真山美保『馬五郎一座顛末記』、田中澄江『鋏』、中野実『褌医者』

『馬五郎一座顛末記』(担当:日比野啓)

初演:一九五四年十一月・飛行館ホール

一、テクストの確定しがたさ

『現代日本戯曲大系 第二巻』収録の「初演台本(一九五四年十一月)」は五幕七場(神山彰執筆『日本戯曲大事典』真山美保の項にも五幕七場とある)
『新制作座三十年の歩み』(新制作座、一九八〇年)の作品紹介では「五幕十二場」
再々演(一九五九年八月)の公演パンフレットには「4幕8場とエピローグ」

初演台本(一九五四年十一月)本稿は、「年刊戯曲II」(55年宝文館刊)に収録したものに本巻収録のために加筆したものである。
「解題」『現代日本戯曲大系 第二巻』四八四頁
今、馬五郎は死の病床にある。だが馬五郎の心は満ち足りていた。旅役者の馬五郎にとって組合の芝居は「拝んでも足りなえ檜舞台」だった。「いくら大歌舞伎の旦那衆が巧い芸を見せたって、こうは受けやしやせんぜ。俺達あ、小屋中われ返る拍手と叫びを聞いたからねえ。あん時は、大根役者の馬五郎も天下の英雄でやしたよ」とつぶやく彼の頬には涙があふれていた。
『新制作座 菊池寛賞受賞記念公演 真山美保作 喜劇 馬五郎一座てんまつ記 4幕8場とエピローグ』 パンフレット(一九五九年八月)

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