清水邦夫『署名人』・花田清輝『泥棒論語』・堀内茂男『市場』

『署名人』(担当:辻村優子)

あらすじ

政府要人の暗殺未遂事件を起こした「憂国の志士」二人が収監されている獄房に、もう一人井崎という男が入れられてくる。この男がタイトルの‘‘署名人‘‘。政府を批判攻撃した新聞雑誌の論文に署名し、筆者の身代わりとして監獄に入ることを商売にしている男である。。たちまち「無頼の徒」と呼ばれ「抵抗の精神もなければ思想もない。そういうのをなんと言うかしっているか。虫けら、虫けらと言うのだ」とののしられる。実は暗殺未遂の二人は脱獄のチャンスを狙っていたところだった。邪魔者を排除するか協力者にするか、どちらかであり、井崎もそれを知ってしまう。(ハヤカワ演劇文庫『署名人』(演劇評論家)岩波剛による解題)

邦夫青年が初戯曲『署名人』を書くまで

作者の清水邦夫は1936年、新潟県新井市出身。
お父さんは巡査で、お兄さんが二人いました。
上の兄とは5歳離れ、長兄次兄は年子でした。お兄さんたちは二人とも早稲田大学に入学します。
帰省したお兄さんたちが「血のメーデー」の目撃談をいきいき話してたりするのを、定年間近のお父さんはけっこう嫌がっていたらしい。(そりゃそうだ)
ちなみに血のメーデー事件は1952年5月1日皇居外苑で発生し、戦後の学生運動で初の死者を出したデモ隊と警察の衝突事件。

ここから先は

6,464字

¥ 180

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?