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『現代日本戯曲大系』を読む

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記事一覧

太宰治『冬の花火』・加藤道夫『なよたけ』

担当:松本一歩(『冬の花火』)・川口典成(『なよたけ』)

『冬の花火』
【基本情報 戯曲冒頭より】登場人物
数枝 二十九歳
睦子 数枝の娘、六歳。
伝兵衛 数枝の父、五十四歳。
あさ 伝兵衛の後妻、数枝の継母、四十五歳。
金谷清蔵 村の人、三十四歳。
その他
栄一(伝兵衛とあさの子、未帰還)
島田哲郎(睦子の実父、未帰還)
いずれも登場せず。

+鈴木 数枝の新しい恋人 数枝より10歳年下 絵描

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『田宮のイメエジ』(日比野啓)『中橋公館』(黒澤世莉)

『田宮のイメエジ』のわかりにくさについて

日比野啓

 戦後間もなく『田宮のイメエジ』を第二次『劇作』第五号(一九四七年十月)に発表した——翌年十二月には、俳優座第四回創作劇研究会による上演のため演出も行った——のを最後に、劇作の筆を執らなくなった川口一郎(一九〇〇〜一九七一)について、何かしらのことを言うのは難しい。(第一次)『劇作』第二号(一九三二年四月)に掲載された処女作『二十六番館』が、

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『にしん場』(日比野啓)・『落日』(松本一歩)・『廃墟』(黒澤世莉)

中江良夫「にしん場」五場

初演
1948年4月8日〜5月7日 ムーラン・ルージュ新宿座第二十四回公演

「一ヶ月のロングランとなり、中一週おいて再び一カ月の上演となったが客足はおちなかった」中江良夫「新宿ムーラン・ルージュ」『文化の仕掛人 現代文化の磁場と透視図』(青土社、一九八五年)七二頁

演出:中江良夫、舞台美術:中村夏樹、舞台監督:森川時久
出演:宮阪将嘉(にしん場の老船頭)、小滝町子(

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『夕鶴』(松本一歩)、『春情鳩の街』(日比野啓)、『胎内』(日置貴之)、『人間製本』(川口典成)

木下順二『夕鶴』
初出 『婦人公論』1949年1月号
初演 ぶどうの会 1949年10月27日、28日 丹波市天理教講堂
人物 与ひょう つう 惣ど 運ず 子供たち
キャスト  つう/山本安英 与ひょう/桑山 正一 惣ど/久米明 運ず/小沢重雄 鶴の声 /北京子

【あらすじ】
つうは与ひょうと暮らしている。
与ひょうはかつてはそれなりに働き者だったが、今では主に寝て遊んでばかりいる。

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山田時子『女子寮記』・飯沢匡『崑崙山の人々』・岸田国士『椎茸と雄弁』

『女子寮記』(報告者:日比野啓)
第3回民衆芸術劇場(第一次民藝)公演
1948年 8月17日〜31日、三越劇場 
演出:岡倉士朗、出演:平野威都子(由美)、大島和子(文子)、志村洋子(朝子)、北林谷栄(喜代)、望月美恵子[のち優子](きく子)、阿里道子(芳子)、斎藤美和(村田クニ)、桜井良子(喜代の姉)、加藤嘉(舎監)、多々良純(小使)、村上冬樹(雅彦)、委員長宮田(滝沢修)、ほかに奈良岡朋子<

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榊原政常『しんしゃく源氏物語』三島由紀夫『卒塔婆小町』

『しんしゃく源氏物語』(黒澤世莉)半世紀を超えて愛され続ける秘密を探る

どんなおはなし?
榊原政常は、高校教師をやりながら高校演劇向けの台本を書き続けた作家である。戯曲集も出版されている。

「しんしゃく源氏物語」は、1950年都立忍ヶ丘高校演劇部にて初演された。1952年には文学座上演で上演されている。

「源氏物語」末摘花を底本とした喜劇で、落ちぶれた姫は愛を交わした光源氏が都落ちしたにも関

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村山知義『死んだ海(第一部)』安部公房『制服』武田泰淳『ひかりごけ』

村山知義『死んだ海(第一部)』(担当:黒澤世莉)社会主義リアリズムの到達点と限界

どんなおはなし?
村山知義はスーパーマンである。社会主義リアリズム戯曲の大家として知られているが、それだけではなく演出、企画、舞台美術も手掛けているし、さらには建築家や絵本作家としての面ももっている。しかもそれぞれが一流だ、たとえば絵本の画など素晴らしい愛嬌が溢れている。マルチメディアクリエイターの魁と言えよう。

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真山美保『馬五郎一座顛末記』、田中澄江『鋏』、中野実『褌医者』

『馬五郎一座顛末記』(担当:日比野啓)
初演:一九五四年十一月・飛行館ホール

一、テクストの確定しがたさ
『現代日本戯曲大系 第二巻』収録の「初演台本(一九五四年十一月)」は五幕七場(神山彰執筆『日本戯曲大事典』真山美保の項にも五幕七場とある)
『新制作座三十年の歩み』(新制作座、一九八〇年)の作品紹介では「五幕十二場」
再々演(一九五九年八月)の公演パンフレットには「4幕8場とエピローグ」

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青江舜二郎『ゲイとルン』八木柊一郎『三人の盗賊』秋浜悟史『英雄たち』

『ゲイとルン』(担当:日比野啓)青江舜二郎の人生を考えるたびに、私は松尾芭蕉『笈の小文』序文(1687年)を思い出す。

百骸九竅のうちにものあり、かりに名付けて風羅坊といふ。まことに薄物の風に破れやすからむことをいふにやあらむ。かれ狂句を好むこと久し。つひに生涯のはかりごととなす。
 あるときは倦みて放擲せむことを思ひ、あるときは進んで人に勝たむことを誇り、是非胸中にたたかうて、これがために身安

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大橋喜一『楠三吉の青春』小幡欣治『畸型児』加藤衛『秋』

『楠三吉の青春』(担当:日比野啓) 大橋喜一は「反リアリズム」(『テアトロ』第四〇五号[一九七六年十一月])というエッセイで、論争を好まないこの人にはめずらしく、野村喬の「一九七五年の演劇界」(『テアトロ』第三九五号[一九七六年一月])とそのなかで提示されたリアリズムの定義に反論を試みている。
 ことのきっかけは野村が民藝によって上演された土屋清『河』を「反リアリズム」だと批判し、返す刀で『河』の

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火野葦平『ちぎられた縄』三島由紀夫『鹿鳴館』風見鶏介『薯の煮えるまで』

『ちぎられた縄』(担当:日置貴之)
火野葦平
1907(明治40)〜1960(昭和35)
• 「兵隊」三部作(『⻨と兵隊』『土と兵隊』『花と兵隊』) ⇨新国劇、古川緑波らによる舞台化。
• 自身でも『紅皿』『妖術者』『陽気な地獄』などを執筆。

『ちぎられた繩』
• 初出=『テアトロ』1956年12月号
• 初演=1956年10月文化座(一ツ橋講堂)、演出=佐佐木隆、装置=村山知義、舞踊教導・衣裳

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広渡常敏『明日を紡ぐ娘たち』・正宗白鳥『死んだやうな平和』・福田善之『長い墓標の列』

『明日を紡ぐ娘たち』(担当:黒澤世莉)
セクハラとイケメンの間の潔癖さ
どんなおはなし?
広瀬常敏は劇作家、演出家で、東京演劇アンサンブルの代表者だった。

「明日を紡ぐ娘たち」は、東京演劇アンサンブルの前身である三期会と、生活を記録する会の集団創作である。明記されていないが、澤井余志郎が深く関与しているものと思われる。1957年6月号「新劇」にて発表され、同4月から5月にかけて三期会が俳優座劇

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清水邦夫『署名人』・花田清輝『泥棒論語』・堀内茂男『市場』

『署名人』(担当:辻村優子)
あらすじ

政府要人の暗殺未遂事件を起こした「憂国の志士」二人が収監されている獄房に、もう一人井崎という男が入れられてくる。この男がタイトルの‘‘署名人‘‘。政府を批判攻撃した新聞雑誌の論文に署名し、筆者の身代わりとして監獄に入ることを商売にしている男である。。たちまち「無頼の徒」と呼ばれ「抵抗の精神もなければ思想もない。そういうのをなんと言うかしっているか。虫けら、

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田中千禾夫『マリアの首』・原源一『漁港』・広田雅之『友情舞踏会』

『マリアの首』(担当:松本一歩)
初出: 『新劇』1959年 4月号
初演:新人会 1959年3月12~18日 俳優座劇場
スタッフ:演出/田中千禾夫・島田安行 装置/高田一郎 照明/滝尾輝雄 
音楽/芥川也寸志 効果/田村悳 衣装/佐藤志都子 
ギター演奏/阿部保夫 舞台監督/八田満穂 
キャスト 忍/渡辺美佐子 鹿/楠侑子 静(初演役名は葉山)/馬場恵美子 
第一の女/大山美代 第二の女/松

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