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楽園

天国への階段は急で人も多い

花火大会の帰り道のような行列が
コンサート終わりの駅までのような道が
前も後ろも果てし無く続いていた

誰かが押して文句を言って
生きてる人よりも生き生きとしてる人もいて
何をそんなに急いでいるんだろうか?
時間は無限にあるはずなのに

でも確かにこの階段は狭くて危なっかしく
「せめて手すりと滑り止めをつけて下さい!」
と神様がいるのなら訴えたい所だ

ガラスで作られたようなクリアな階段は
人がいなければ空へと続く神秘的な光景で

でも今は足の踏み場さえも見えず
一歩一歩、小さな歩幅でゆっくりと流れるままに
遠く微かに見える光へと
その先が天国だと信じて進むしかなかった

前方の男性が段差を踏み外して
下へと堕ちていく姿が見えた
あっという間にゴマ粒ほどの大きさになり
下の下の、さらに下へと消えて行った

地上さえも見えない高さから
堕ちて行く途中であの人は何を考えるのだろうか?

きっと下は、行きつく先は地獄で
天国への切符を持ったまま
永遠に鬼にこき使われるんだ

そう考えたら堕ちる訳にはいかないと
みんなもそう思って必死で自分を救おうとしている

ふと思った
本当はこの階段の行き着く先が地獄だとしたら?

例えば永遠に階段が終わらないと言う地獄に今いて
他の人に道を譲って自らを犠牲にした人だけが
天国へと導かれるのかもしれない

後ろから怒号が聴こえて取っ組み合いが起きていた
よく考えたらこんな自分しか考えていない人たちが
天国に行けるとは思えない

イライラして文句を言って我さきにと
他の人の事などそっちのけな、そんな人ばかりだ

でも答えはもちろんわからないし案内人もいない

気づけば目の前に階段があって
どこかへと続く矢印に誘導されるがまま歩いていて
上へと続く綺麗な階段こそが進むべき道だと信じ
みんなこうして列をなしている

そして一度昇り始めると他にもう道は無い

綺麗すぎる物ほど怪しもう
生前私はそう心に決めていたはず
親切な言葉も優しい笑顔も得すぎる誘いも
その裏に隠された欲の塊にすぎないのだ

疑う事を知らなかった私は
あんなに何度も何度も騙されて来たはずなのに
また同じ事を繰り返しているのだろうか?

今は時間は無限にあって
過去のそんなあれこれを思い出し考えてしまう
死んでも自分は何も変わらないのか
変える勇気さえ持てないのか

そう思って視点を変えると
遥か上に光る空はどこか濁っている気がして来て
逆に下の方が明るく感じ始めていた

そもそもなぜ私は上に行きたいのか
天国のぬるま湯の中で暮らすなんて
どうせ私の性に合わないんだ

それなら正面から堂々と
鬼とやりあってやろうじゃないか
笑顔や花畑で溢れる楽園なんて
気持ち悪くて寒気がする

後ろの人に軽くおされ
その勢いで端へと追いやられた
このまま一歩足を滑らせれば下へと真っ逆さまだが
それも悪くはないだろう

この流れのまま
行くしか今しかないと思い

私は両手を広げて思い切りダイブをした
その瞬間、たぶん笑みを見せていたと思う

地上の見えない空の中を
果てしない時間を堕ちて行った

堕ちているのか昇っているのかわからないほどに
その感覚さえもわからなくなった時

柔らかい光の雲が
優しく包み込むように私を受け止めた

どうやら地獄ではなさそうだ

安心したのか悔しさなのだろうか
生きていた頃からずっと続いていた
張り詰めていた緊張から解放されたのかもしれない

温かな涙が溢れ出して輝いた

目の前に現れて手を差し伸べる
本当の笑顔を見せる誰かに向かって

「鬼じゃないのかよ」と

私はひとつ強がって見せた


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