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BtoBコミュニケーションの基礎:会社を売り込む/製品を売り込む

BtoB製造業は、自身の価値をどれくらい発信できているのか?」では、価値を十分に発信しきれていない理由が、コンテンツ化力の弱さにあることを説明しました。

社外に発信すべき情報は多種多様ですが、企業のコミュニケーションは大きく分けて2種類あり、それぞれで中身も変わってきます。

それは、会社を理解してもらうためのコーポレートコミュニケーション(CC)と、製品・サービスを売るためのマーケティングコミュニケーション(MC)です。

CC/MCとは?

具体的には、CCでは、企業として

  • 何をやっているのか?

  • どんな考えで事業を行なっているのか?

  • どんな成り立ちなのか?

  • 業績はどうか?

  • 将来はどうしていくのか?

といったことを発信します。

また、MCでは、

  • 製品・サービスの特徴

  • 使用事例

  • 仕様

などを基本としながら、製品・サービスの魅力を感じてもらうあらゆる情報を提供します。

第4次産業革命・脱炭素で重要性を増したCCの役割

すでに相手に理解されているなら、CCはそれほど必要ないとも言えます。高度経済成長期がまさにそれでした。長期・安定的な企業間関係のもとでは、そんなに「自己紹介」をしなくても良かったのです。

しかし、過去30年の間に、取引先の事業撤退や倒産にみまわれるケースは珍しくなくなり、日本での企業間関係はかつてほど強固なものではなくなってきました。

今、BtoB製造業は、3つの理由でCCを強化すべき局面にいます。

①海外市場の開拓
日本の市場は成熟しているので、BtoB製造業の成長の源泉は海外市場です。しかし、いくら日本で実績があっても、海外に行けば、「Who?」と言われます。BtoB製造業の製品は目につかないところで使われるので、それなりの海外売上がある会社であっても、海外での認知度が低いことが多く、自分たちが何者であるかをしっかり説明する必要があります。

②産業革命による企業間関係の再構築
スマート化などの第4次産業革命や脱炭素革命は、BtoB製造業がよりどころにしてきた企業間関係をさらにリシャッフルします。これからは、テスラのような新興メーカーとの取引が一層重要となります。

③異業種間の人材移動
変革期の新産業では、異業種からの転職者も増えます。EVメーカーに転職した電機メーカー出身者は、自動車業界にいたら知っているはずのサプライヤーのことを知らないかもしれません。

このようにBtoB製造業は今、はじめての相手とコミュニケーションする機会が増えているため、「自己紹介」の重要性が高まっているのです。

それから、第4次産業革命や脱炭素化は新しい未来を作ることなので、保有技術や実績の前に、「どうコミットしていくのか」が問われます。

例えば、自動車メーカーの脱炭素対応方針では、欧州や中国メーカーが早期の全車EV化を掲げるのに対し、トヨタはEV、ハイブリッド、燃料電池車など全方位で臨む方針を明確にしています。

従来、企業の将来ビジョンは、投資家や採用向けと位置づけられてきましたが、混とんとする産業革命下では、潜在顧客も取り組みの方向性や本気度、進捗などに関心を高めており、未来を語ることがこれまでになく求められるようになっているのです。

デジタルコミュニケーションが広げたMCの可能性

製品・サービスを売るためのコミュニケーションとは、要するに、購入する価値を伝えることです。

BtoBでは、製品の特徴や事例、仕様などの情報をベースに、顧客の状況に合わせた提案を行います。そのため、ターゲットを絞り込める業界展示会や直接対話で、「解決したい課題」「利用シーン」「購入予定時期」「予算」などの情報を得て、提案の精度を高めます。

これまで、提案精度を高めるのは人の仕事でしたが、徐々にデジタルコミュニケーションがその役割を担うようになってきました

例えば電子部品会社は、数十万種類の製品から回路設計者が適切な製品を選ぶための柔軟な検索機能、技術資料、類似製品との比較機能、過去製品の後継品、設計支援ツール、リファレンスデザイン、サンプル品オーダー機能、在庫確認、価格、トレーニング情報などを提供しています。

また、定期的にメールマガジンを配信をしたり、購入前後の悩みに答えるコミュニティで製品利用に関する満足度の向上を図ったりと、あらゆる顧客接点の質を強化しています。

これだけ多様なコンテンツ・機能があれば、登録・閲覧情報から高い精度で顧客の関心事をつかめますし、もはや営業を介在させなくても、それを一番知っている顧客自身による徹底した製品サーチが可能となっています。

BtoCよりも発信すべき情報の多いBtoBにとって、情報を余すことなく発信できるインターネットは、BtoBコミュニケーションに革命的な変化をもたらすはずです。

まとめ

最後に、両者の取り組みの違いを見ておきましょう。

会社全体のことを理解してもらうCCは、製品・サービス販売の後押しであり、投資家・採用候補者へのアピールでもあり、社会との良好な関係づくりでもあります。CCは多目的な分、単一の指標では成果を測りにくいので、長期・俯瞰的な視点で考えることが求められます。

かたや、MCは、製品・サービスを買ってもらうことがゴール。売上に結び付くWebサイトへのアクセス数、問合せ数、カタログダウンロード数、デモ申込数などの計測可能な指標を追いかけて、CCよりも短い時間軸でPDCAをまわすことが基本動作です。

大企業では、CC/MCは別の部署が担当しますので、連携が重要となります。すでに自立している国内の主力事業よりも、海外や中堅・新規事業の方が認知が低いので、CCによるバックアップを期待する傾向があります。

一方、中小企業では、CC/MCを同じ部署で取り組んでいることが多いでしょうから、施策を考える際には、どちらなのかを認識することが出発点となります。

このようにCCとMCは趣の異なるコミュニケーションですが、企業は両者をバランスよく推進せねばなりません。

日本のBtoB製造業は、これまで安定的な取引慣習があったのでCCの必要性が薄く、MCに注力してきましたが、産業革命下では新規開拓が必須です。またMCは、デジタルコミュニケーションの登場で、飛躍的に可能性が広がったのに、現段階では活かしきれていません。

未来を語るCCと、デジタルを使い倒すMC。これが、日本のBtoB製造業が取り組むべき、対外コミュニケーションの大テーマです。


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