見出し画像

受験知識で解ける帝京大医学部数学

 帝京大学医学部の入試問題について考察します。今回見るのは2023年の数学です。(赤本掲載の①です。帝京医は入試日が3日間ありますが赤本にはそのうち2日分が掲載されています。)
 なぜこれを考察するかと言いますと、個人的に気になる所があるからです。それは、標準的な解き方のほかに抜け道が用意されている問題がやたら多いということです。まるで私立医学部専門の予備校が提供する入試テクニックを使ってくださいと言わんばかりの出題に見えます。これは一体どういうことなのでしょうか?

 具体的に問題を見ていきます。(考察記事の必要上最小限の引用をしています。)

 この問題の標準的な解き方は、3次関数 f(x) を 
  f(x) = a(x-p)(x-2p)(x-α)
と置いてからf'(p)等を計算して連立方程式を解くことになります。しかし実は抜け道があり、3次関数の図形的な対称性よりα=3p/2と予想することができてしまいます。解答のみを記入する試験ですから、これで大幅な時間と労力の節約ができます。

 次はこちら。

 まず2つの式をそれぞれ両辺2乗してから両式を足し合わせます。sin^2 + cos^2 = 1を用いて整理した後、sinの加法定理を使えることに気づけば sin(x+y)=0 と分かります。
 問題はこの後です。普通に計算を進めれば
  sin x=(√6-√2)/4 または cos x=(√2+√6)/4
が出てきてしまい、その角度を答えなければならなくなります。これでは詰まってしまうので三角関数の合成等を駆使してなんとか工夫する必要があります。しかし、実際には医学部予備校に通う受験生たちはこれらの数値が15°のsin、cosの値であることを知っています。予備校で教えているのでしょう。その知識を用いれば工夫を考えることなく解答できてしまいます。

 次はこちら。

 一般的な解法は
  2^16 = 65536 < 100000 < 2^17 = 131072
より整数部分は16というように求めていく作業になりますが、log[10]2 = 0.301であるという知識を使って計算すると早いです。これは化学などで頻繁に使う値なので自然と覚えてしまう人も多いかと思いますので受験知識とまでは呼べないかもしれませんが、抜け道であることはたしかです。

 以上見てきましたように、たった一年分の入試問題の中に3題も抜け道が用意されている問題がありました。受験知識やテクニックがまんまと利用できる問題です。常識的に考えればこのような入試問題は好ましいものではないはずです。実際に国立大などではこのような出題はまずありません。しかし、私大医学部では毎年毎年このような出題が繰り返されており、予備校では知識やテクニックの指導が続けられています。ある独特な生態系が出来上がっており、奇妙な安定性を保っているのです。

 ところで、多くの大学がネット上に過去問を掲載する中、帝京大医学部の入試問題はネット上で見ることが出来ません。オープンキャンパスでも医学部の問題だけ配布されなかったという報告もあります。

  どうやら帝京大医学部は入試問題をなるべく見られたくない事情があるようです。赤本でさえ3日間すべての問題が掲載されているわけではありませんので、どこにも公表されていない問題もあることになります。どうにも胡散臭い印象を受けるのは私だけでしょうか?

 ここからは私の個人的な考察になります。帝京大をはじめ、私立医学部の多くは受験知識があると得ができる問題を出題しやすい傾向があります。正攻法で解くと時間がかかりすぎ、抜け道を使うことを推奨しているかに見える問題も少なくありません。一体どうしてこのような出題傾向になっているのか、そしてなぜ大学はそれを改善しようとしないのか。
 穿った見方をすれば、予備校と癒着している可能性もあるかと思います。医学部受験というビジネスを成り立たせるためには医学部入試が特殊なものであるほど好ましく、予備校が授ける特殊な知識やテクニックが実際に使える試験でなければ困ります。予備校と一緒に医学部入試の生態系を守ろうとしているように見えなくもありません。
 もっと深読みすれば、高額な医学部予備校に通えるような受験生を優遇したいという大学側の意図があるかもしれません。間接的に家庭の経済力を測っているというわけです。
 もし好意的に解釈するなら、次のようなストーリーを語ることもできます。医学部受験生は必ずしも才能のある人ばかりではなく、それでも4浪したり5浪したりして医学部を目指している人たちがいます。学力自体はとっくに頭打ちになっており、これ以上できることといえば小手先の知識やテクニックを増やすくらいしかありません。そういう多浪生にも門戸を開くために、あえて抜け道のある出題をし続けているのだという解釈です。家庭の事情などで何浪してでも医学部に入らなければならない人もいる特殊な世界だけに、そういう配慮がなされることは必ずしも悪いこととはいえないのかもしれません。

 以上で考察を終わります。最後に代表的な受験テクニックの動画を貼っておきますから、受験生の皆さんは頑張って勉強してくださいね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?