【楠木建教授が解説。コンプライアンスにどう向き合うか】自分を棚に上げず、公私を区別する! 社会進歩で価値観は着実に変化している。
昭和、平成、令和と時代が変わるなかで価値観や職場、働き方は多様になりました。そして、近年、コンプライアンスの意識も格段に高まっています。法令を「遵守」する重要性は誰もが認めるところですが、なぜか息苦しさを感じる人もまた増えています。
では、令和のビジネスパーソンや銀行員はコンプライアンスにどのように向き合うべきか。競争戦略が専門の経営学者である一橋ビジネススクールの楠木建特任教授に解説してもらいました。
楠木教授は、「かつては法律や規制を守るというハードの面を示すだけだったが、今は個人の行為やふるまい、言動などソフトの部分まで含まれるようになった」。インターネットで社会的な可視性が高まるなかで、ビジネスパーソンには「常識を復権させることが大事」と話します。(金融ジャーナル編集部。2024年7月号「コンプライアンス 変わる価値観と職場」掲載。肩書き・数字等は掲載時点)
コンプライアンスにはハードとソフトの2つの面がある。①ハード(法律や規制)を守るのは当たり前 ➁企業内の“やめとけ法務”の行き過ぎは、収益機会を逃す
——近年のコンプライアンスを巡る議論をどのように見ていますか。
コンプライアンスには、ハードとソフトの2つの面がある。最近の議論を見ていて思うのは、かつては「法律や規制を守っているか」というハードな面を示すだけだったのが、今はそれがだんだんと拡張して、個人の行為やふるまい、言動などのソフトな部分までが含まれるようになったということだろう。
コンプライアンスと聞いて法令違反だけではなく、パワーハラスメントやセクシャルハラスメント、さらには不倫などをイメージする人が多くなっているのだと思う。
——ハードのコンプライアンスに金融業はどう対応すべきでしょうか。
国は銀行や証券会社などの金融業に厳しい規制をかけている。これを順守することをコンプライアンスと言うのであれば、法律やルールを守ることは当たり前だろう。
なぜなら、リーマン・ショックや過去のバブル経済などの歴史を見れば明らかだが、むき出しのお金を扱う金融業は、ともすればそこで働く人たちを狂わせ、社会的、経済的に酷い事態を引き起こすようなことを、これまでに何度もくり返してきた。
人間も動物だ。金融業は、動物としての血が全開になってしまう“動物性の強い業界”だと言える。金融機関からすると、ビジネス上、規制を過剰に感じたり、非効率に思う部分があるかもしれない。だとしたら法律やルールの修正を主張すべきで、現行のルールは守らなければならない。
——金融業以外の規制業種では、どのように対応していますか。
金融業以外に国が厳しく規制する業種として航空機がある。Hondaは航空事
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