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レクリエーション企画

ハヤくんは以前、この事業所で相談員をしていた職員だ。
この事業所での介護士歴が長いので、デイサービスの利用者も、デイケアの利用者も、みんながハヤくんのことを知っていて、慕っていた。ハヤくんも、デイケアの利用者もデイサービスの利用者も全部情報が頭に入っていて、なんでも知っているんじゃないかというくらい、詳しい人だった。
私は相談員として入ったばかりで、ハヤくんからいろいろな業務を教わってきた。
しかし入職して2ヶ月も経たないうちに、ハヤくんは亡くなってしまった。

ハヤくんは仕事が早かったから、入ったばかりで何も知らない私には、教わりきれない業務が盛りだくさんだった。私は、そのハヤくんが残業してでもやっていた膨大な量の仕事を引き継いだ。
一気にすべてを引き受けることになってどうにもならなくなったとき、他の職種の仲間たちが私の業務のいくつかを引き受けてくれた。
今では後から入った新人相談員も仕事を覚えてきたので、だいぶ業務に余裕が出来ている。

最近の私の業務は、見学や契約、会議への出席が多い。要は、外と接する業務だ。
これから、営業もやっていく。
デイケアとデイサービスが併設されているこの事業所では利用者を増やすため、デイケアとデイサービスの差別化を進めている。
その足がかりとして他の事業所へ宣伝するため、デイサービスのイベントを増やしたいと主任と話し合っていた。
そのイベントのための企画書のテンプレートがないから作成して、企画例を作った。
「さかきさん、企画書って、以前よく書いていたんですか?」
「介護の仕事をしていた時は、しょっちゅう書いてましたよ」
「やっぱそうですよね」
「?」
合点がいったように、ハヤくんが大きく頷いた。
「いや…さっきちょっと時間があるから…って言って、さかきさん、企画書作ってたじゃないですか」
「はい」
私が書いた企画書の内容、それは具体的にいうと、初詣だった。年が明けた頃に、ドライブしながら、少し名の通ったお寺へお詣りしよう、というもの。
「皆さん、あんまり企画書を書いたことがないって話していましたから。企画次第では、こんなことだってできるんだよって、みんなに知って欲しくて書きました」
うん、とハヤくんが頷き、頬杖をついた。
「主任が前に話をしてましたけど、今の我々には、イベントの経験が少なすぎるんですよね。だから、企画書を書いて、イベントをやる、場数を踏もうという話になりましたね」
「そうですね。そのためには、先日の外気浴くらいでも、まずは簡単なイベントをどんどんやって、企画書の作成に慣れて欲しいんです」
私の言葉に、ハヤくんが、うん、と頷く。
「さかきさんはささっと書けますけど、みんなはまだこうは行きません。あれは目標ですね、いつか初詣ドライブをやりたいですね」
「はい」
ハヤくんが、遠くを見ながら語った。

もうじき、各居宅支援事業所から、介護サービス提供票が送られてくる。事務の仕事が増えてくるので、机に向かいっぱなしの時間も増えてくるだろう。
そうなる前に、少しでも利用者と関わりたい。
利用者とのコミュニケーションのため、バインダーを置いてデイルームへ向かった。


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