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浪人して伸びるのは知識、伸びないのは能力

 浪人生を指導してきた経験から、いま浪人を検討している人に向けて一筆書きたいと思います。まず過去記事の紹介から。

 受験生は浪人することで一体どのくらい偏差値が上がるのでしょうか?客観的なデータはあるのでしょうか?この素朴な疑問を追究した記事です。大手予備校はそのデータを持っているわけですが、なぜか公表していません。考えられる理由は1つだけで、浪人しても思うように成績が上がらない人が多いからだというのが私の結論です。ぜひご一読ください。

 その記事で書きましたように、私は基本的に浪人は勧めません。しかし本稿ではより具体的に、浪人して伸びるものは何か、伸びないものは何かを解析してみます。その結果、浪人して見込みのある人と厳しい結果が予想される人が浮かび上がってくるでしょう。先んじて結論を言えば、元々能力の高い人は浪人するメリットがあり、能力の低い人は浪人しても厳しいという話になります。


浪人して伸びるのは知識

 浪人生は受験勉強をもう一年やるわけですから経験が増えます。入試問題の傾向や難易度も頭に入っているでしょう。典型的な問題は考えなくても自然に手が動くようになるかもしれません。そして、知識は確実に増えます。暗記問題の得点は向上するでしょう。また、数学や物理などの典型問題の解法パターンを定着させることもできます。これも広く言えば知識であり、暗記の要素があるからです。したがって今年は知識の定着が甘かったとか、典型問題の習得が甘かったという反省がある受験生は、浪人すればその面は改善が見込めるでしょう。

浪人して伸びないのは集中力

 集中力は個々の人間の特性ですので、環境次第で大きく上下するものではありません。特段の事情(病気や災害、家庭内不和など)がない限り、浪人することで集中力そのものが向上するとは期待しないほうがいいです。しかし、それを期待したくなる事情もあります。浪人生の一日はとても長いからです。集中力が短い人は長い一日を持て余してしまいます。これこそが私が思う浪人の一番の難しさです。いくら時間があっても計画通りに(10時間とか)勉強できるわけではないのです。疲れてしまう。飽きてしまう。十分なテンションを一年間維持できる人はむしろ稀かもしれません。そして集中力が不安定な人は精神的な状態も乱高下しやすいですので、メンタルヘルスのリスクも大きくなります。淡々と毎日の課題をこなし続けることができるかどうかです。今年までそれが出来た人は来年もできるでしょうし、今年まで出来なかった人は来年もできないでしょう。集中力、とくに瞬発的な集中力より持久力が浪人生には必要です。脳のスタミナ、耐久力。感情面ではとにかく落ち着きが大事です。イライラしやすい人にとって浪人生活は罠だらけです。
 まとめますと、浪人するならそれ相応の集中力のスタミナがあることが必要条件です。一日の大半を持て余してしまうようでは仕方ありません。

計算力も伸びない

 典型的な計算問題を上手に解けるようにはなります。立式の仕方や処理の仕方を工夫して、できるだけ簡便に解けるようにする工夫をすべきです。しかし、そもそも計算ミスが多い、計算が遅い、しばしばトンチンカンな立式をしてしまうというような症状がある人は、その根本的な解消は難しいでしょう。一定の割合で計算ミスもし続けてしまうでしょうし、計算が急に速くなるということもありません。したがって、共通テストで高得点を要求される大学を狙うのは難しいでしょうし、制限時間の厳しい試験を目標にするのもどうかと思います。

思考力も伸びない

 思考力がある人は始めからあります。今年思考力問題に通用しなかった受験生が、来年にはそれが得点源になるということはまずないでしょう。もちろん典型問題を習熟することで対応できる範囲は広がりますので、ある程度の改善はするでしょうが、そもそも深く考える癖のある人とそうでない人とでは普段の勉強の仕方から違いますし、深く考えようとしない人はそれが苦手だからしないわけなので、意識すれば出来るようになるというものでもあまりないと思います。とはいえ、受験では必要な能力なので訓練しないわけにもいきません。思考力問題も解き続けていくことになるでしょう。しかしそこが伸びるかといえば、あまり期待はできないということです。

浪人に向いている人は

 以上のことから、浪人に向いている人は下記のような人ということになります。まず十分な集中力、落ち着きがあること。そして計算力や思考力があること。要するに地頭が良いということです。こういう人は浪人することで知識、経験を補強して目標に到達できる可能性が高いといえます。もっと分かりやすく言えば、基礎的な知的能力を持っている人は成果を上げやすいですよ、という身も蓋もない話です。

 では、これらの能力は乏しくても浪人したい人はどうすればいいのでしょうか。その場合はよほど熟慮しなければなりません。まず、何のために浪人するのかをとことん掘り下げるところからやらないと駄目です。成果が出る見込みが薄いのにあえてやるからには、相当緻密な考えがなければいけません。たとえばどうしても医者になりたいので5浪くらいまでは覚悟しているとか、それでも駄目なら最悪フリーターになっても構わないと腹を決めるとか、そういうことが必要です。もちろん、能力の高い人たちの派手な活躍が目に入っても一々オロオロしない精神性も必須条件になります。(たとえばTwitterの受験垢やYouTubeの現役東大生の動画などを見てはいけません。)

 難関大学になると受験生にかなりの地頭の良さを要求してきますが、中堅~下位の私立医学部や地方国立大くらいであれば、一定程度の能力があれば時間をかけて仕上げていくことは十分可能です。たとえば帝京大医学部の入試問題を分析した記事も書きました。中堅~下位の医学部では、決して能力に恵まれていない多浪生に配慮した出題がなされているように見えます。

 さて、以上で本稿で書きたいことは書き終えました。最後に、進路は親に決めさせないで受験生本人が決めてほしいという思いを込めて、もう1つ過去記事を紹介して終わりにします。公開以来継続的に読まれている、私にとって大事な記事です。

 また、浪人生向けの予備校にも色々ありまして、中にはスパルタ方式の管理型の予備校もありますし、なにか宗教のような、洗脳のようなやり方で無理やりテンションを上げようとする塾もあります。そしてそういう塾に子どもを入れたがる保護者が必ずいるものです。まるで引きこもりの息子を無理やり自衛隊に入れる親のような発想です。上述したように、そんな塾に放り込んでも子どもの能力が上がるわけではありません。無理をさせた分だけ多少知識や経験が多くなるだけです。受験は親のエゴでするものではありません。受験生本人が自分の意志で、しっかり納得して決めましょう。


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