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オレンジ色のマフラー

くたびれたマフラーを
この冬初めて首に巻いた

急な寒暖差の到来に
まだクローゼットの奥に眠るダウン

薄手の上着でも首さえ覆っていれば
今日くらいは乗り切れるだろう

家を出ると北風が肌を突き
マフラーを口元まで上げて顔を隠す

駅へと向かう人たちの服装はもう真冬で
電車に乗ると年末の匂いが充満していた

それでも同じように、準備不足の
薄着の人を見つけては少し安心をする

もう何年も使い続けているオレンジ色のマフラー
新品の頃の触り心地はもう無くなっていて
指がほつれからの穴を作った

大切な人から貰った物だからか
物が良いから買い替える気持ちになれないのか
おそらく前者なのは間違いないんだろう

その人の匂いはもうとっくに消えていて
自分の首に体に同化するほどにフィットしている

「オレンジ色似合わないね」

プレゼントされて初めて首に巻いた時
その人は笑ってそう言ったっけ

自分で選んでおいてそれはないよな

毎冬このマフラーを使う時
そのやりとりを思い出しては苦笑いをした

ちょっとは似合うようになったと思うんだ
ほら誰も笑ってないし
ってそりゃそうか

返ったらダウンを干して
大きくなる前に穴のほつれを治そう

こうやって使い続けることで
その人へのせめてもの抵抗

反抗?仕返し?
みたいなものにしているのかもしれない

なんて思ってもいないけれど

きっと次に新しいマフラーを巻く時は
その人も知らない誰か

違う別の、大切にしたいと思える相手から
似合わないね、とプレゼントされる時なんだろう

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