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家で二人きりでジェンガをした男女に未来はあるのか?

「男女の仲というのは、夕食を二人っきりで三度して、それでどうにかならなかったときは諦めろ」

かつて、映画監督の小津安二郎氏はそう言った。
果たして本当にそうだろうか?と二十代を折り返して思う。
男女の仲というのは、たった三度の食事で決まってしまうほどシンプルなものでしょうか?と今は亡き監督に問いたい。

付き合う前に相手の家に行くかどうか、という重要な問題が女にはある。
「この後、どうする?」
「うちそこなんだけど、寄ってく?」
「コーヒーでも飲んで行きなよ」
こんな甘い言葉をかけられたとき、思わずごくりと唾を飲み込んで考える。

付き合ってもいない男の家に行ってよいものだろうか。
でも「Hして行きなよ」じゃなくて「コーヒー飲んで行きなよ」だし。
いやいや「Hして行きなよ」なんて思ってても口にする人いないわ。
まぁ今日はコーヒーだけ飲んで帰るか。
本当にコーヒー飲むだけで終わる???
んなわけあるか。

こんな風に迷っている時点で戦には負けている。
迷っていることが相手に伝わり
あれよあれよという間に言いくるめられて
気がついたらコーヒーをごちそうになる前に
自分がごちそうになっている、なんてことが女には起こりうるのだ。

ところが。

ある友人は付き合う前に相手の家に行って、
夕食を食べた後、二人でジェンガをし、そのまま終電で帰ったという。

え?

No sex, but Jenga?

ひどく心を打たれた。
家にまで行ってジェンガだけで帰してくれる男などユニコーンと同じくらい稀有な存在ではないか。
いい。ものすごくいい。
正直、付き合う前などこれくらいでいい。

クラフトビールなんか飲みながら一本一本慎重にジェンガを引き抜いて
「え、そこ行く?」
「ヤバいかな?」
「ヤバそうだけどどうぞ行っちゃってください」
「まぁ指細くて器用だからね~」
とかなんとか言っちゃってるんでしょ、あんたたち。
最高かよ。尊いかよ。

体の相性なんてそんな最初から確かめなくていい。
ただ二人でジェンガをして楽しむくらいがちょうどいい時期がある。
と個人的には思う。

付き合う前の男性と二人きりになった途端、突然流れ出すあの男女の雰囲気が苦手だ。
シンとした重たい沈黙、1Kに響く唇の乾く音、湿度のある空気。
好きな人に対する心地よかったはずのドキドキが徐々に苦しいほど胸を圧迫し、どこから攻めて来るんだろう、というかもはやどこから食われるんだろうくらいのテンションでただ相手の反応をうかがいながら待っているあの時間。
沈黙が気まずすぎて訳の分からない会話を始めてしまう。

「ク、クマノミってメスが死んじゃうとオスが性転換してメスになるらしいよ」
「えっ、どした急に」
「なんか急にクマノミの話がしたくなって・・・」
「オスとメスの話?」
「いや、そういう意味じゃなくて・・・」

何度バラエティーにチャンネルを合わせてもふいにメロドラマに戻されてしまうような感覚。
いずれ最後はメロドラマになるんだから、もう少しバラエティーを楽しみませんか?
と思っているうちにキスされて、メロドラマまっしぐらーーー。

だから、ジェンガ最高!!!

ところが、友人のほっこりエピソードに心打たれる私の横で別の友人が言った。

「それってどうなの?私だったら家で二人きりなのに手出して来なかったら脈ないのかなって思っちゃう」

女とは悲しい生き物で、付き合う前に手を出されたら大事にされてないのかなと疑い、手を出されなければ脈がないのかなと落ち込む生き物なのだ。

夕食を二人きりで三度して何も起こらなかった男女に未来はあるのか?

改め、家で二人きりでジェンガをした男女に未来はあるのか?

答えはーーー「ある」と私は思う。

先の彼女は後にジェンガ男子と付き合うことになった。
そもそも三回目のデートで告白されなかったら脈なしとか、
家で二人きりで手を出されなかったら脈なしとか、
誰が決めたの?

自分たちのペースでいいじゃないかと思う。
私たちは別に世論を模範に生きているわけじゃないし、
占いに従って生きているわけでもない。
四回目のデートで告白されることもあれば、
五回目のデートで告白されないこともある。
男女の関係など付かず離れずな微妙な期間だってあるし、
最初に一線を越えてしまって後戻りできない関係になることだってある。
「ケン!ケン!パ!」みたいなテンションで関係が進捗することの方が少ないし、関係を始めることよりも維持・継続していくことの方がよっぽど大変だ。

三回目のデートで告白するとか、
A型は真面目で几帳面だとか、
てんびん座の人と相性がいいとか、
そういう誰が決めたのかも分からない謎ルールに囚われることなく、
ただ目の前の人と向き合って
その人との対話の中で自分たちのペースで関係性を深めていくことこそが、私たちに与えられた唯一の正解のような気がする。

たとえ、その対話がジェンガであっても。


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