人公ミアは「白いシャツ」を着ている。「まだ何にも染まっていない女性」という表現だね。映画のラストでは真っ黒なドレスを着ている。もう「何かしらの存在」になった女性ということ。冒頭のミアは、まだ何者にもなっていないから真っ白なシャツ。
 その真っ白なシャツを最初に染めるのは、「コーヒーの染み」だったりするわけだけど。「誰でも駆け出しの頃は苦労する」……って話だ。

 間もなくハリウッドの現実にぶち当たって、ブルーのドレス。観たまんま、「ブルーな気分」だからでしょう。
 続いてセブという男性に会って、2人で道路を歩きながら対話するシーン。ミアは黄色のドレス。「素敵な男性にであって、気持ちがウキウキしてきて……」という気持ちの表現でしょう。
 あのシーンをリアルに描くと、歩きながら対話していくうちにだんだん調子が合ってきて、「好きかも」という気持ちで舞い上がっていくけれども、しかしキスするほどではない……。ミュージカル映画ではなかったら、こういった過程は台詞や演技で表現するのだけど、そういった感情の動きを「歌と踊り」で表現し、そこを見せ場にするというのがミュージカル映画。
 アクション映画の場合、映画の構成は25分区切りでその中にアクションは5分前後で描かれる。「物語」と「アクション」(あるいは「ドラマ」)ははっきり切り分けることが可能で、アクション(やドラマ)のための前設定を説明するために「物語」なるものは存在する。ミュージカル映画の場合、「アクション」や「ドラマ」の代わりに「ミュージカル」が導入される。
 だからミュージカル映画って、ある意味「決定的なやり取り」を描くシーンってないんだ。そういうものは「歌と踊り」という抽象化された、ある意味でストレートな表現で描く。
 私が難しいな……と感じるのは、音楽に関する感性が極端に低いから。なにしろ歌詞を読んでも何が書かれているかほとんどわからない。「泣ける曲」なんて聴いても、「いや、別に……」という感じで。私の感性は「耳」じゃなくて「目」に極端に傾いてしまっている。だからミュージカルがとことん苦手。こういう映画を観る場合でも、音楽や歌詞ではなく、映像とか背景とかで読み取ろうとしてしまう。

 背景の話をすると「ラ・ラ・ランド」は不思議なくらい背景が「書き割り」っぽい描き方をしている。道路を歩きながら対話するシーンでも、対話して喋っているところは「リアルな描写」。間もなくハリウッドの夜景が見える場面が来るのだけど、そこに行くと背景が極端にピントから外れて、手前の人物にくっきり光が当たり、あの場面があたかも「舞台」っぽく見えるような構図と照明で描かれている。
 他のシーンでも同じように、わざわざ背景が「書き割り」っぽく見えるように描いている。これはミュージカルシーンを「リアルな場面」ではなく、そうしたリアルさとは切り離されたシーンである……と。舞台演劇で観るミュージカルのイメージに寄せて作っているからなんでしょう。
 ミュージカルの国アメリカでも、やっぱり「唐突に人が唄ったり踊ったりするのは変」という意識はあるようで、そうした情景が間に差し挟まっても違和感ないように、あえて情景をリアルに捉えない、象徴化して捉えられるようにシーンを作っている。

 間もなくミアとセブが恋人関係になり、ひたすらイチャイチャが描かれるが、始まって1時間ほどのところで唐突に喧嘩が始まる。台詞を追いかけて見ても「え? なに?」って感じだよね。それ喧嘩するようなこと……?
 ここがミュージカル映画の難しいところで、ミュージカルって「漫画」なんだ。描写が象徴化されている。台詞を読んでいてもなんとなく納得いかない……みたいに感じちゃうんだ。このシーンでは、喧嘩すること自体に意味があって、それ以外のところに実はさほど意味がないんだ。
 こういうところで、『ラ・ラ・ランド』を難しく感じた人はいるようで……。ミアの感情の流れがわからない、短絡的……と思った人も実際多いようで……。リアルな劇映画の組み立てを想定して映画を観ると、そういうふうに見えてしまう。「漫画なんだ」と思って観なければならない。そういう見方……要するに頭のチャンネルの合わせ方が難しい、というのがミュージカルの難しいところ。ミュージカル文化を持たない人が観ると「よくわからない」となってしまうところでもある。
 私もシーンや台詞で観ちゃう癖があるから、難しいと感じてしまう。

 まあとにかくも、シーンの内容はどうでもよくて、ミアとセブが喧嘩をしちゃうということだけが大事なんだ。で、続くシーンでミアが挫折して古里に帰ってしまう……。
 しかしセブがやって来て、「オーディションがあるぞ! 受けろ!」と無理矢理連れて行って、その結果、ミアはとある映画出演が決まってその後トントン拍子で大出世していき……。でもセブとは目指している世界が違うから、それきりお別れになってしまって……というのが後半。
 まあ夢みたいなお話だよね。そこに違和感を抱いた人は多かったようで。「ミアにとって都合が良すぎないか?」と。いくら何でも、そこに行くまでの感情の経緯やディテールが足りないんじゃないか……?
 リアリティを重きを置いた劇映画だとその通りなんだけど、これはミュージカル。そういうディテールはさっと飛ばして、シーンを象徴化して描いている。そういうものだと思って観なければならない。

 最後のシーンはミアが何気なく入ったお店がセブのお店だった。セブはずっと「自分の店を持ちたい」という希望を口にしていて、その夢を叶えていたのだった。
 店に入ると、セブはすぐにミアに気付くが、話しかけない。もう生きている世界も違うし、それぞれ違う人生を歩んでいるからだ。2人の思い出の曲を……他の客にはわからないけれど、2人にしかわからない思い出の曲を演奏する。
 それを聴きながらミアは思い出が書き換わっていく。ミアは大成功するまでには様々な苦労があって、大成功を掴んだ後でもあの下積み時代は「苦い思い出」として向き合えないでいた。失敗も多かったし、最終的に助けてくれたセブともお別れしてしまったことがずっと心残りだった。でも最後のシーンで、ミアの気持ちは慰められていき、「苦い思い出」も「いい思い出だったよ」と書き換わっていく。
 ここのシーン、『ニューシネマパラダイス』だね。苦い思い出が、ちょっとしたことでハッピーな記憶に書き換わっていく。そうやって人生が肯定されていく。
 結局ミアとセブは言葉を交わすことなく店を出て行くのだけど、ミアはセブの想いを確かに受け取って出て行くのだった……。

 とまあこんなお話だったのだけど、やっぱり私にはミュージカル映画ってハードルが高かった。ちゃんと感想文を書こうと思ったら、3回は観て歌詞の意味も一つ一つ洗い出さなくちゃいけない。そこまで観る時間がない。
 それに、なんでこの映画がそこまで世界的に大絶賛されたんだろう? というところまではわからなかった。わからないってことは、そこまでミュージカルの理解がないってことで……。
 久しぶりにミュージカル映画を観たけれど、やっぱり難しかった……。


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