村山知義『死んだ海(第一部)』安部公房『制服』武田泰淳『ひかりごけ』

村山知義『死んだ海(第一部)』(担当:黒澤世莉)

社会主義リアリズムの到達点と限界

どんなおはなし?
村山知義はスーパーマンである。社会主義リアリズム戯曲の大家として知られているが、それだけではなく演出、企画、舞台美術も手掛けているし、さらには建築家や絵本作家としての面ももっている。しかもそれぞれが一流だ、たとえば絵本の画など素晴らしい愛嬌が溢れている。マルチメディアクリエイターの魁と言えよう。

「死んだ海」は、1952年7月号「世界」にて発表され、同年6月に新協劇団が上演、作家本人の演出により渋谷公会堂にて初演されている。
本作は1951年千葉県銚子ちかくの漁港漁村を舞台にしたリアリズム演劇である。本作以後第二部、第三部が書かれている。機関士の新蔵、組合書記の金沢、主婦の会のお吉などの人物を軸として描かれる群像劇。米軍の演習で漁獲量が減少した貧しい漁村にて、劣悪な環境で働かされる漁師たちが搾取されていることに自覚を持ち、自分たちの権利を獲得する闘争をはじめる様子が点描される。

なぜ現代で上演されないのか?
演劇の歴史の中で確固たる地位を築いている村山知義。それだけでなく、彼は多くの才能を持ったスーパーマンであった。その中で一つ疑問が出てきた。2020年現在、彼の作品の上演は多くない。ライバルと目された久保栄の上演も決して多くはないが、さらに少ない印象である。軽く検索をしても、ここ10年の間では、東京芸術劇場(劇団名)での上演履歴くらいしかお目にかかれない。いったいなぜ、彼の作品は上演されなくなったのだろうか。

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