【コラム】『しのぎを削った好敵手Part4(甲府、新潟、金沢、山口、徳島)』~2022年にJ2で対戦して印象に残った選手~

2022年にファジアーノ岡山と対戦して個人的に印象に残った選手を全チーム1選手ずつ紹介していきます。Part4(全5回)

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ヴァンフォーレ甲府

MF山田陸

攻守の切り替えやプレー強度が需要視される現代サッカーにおいて、パスで試合を組み立てる司令塔は絶滅危惧種になりつつある。中盤の底に入るボランチは、ディフェンスラインの前に位置するフィルター役を任されることが少なくない。どのチームでも試合に出ているボランチには守備的MFとしての能力を求められている。

甲府のアンカーを務める山田陸は正確なパスと広い視野でビルドアップの中心を担っていた。後方からパスをつないで敵陣に入っていく、甲府のスタイルも相まって、守備能力よりもゲームメイク能力が光っていた。

丁寧につなぐチームであればあるほど、中盤の底は相手のプレスを受けやすい。なぜなら、ボール非保持側からするとそこで奪えば一気にチャンスになるから。だからこそ、アンカーの選手は相手に狙われやすい。しかし、山田はプレスを回避するテクニックとアイディアを持っている。正確なパス&コントロールで相手のプレスをかわすことができるし、相手に引っ掛けることなく味方にパスをつないでいく。

それに加えてポジショニングも良い。主なプレーエリアは中盤の底だけれど、細かな立ち位置の修正をサボらない。走るではなく歩く。1歩、2歩動いて、相手からズレる。ボールを持った味方がパスを出せるように角度を作ることで、ビルドアップの潤滑油になっていた。

そして、メンタル。相手の狙い所になると知りながらも、奪われることを恐れずにボールを奪う勇気、もしくは、簡単に失うことはないという自信なのか。常に出し手にも受け手にも
なり続ける山田は甲府にとって欠かせない選手に違いない。


アルビレックス新潟

MF伊藤涼太郎

高校サッカー選手権で活躍した作陽高校の10番というイメージが消えてなくなった。

岡山県の代表として全国大会で躍動し、高卒で浦和に入団した伊藤は気になる存在だった。全国の舞台で決めたテクニカルなスーパーゴールが忘れられなくて、期限付き移籍で武者修行に行っていた水戸、大分での活躍も気にしていた。

プロ7年目の今季に初めての完全移籍で新潟に加入すると、9ゴール11アシストを記録。出色のパフォーマンスを発揮してJ1昇格&J2優勝に貢献した。

相手が密集した狭いエリアでも難なくプレーできる卓越した技術をもち、一撃必殺のスルーパスで得点を演出し、細かなタッチによるドリブルでゴールに向かっていくこともできる。稀代のテクニシャンは、7月23日の第28節・アウェイ新潟戦(〇2-3)で牙を剥いた。トップ下の高木善朗とポジションを流動的に入れ替えて左サイドから中央に切れ込み、岡山のゴールを襲っていく中で、32分にスーパーゴールを決めた。高木から横パスを受けた伊藤はペナルティーアークから左足を一閃。左隅に飛んだ鋭いシュートがネットを突き刺した。

圧巻だった。ゴールに向かってドリブルをしている高木からパスを受ける直前、ゴール方向に走っていた伊藤は急停止している。相手のマークを完全に振り切って、シュートを打てるスペースと時間を生み出した。左足で丁寧にコントロールすると、身体を外に開いてから、一気にひねって左足で強烈な一撃を放っている。GKからすると、コントロールで重心が右側に乗った状態で左側に鋭いシュートを止めなければならない。“名手”堀田大暉もノーチャンスだったくらいに、素晴らしすぎる得点だった。
 
もうあのときの作陽の10番ではない。新潟の13番を背負うJ屈指のアタッカーというイメージに書き換えなければならないようだ。


ツエーゲン金沢

FW林誠道

プレスもできるし、裏にも抜けられるし、ボールをキープすることもできる。万能型FWは優れた得点感覚をもったクオリティの高いストライカーであることをゴールで示した。

忘れもしない6月4日、第20節・ホームの金沢戦(〇5-1)。初めてシティライトスタジアムの記者席に座った試合で、林はネットを揺らした。

岡山が開始早々にCKから本山遥、柳育崇が得点を決める幸先のよいスタートを切って迎えた25分。金沢が敵陣でパスをつないで押し込んでいくと、PA内で縦パスを受けた林は右足でのコントロールで軸足(左足)を通す。対峙したヨルディ・バイスの逆を突く巧みな反転をして、右足を振り抜いた。

コントロールからシュートまでの一連の動きが非常にスムーズで、パスを受ける前から考えていたイメージをしっかりと実行して奪った得点に見えた。積極的にボールを触って関わっていくタイプではないけれど、常に得点を取ることを考えている。だからこそ、流れるような動きで素晴らしい得点を決めることができたに違いない。

チームのスタイルにもよるけれど、90分の中でFWが迎えるシュートチャンスは多くない。試合展開によって、1試合に1回しかないこともある。ゴールに1番近い場所でプレーするストライカーはチャンスを確実に仕留める力が求められる。林は鳥取で5年間プレーした後、今治、山形、金沢と1年ごとに活躍の舞台を移している。環境を変えても結果を出せるのは、得点に対する強い気持ち。それがゴール前で迷わずにシュートを打ち、決める力につながっているのだろう。


レノファ山口

FW高井和馬

やっぱりオレンジ色のユニフォームが似合う。

高井和馬は千両役者だ。うまいし、速さもあるし、気持ちの入ったプレーもするんだけれど、とてつもなく大きな存在感を放っている。山口の高井和馬には何かやられそうな雰囲気がある。言葉にし難いものをもっている選手なのだ。

目に見えないものはハッタリではない。8月13日の第31節・ホームの山口戦(〇3-2)では1得点を決められている。24分、右サイドからの折り返しにジャンピングボレーで合わせたシュートが柳育崇の手に当たりPKを獲得して、しっかりと決めた。

うまいPKだった。ゆっくりとした間合いから細かいステップを踏み、完全にタイミングを外す。GK堀田大暉に飛ぶことすら許さない、巧みな駆け引きだった。それよりもジャンピングボレーで放ったシュートが、柳の手に当たってPKになるところに持っている男であることを強く感じた。おそらくシュートはジャストミートしていない。ゴールマウス方向に飛んでいるようには見えないから。しかし、ミートし切れなかったボールがハンドを誘い、PKを生み出した。なぜそうなるのか、運の要素もあるかもしれないけれど、それを手繰り寄せる何かを高井は持っている。


徳島ヴォルティス

MF児玉駿斗

ピッチを支配できるファンタジスタになれる素質を持っている。

とにかくうまい。タッチが柔らかく、正確無比なキックとコントロールでチャンスを演出する。ドリブルで相手をかわすこともできるし、第36節・アウェイの徳島戦(●0-1)積極的にミドルシュートを放つ。数字に残る結果への意欲を感じさせる。

卓越した技術を最大限に発揮するのがサッカーIQ。ダニエル・ポヤトス監督の指導を受けてポジショナルプレーをマスターしている。どこに立てばパスを受けられるか、相手のブロックを崩せるか。ピッチを俯瞰して見ているのかと疑うくらいに的確で、どんどん相手の急所を突いていく。

顔が上がっていて、背筋が立っている。エレガントな立ち姿でボールを持つと、どんなプレーを選択するのだろう。相手チームながらワクワクしていた中で、予想を裏切るようなプレーが多かった。そっちにパスを出すのか、そこを見ていたのか、逆向きにターンをするのか。彼はどんな世界を見ているのか。常人には理解することができない景色をピッチ上で見ているのだろう。相手選手の身体の向きから出る矢印を折ることで、駆け引きで逆を取り、相手を飲み込んで試合を支配していく。

創造性の溢れるビジョンと優れたテクニックを持つテクニシャンがファンタジスタに進化する日は近いと勝手に思っている。

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