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フリーライターの者ですが、生産性クンと絶交しました

 およそ、16時間。この1週間で、私が猫の動画を観てすごした時間だ。

 みなさんもご存じのとおり、インスタグラムはユーザーの好みに応じ、おすすめ動画をガシガシ提案してくれる。

 私はまんまとその沼にハマッた。そしてこの1週間、仕事の合間に猫の動画を観ては、その愛くるしい姿に癒されていたというワケである。

 とはいえ私はフリーのライターなので、原稿を完成させないことには1円もお金が入ってこない。つまり、サボればサボるだけ毎月の給料が減る。生産性が低いと、そのぶん給料も低い。

 なので仕事をほっぽり出してソファに寝ころがり、3時間も4時間も続けて猫動画を観てしまったときは、さすがにマズイと思った。

このままじゃ……給料が増えないよォ……

 そう思ってはいるのだが、インスタグラムのおすすめ欄には、どんどんどんどん猫の動画が表示されていく。

ああ、かわいい……猫……かわいい……

 いちどハマッた沼からは、なかなか抜け出せない。こうして私は、仕事の合間に猫の動画でエネルギーを補給しないと、原稿と向き合えないカラダになってしまったのである。

猫動画の時間で、いくら稼げたのか


 私がこの1週間で無駄にした16時間とは、いったいどれくらいの価値を持つのだろうか。

 ここでは、私のようなB級ライターの相場価格に当てはめて考えてみたい。

 つまり、ライター個人の名前を冠して文章を書いているのではなく、『何人か候補がいるうちの、とあるライターさん』として記事を制作しているライターのことだ。

 おそらく、現在「職業ライター」を名乗っている人間のうち、90%以上はこれに該当する(95%以上かも?)。

 とくにウェブ界隈では、かつての内職のようなノリでライター業を始められる環境なので、個人の名を冠した記事を書いているライターなど、ほんとうにひと握りではないだろうか。

 で、そんなB級ライターの相場は、ウェブメディアだと記事1本1万5000円(税別)~の場合が多い。これが紙メディアだと、「1ページいくら」という計算方法になる。なので数十ページにわたる原稿を書くと、わりかしまとまった金額になったりする。

 せっかくnoteというウェブサービスを使ってこの記事を書いているのだから、ここではウェブメディアの想定で話を進めたいと思う。では、ウェブメディアの原稿とは、完成させるまでに何時間程度かかるものなのか。

 もちろんこんなものは、ケースバイケースとしか言いようがない。だが、私がこの1週間で無駄にした16時間の価値をはかるために、とある原稿を例にとって考えてみたい。

近所の取材で、3000字の場合

 たとえば私に、ウェブメディアの記事制作依頼がきたとする。金額は上述した相場価格の1万5000円だ。内容は、新しくオープンした自転車屋さんの紹介記事だとしよう。文字数は3000字程度。取材は45分。移動時間は往復で1時間。これをベースに、考えていきたい。

 まずは、そのお店の下調べに、1時間ほどかかるハズだ。いつオープンしたのか。自転車のラインナップは? すでに掲載してるメディアは? インスタグラムでは人気? などなど。

 そしてお店を訪れ、取材を終えた私は、帰宅してから「文字起こし」という作業に取りかかる。これは自転車屋さんで対応してくれた方との会話を、すべて文字にするということだ。文字起こしは、45分の会話であれば90分くらいかかる。つまりここまでに、

1時間(予習)
45分(インタビュー)
1時間(往復の移動)
90分(文字起こし)

計4時間15分

 が、この原稿の制作にかかっている。

 そして、いざ原稿を書いていくのだが、ここから先はちょっと読めない部分がある。自分のなかで取材内容をうまく消化できていればいいのだが、そうでないと追加取材が必要になったりする。ネットで調べたり、場合によっては自転車屋さんに電話をかけたりする。

 が、ここでは「消化がうまくいってる場合」でいったん話を進めよう。となると、このケースの原稿は、下書きにだいたい1時間、完成におよそ90分、見直しに1時間、といったところだろうか。

 なので、取材を終えてから費やした時間は、約3時間半。さきほどの4時間15分と合わせると、7時間45分。今回の超絶ざっくりとした計算では、私は7時間45分で、1万5000円の原稿を書き終えたこととなる。

 これで、16時間の価値が出せそうだ。7時間45分など実質8時間だから、単純に×2をする。8時間で1万5000円×2=16時間で3万円。

 つまり、私がこの1週間で猫動画に費やした16時間には、3万円の価値があったことになる。

 4週間で1か月だとすると、12万円だ。計算上、もし私が猫動画を観ずに仕事にあくせく励んでいたら、月末の振り込みに12万円プラスされていたことになる。なるほど、計算してみるとなかなか、衝撃である。

 これだったら、1か月くらい猫動画を観ずにはたらき、稼いだ12万円で本物の猫を受け入れる道具を買いそろえ、自宅でニャンニャンゴロゴロと、リアル猫と遊ぶほうがよさそうなものだ。

 しかし、こんなものは机上の空論でしかない。うまい具合にピッタリと「16時間×4」を埋められる仕事をもらえるワケではないし、すべての原稿が8時間で終わるハズもない。

 それになんだか、時間で原稿を考えるのって、とてもイヤなものである。インタビューさせてもらった限りは精一杯いい原稿を書きたいので、「コスパ」で仕事を選び出したらライターとして終わってる気がする。名前が表に立っていないB級ではあるが、取り組む姿勢くらいはA級でいたいものだ。

 なので結局私は、生産性を気にしないことにした。「8時間×nセット」で書く原稿を増やすよりも、出来上がりの質がよくて、もらえる金額も高い仕事にありつけるよう努力する。

 ……ってことは、いままで通り、仕事の合間に猫の動画を観ていいということか。だって、私がこれから目指すのは、原稿の回転率よりも質のよさなのだから。

 なんだ、じゃあ悩むことはない。明日も心ゆくまで、猫の動画を観ちまおう。いつかやってくる猫関連の原稿に備えて、ニャンニャンゴロゴロと感性を磨いておくことにする。さらばだ、生産性クン。もう二度と、君の顔を見ることはないだろう。せいぜいデータとにらめっこしながら、コスパのことでも考えてくれたまえ。



(ほんとうは私ももうちょっと、効率よく集中して原稿に取り組みたいものである……)




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