とまべっちー

家庭教師です。本業の教育や受験のことの他に、バスケファンやスポーツライターが書かない視…

とまべっちー

家庭教師です。本業の教育や受験のことの他に、バスケファンやスポーツライターが書かない視点からのバスケ批評も書いています。

最近の記事

高校化学新課程 エンタルピーを学べる動画3選

 いよいよ来年度(2025年度)入試から大学受験の内容が新課程に切り替わります。高校化学では遷移元素の範囲が「3族~12族」に拡大されるといった細かい変更点もありますが、やはり一番大きな変化は「熱化学」の分野でしょう。従来の熱化学方程式が廃止され、エンタルピーが導入されます。まずこちらの動画で概要を確認しましょう。  新課程の教科書にはエンタルピーの他にエントロピーやギブスエネルギーについても記載されており、他分野(理論、無機、有機)でもこれらを絡めた応用問題の出題が予想さ

    • 八村塁は日本代表に参加しなくてもいいと思う理由

       バスケ日本代表と八村の関係についてTwitterでつらつらと考えていたら意外と長い連ツイになったのでnoteに再整理しておきたいと思います。予めお断りしておきますが、八村は日本代表に参加しなくなった件について詳しく説明していませんので、すべては私の憶測にすぎません。勝手な考察をするだけの記事ですので不愉快な方はどうぞここでお引き取りください。 八村の気持ちは「国籍は関係ない」ではないのか  八村はベナンと日本のハーフです。NBA選手になってから自らを「BLACK SAM

      • 浪人して伸びるのは知識、伸びないのは能力

         浪人生を指導してきた経験から、いま浪人を検討している人に向けて一筆書きたいと思います。まず過去記事の紹介から。  受験生は浪人することで一体どのくらい偏差値が上がるのでしょうか?客観的なデータはあるのでしょうか?この素朴な疑問を追究した記事です。大手予備校はそのデータを持っているわけですが、なぜか公表していません。考えられる理由は1つだけで、浪人しても思うように成績が上がらない人が多いからだというのが私の結論です。ぜひご一読ください。  その記事で書きましたように、私は

        • 恩塚監督 怒らない、抑圧しない、それでも選手は強く戦える

           女子バスケ日本代表がパリ五輪出場権を獲得しました。世界ランク9位の日本から見れば格上のスペイン(4位)とカナダ(5位)に勝利して堂々と自力出場を決めました。私も当然嬉しかったわけですが、なぜ嬉しいのか、この結果にどんな価値があるのかを少し語っておきたいと思います。 マッチョイズムからリベラリズムへの過渡期  恩塚監督の功績は色々な側面から語ることができます。バスケクラスタの人たちは純粋にその戦略面を語るほうが楽しいかもしれません。しかし私は今回は、もっと広くスポーツ一般

        高校化学新課程 エンタルピーを学べる動画3選

          東畑開人『ふつうの相談』~個別指導講師から見た感想

          過去の東畑本の印象は「人文的なエッセイ」  東畑開人は臨床心理士だが、いつも臨床心理学を外から眺めようとしている。東畑の本を読むと臨床心理学という学問はかなり奇妙なものであるらしいと感じる。いくつもの学派があり、それぞれの思想に従って臨床をすることになっている。私ならすぐ「科学的エビデンスは?」と問いたくなる。どうやら臨床心理学にはそういう所があるらしい。要するに、「怪しい」ところがあるのだ。東畑の本からはそんな臨床心理学への批判的な視線が強く感じられる。  東畑の本は人

          東畑開人『ふつうの相談』~個別指導講師から見た感想

          背伸びしてワンランク上に進学しても意味がない理由

           こんな記事がありました(有料記事)。  難関校に進学しても、その中で成績が下位の生徒たちはモチベーションが下がり、学力が低迷してしまう傾向があることが知られています(俗に「深海魚」と言われています)。欧米では既にそれを確かめる大規模データ分析が行われており、学校内での相対的な順位がその後の学力を有意に予見するという結果が出ています。この記事は、それを日本のデータでも確かめることができたとするものです。  学校内の順位が高いほどその後の学力にポジティブな影響があります。逆に

          背伸びしてワンランク上に進学しても意味がない理由

          橘玲、安藤寿康『運は遺伝する』

           遺伝の話をする。遺伝は知能にも性格にも影響を与える。行動遺伝学により遺伝の影響の大きさが明らかになっている。それを踏まえて、教育とか社会設計とかを考えなければならない。日本の行動遺伝学の第一人者といえば慶応大学の安藤寿康であり、一方、遺伝学の知見を世間に紹介してきたエバンジェリストとしては橘玲の右に出る者はいない。この二人の対談本が2023年11月に出版された。最新の「遺伝本」である。 これは生まれつきの遺伝子配列の話だ  まず最初によくある先入観に対して釘を刺しておか

          橘玲、安藤寿康『運は遺伝する』

          キャスリン・ペイジ・ハーデン『遺伝と平等』~「遺伝リベラル」の立場から

           リベラルは遺伝学の知見を無視する傾向が強いが、無視する必要はないし無視するべきでもないとハーデンは言う。遺伝学の知見に基づいてこそ、有効な打ち手が見つかるのだと。遺伝学を優生思想から取り返す試み。  本書は第1部と第2部に分かれている。第1部は最新の遺伝学の知見を解説するパートであり、知能も非認知スキルも遺伝の影響を受けることを示す。ここまでは安藤寿康や橘玲の読者ならお馴染みの内容だ。ただし本書はアメリカというお国柄を反映して、人種差別に対する牽制を繰り返している。仮に黒

          キャスリン・ペイジ・ハーデン『遺伝と平等』~「遺伝リベラル」の立場から

          電車に乗ってきた2人の小学生の話

           帰り道、電車に乗っていたら小学生が入ってきた。男の子と女の子の二人だった。向かいの座席に横並びに座って賑やかにお喋りしている。女の子は靴を脱いで座席に横座りになっている。それくらいの年齢だ。3年生くらいだろうか。私は本に目を落としながら、お喋りのリズムを聞くともなく聞いていた。  やがてお喋りの抑揚がなくなり、女の子が一人で何か呪文ようなものを詠唱し始めた。やたら早口で、次から次に言葉が出てくる。あまりに不自然なのでYouTubeを再生でもしているのかと思ったくらいだった。

          電車に乗ってきた2人の小学生の話

          矢野利裕『学校するからだ』~規律と自由は両立するか

           本書は学校現場のほっこりするエピソードを集めたエッセイだ。読みやすく、真面目で善良な教育本として読まれているのだろうと思う。尖ったところはないし、だいぶ保守的な教育観を示しているし、まあ誰が読んでもすんなり読めると思う。  本稿では、本書から読み取れる矢野の教育思想を整理しつつ、私の個人的な関心に基づいて検討を加えたいと思う。 教員は芸人?  矢野には憧れの教師はいないそうだが、爆笑問題の太田光のことを「最も敬愛する先生」と呼んでいる。  こんな教師はめったにいないと

          矢野利裕『学校するからだ』~規律と自由は両立するか

          矢野利裕『教育と市場、ときどき身体』 ~「新自由主義」批判の何が問題か

           雑誌「現代思想」は毎年4月に教育特集を組んでいる。近年その特集の舵取りをしているのが大内裕和と三宅芳夫であり、彼らは日本の教育の現状を語るときに頻繁に「新自由主義教育改革」が悪いと言う。2023年4月号の巻頭対談でも「新自由主義」という単語が何回出てきたか数えたくなるくらい頻出していた。しかし、その数ページ後ろに掲載された表題の矢野論文には「「新自由主義」批判を超えて」という副題が付いており、まさに上記巻頭対談のような言説に待ったをかけている。私たちはつい「新自由主義」とい

          矢野利裕『教育と市場、ときどき身体』 ~「新自由主義」批判の何が問題か

          川谷茂樹『スポーツ倫理学講義』が暴いてしまったもの

           スポーツ倫理学の第一人者である川谷茂樹の『スポーツ倫理学講義』を読みました。川谷は世界の潮流に反して勝利至上主義の立場で論陣を張っている異端の倫理学者です。(1968年生まれですが早逝しています。)本書は川谷37歳の著作であり、既存のスポーツ倫理学に対して一人敢然と異議申し立てを行うという刺激的なものです。今回はこの問題作を読みながら、川谷茂樹が暴いてしまったものは何かという視点で考察していきたいと思います。 倫理学のご都合主義な性質  スポーツ倫理学者のほとんど全員が

          川谷茂樹『スポーツ倫理学講義』が暴いてしまったもの

          スポーツIQなる言葉にまともな定義がない件

           スポーツIQ、たとえばサッカーIQとかバスケIQという言葉がありますが、それはどういう意味なのでしょうか?一般的な意味での(知能テストで測定されるような)IQとは何が違うのでしょうか?私は気になって調べてみましたが、まともな定義がどこにもないようです。ただ言葉だけが独り歩きしており、皆さん何となく雰囲気で使っているようです。「サッカーIQを高めるための練習方法」といった話をする人はたくさんいますが、サッカーIQとは何かという説明はろくにしていません。何となく雰囲気で流通して

          スポーツIQなる言葉にまともな定義がない件

          受験知識で解ける帝京大医学部数学

           帝京大学医学部の入試問題について考察します。今回見るのは2023年の数学です。(赤本掲載の①です。帝京医は入試日が3日間ありますが赤本にはそのうち2日分が掲載されています。)  なぜこれを考察するかと言いますと、個人的に気になる所があるからです。それは、標準的な解き方のほかに抜け道が用意されている問題がやたら多いということです。まるで私立医学部専門の予備校が提供する入試テクニックを使ってくださいと言わんばかりの出題に見えます。これは一体どういうことなのでしょうか?  具体

          受験知識で解ける帝京大医学部数学

          宗教2世と医者の子どもは似ている

           新興宗教2世の方の半生を綴った手記がとても良かったので紹介します。  何ヶ所も印象に残ったので引用しながら感想を付けていきます。とくに受験産業にいる私から見て既視感のある話題がいくつもありましたので、それを中心に拾っていきたいと思います。  まずは16歳~18歳の頃、最も信仰に熱かった時期のお話。  この教団はなぜか二世の子供たちに東大などの難関大学受験をさせていたそうです。合格することだけが目的であり、それを蹴って教団に就職するのがルートだったと言います。筆者

          宗教2世と医者の子どもは似ている

          学力論争史(松下佳代論文)を読んで

           下記で紹介されていた論文を読んでみました。3ページのPDFファイルです。  学力論争は戦後に始まり、第1期から第5期に渡って行われてきたそうです。そのうち第4期は1991年の「新学力観」(「関心・意欲・態度」の重視)に対する批判として、竹内常一らは「イリイチの脱学校論やフレイレの批判的リテラシー論などのポストモダンの教育言説」に依拠して、「批判的な学び方の学習」を主張したそうです。当時かなり影響力を持っていたそうです。  学力概念は肥大化しやすく、多義的で曖昧な議論にな

          学力論争史(松下佳代論文)を読んで