さかき

ゲーム、猫、物書き。

さかき

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最近の記事

寝込んでいた時のこと。

陽性反応が出る前に、体調が悪く、とても風邪とは思えないことを、近所に住む実家へ連絡しておいた。 陰性のうちから了解していた家族が、食事を玄関先に届けてくれるらしく、ひとまずホッとした。 ピンポンとインターホンが鳴り、食事をとりに行くと、発泡スチロールの箱の上にお盆があって、食事が紙皿とプラ容器によそってあり、いつもとは違う環境に物寂しさをおぼえた。 体温は一時38.5℃まで上がったが、すぐに解熱し、夜になると37℃台後半まで上がるのを繰り返した。 同僚にそれとなく聞いてみると

    • 新型コロナ

      私に第一報が入ったのは、利用者がおやつを食べ終わって、間もなく帰りの支度を始めようかという時だった。 デイケア利用者Fさんが寒気を訴えたので、検温したら38℃あったという。 ワクチンを5回接種しましょうと呼びかけられているこの時に、本人の希望で、新型コロナウイルスのワクチンを一度も接種していない。 本人によると、体調不良の自覚は前日からあったが、体温は平熱だったし大丈夫だろうと思って来所してしまったという。 いつもいる看護師がその日は不在だったため、看護師長に指示を仰いだ。

      • レクリエーション企画

        ハヤくんは以前、この事業所で相談員をしていた職員だ。 この事業所での介護士歴が長いので、デイサービスの利用者も、デイケアの利用者も、みんながハヤくんのことを知っていて、慕っていた。ハヤくんも、デイケアの利用者もデイサービスの利用者も全部情報が頭に入っていて、なんでも知っているんじゃないかというくらい、詳しい人だった。 私は相談員として入ったばかりで、ハヤくんからいろいろな業務を教わってきた。 しかし入職して2ヶ月も経たないうちに、ハヤくんは亡くなってしまった。 ハヤくんは仕

        • イベントの企画

          朝、利用者が来所した時が1番忙しい。 転ばないように車から降りて、事業所内に誘導して、上着を脱いでもらい、ハンガーに掛けて、手洗いうがいをしてもらい、席についてもらう。 人によっては順序が逆だったり、寒いからしばらく上着は脱がないということもある。 「おっ、さっちゃんじゃないか」 「おはようございます、Eさん」 さっちゃんとはEさんが私につけた愛称だ。Eさんは私が入職してすぐから何かと気にかけてくれ、可愛がってくれている、デイサービスの男性利用者だ。 デイケアの利用者への挨拶

        寝込んでいた時のこと。

          リスクマネジメントと安心出来る生活のあいだ

          ハヤくんは、私が入職した時に相談員の仕事を教えてくれた年下の先輩だ。 しかし、私が入職して2ヶ月足らずで、この世を去った。 ハヤくんの引き継ぎを受けて、他の職員の助けを借りながら、私はなんとか仕事をこなしている。 引き継ぎは中途半端ではなかったが、完全でもなかったから、私は色々調べたり人に教わったりしながら仕事を進めていた。 そんな時、ハヤくんが戻ってきた。他の職員に彼の姿は見えない。ハヤくんは事業所の中で、私の引き継ぎの続きをしたり、利用者に寄り添ったりして、以前よりゆった

          リスクマネジメントと安心出来る生活のあいだ

          相談員の武器

          通所事業所では各利用者について、定期的にカンファレンスを行なっている。 ある日のカンファレンス実施予定者に、Dさんの名前もあった。 「Dさんは、このところ、利用日は毎朝転倒しています。先日は利用中に意識低下がありました」 「そのあとすぐ戻ったんですよね」 「はい。ただ、前日の転倒で頭部を打撲していますから、それによる影響もあるかもしれないということで、病院受診をしていただきました。結果は異常なしということで、先生から経過観察の指示がありましたね」 看護師から経過の報告があり、

          相談員の武器

          マニュアルの見直し

          新人はだいぶ仕事を覚えて来た。最近は事務作業を彼が、受け入れ窓口やサービス担当者会議などの表立った業務は私が担当するなど、役割分担がはっきりして来ている。何でもかんでも私に仕事が回って来た数ヶ月前と比べると、負担は軽い。 休憩時間が終わり、席に戻ったら、新人が私を見つけて顔を上げた。 「さかきさん、Bさんが来週いっぱいお休みだそうです」 「はい。送迎表の名前は、消しましたか?」 「あ、いや、まだです」 「お願いします。あ、理由はなんと言ってました?」 「それは…」 新人が口籠

          マニュアルの見直し

          遅い新人研修とフラバ。

          送迎に連れて行ってもらえることになった。 入職してすぐに受ける研修だから、本当なら私も入職した時から送迎に付いて行くべきだったが、先輩であるハヤくんが退職することになり、その後色々あって研修どころではなくなってしまったので、後回しになっていた。 「やっとさかきさんも新人研修を受けられるね」 「もう新人とは思えないんだけどね」 口々に投げかけられる冷やかしの声に、つい胸が高鳴った。送迎は初めてではない。以前勤めていた職場でもやってきたし、ここでもハヤくんに何件か連れて行ってもら

          遅い新人研修とフラバ。

          もう恋なんてしない。

          事業所の鍵がある。 主任、リーダークラスの職員が持っていて、朝晩誰かが解錠、施錠している。 私は平社員だけれど、生活相談員という職種柄、残業が多いから、と主任から手渡された、ハヤくんからのお下がりだ。私はハヤくんの鍵、と呼んでいる。事業所ではなく、ハヤくんから預かっているだけの鍵だと思って持っている。 ハヤくんは、相談員として入職した私に引き継ぎをして、2ヶ月足らずで亡くなった、年下の先輩だ。 ハヤくんが亡くなって、持ち物を確認したハヤくんのお父さんから、これは見覚えの

          もう恋なんてしない。

          事故後カンファレンス

          事故が起こった。 風呂場で利用者を転ばせてしまったという。 介護士が付き添っていながら、こんな事故が。 何をおいても利用者のもとに駆けつけて、お詫びする。 風呂から上がった利用者の前で、正式に謝罪した。 主任に報告をして、家族、担当のケアマネに伝えて、謝罪した。 骨折などの大事にならなくて良かった、うちの人は体が大きいから、逆に介護士に怪我をさせていないか心配…など、優しい言葉をいただいた。 「事故報告書を書きますね」 当事者の介護士がリーダーに言うのを聞いて、私はつい首を

          事故後カンファレンス

          心の音

          強い雨が降る夜は、ゆずの唄と共にこんな出来事を思い出す。 この事業所に入ってから、誰よりも早く電話に出るようにしている。 まだ仕事を始めたばかりの、何をしたら良いかわからない時、せめてみんなの役に立とうと思いついた仕事だ。 事業所名さえ言えれば、電話には出られるから。 ハヤくん、としておこう。 デイケア、デイサービス併設のこの事業所に私が入職してから、ずっと相談員の業務を教えてくれた先輩だ。 入って2ヶ月足らず。彼は亡くなってしまった。 そのハヤくんが亡くなる前の話。

          心の音

          アサーション

          新人の愚痴は言うな、言うなら主任に言えと本部の事務長に言われてから、私は他の人が新人の愚痴を言うのを聞いたら、その場を離れるようにしてきた。だが、主任が他の平社員に愚痴を話しているのを見てからは、主任にも相談しづらくなってしまった。 「ハヤさんも、こんな感じだったんですか?」 ハヤくんは眉根を寄せて無言で頷いた。 「これじゃさかきさんも相談出来ないですよね」 「出来ないどころじゃないです、これじゃ」 新人の様々な問題を、同じ空間で働いている同僚に言われていることに、たまにしか

          アサーション

          レセプト

          介護保険でいうレセプトとは、介護報酬の明細のことを言う。 月末で締めた利用回数でリハビリや入浴サービスなどを提供した介護報酬を、各事業所ごとに国民健康保険団体連合会(国保連)に伝送することが月初のレセプト業務だ。 そして私は、レセプトまでは教わっていない。 ハヤくん、としておこう。 入職したばかりの私に相談員業務を教えてくれて、2ヶ月足らずでこの世を去った、年下の先輩だ。 訃報を聞いたのは、最後に一緒に仕事をした4日後のことだった。 不思議なことに、その後からハヤくんは私

          レセプト

          ミーティング

          本部へメールで送ったいくつかの報告に、回答がない。 よくある事だと主任に言われて気長に待って、はや一週間。 「それ、見てないんじゃない?」 ハヤくんが、沈んだ声で私に言った。 ハヤくんは、今夏の最中に入職した私に相談員の業務を教えてくれた前任者で、夏の終わりにこの世を去った。 年齢こそひと回りも下だったけれど、物腰穏やかで仕事が丁寧で、たくさんの人から信頼されていた。 信頼、というか、なまじパソコン操作ができてしまうばかりに用事を頼まれて任されて押し付けられて残業続き、持ち

          ミーティング

          散歩

          片道15分くらいのところに、大きな公園がある。 私が小学校6年生の頃に完成した、池があるきれいな公園だ。 ちょうど小学校の1年生の頃から道路を作り、公園を作る工事が始まったから、その頃の話をしながら、ゆっくりとしたペースで、なるべく坂を避けて歩いた。 7年くらい前に、母は大腿骨の手術をしたから、なるべく負担なく歩いてもらっている。 母が、今日は天気がいいので散歩に行くというので、一緒に出かけた。 公園入り口の管理人さんが持っているトランシーバーから、「現在の○○口入場者

          間に合う、間に合わない

          人生には、間に合うことと間に合わないことがあると思う。 限界まで耐えて、助けが来る前に力尽きるか、それともギリギリ誰かが手を取ってくれるか。 元夫と暮らしていて、元夫の散財により私の手術費用が足りなくなった。「間に合わなかった」から、私は愛猫との別れを選んで、実家に帰った。だけど、実家では両親が健在で、「間に合った」から今でも実家に身を寄せていられる。 以前の職場では、膝の痛みに耐えかねて、業務内容の見直しを訴えたことがあるが、その後急激に膝の調子が悪化し、上司の対応まで「間

          間に合う、間に合わない