大橋喜一『楠三吉の青春』小幡欣治『畸型児』加藤衛『秋』

『楠三吉の青春』(担当:日比野啓)

 大橋喜一は「反リアリズム」(『テアトロ』第四〇五号[一九七六年十一月])というエッセイで、論争を好まないこの人にはめずらしく、野村喬の「一九七五年の演劇界」(『テアトロ』第三九五号[一九七六年一月])とそのなかで提示されたリアリズムの定義に反論を試みている。
 ことのきっかけは野村が民藝によって上演された土屋清『河』を「反リアリズム」だと批判し、返す刀で『河』の上演に積極的に関わってきた大橋を「自分の言っていることと矛盾していることに気がつかないのだから不思議である。“リアリスト”であろうとする大橋と“反リアリズム”の「河」とは一体どう折り合いがついているのであろうか」と斬って捨てたことにあった。
 野村の批判は、大橋の要約するところによれば、次のとおりである。

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