広渡常敏『明日を紡ぐ娘たち』・正宗白鳥『死んだやうな平和』・福田善之『長い墓標の列』

『明日を紡ぐ娘たち』(担当:黒澤世莉)
セクハラとイケメンの間の潔癖さ


どんなおはなし?
広瀬常敏は劇作家、演出家で、東京演劇アンサンブルの代表者だった。

「明日を紡ぐ娘たち」は、東京演劇アンサンブルの前身である三期会と、生活を記録する会の集団創作である。明記されていないが、澤井余志郎が深く関与しているものと思われる。1957年6月号「新劇」にて発表され、同4月から5月にかけて三期会が俳優座劇場にて上演している。初演の出演時には金子を永井一郎が演じている。また、1961年には、続編として「長い夜の記録」も同じく集団創作でつくられ、上演記録が残っている。現代日本戯曲大系には、1970年12月号「悲劇喜劇」に掲載された改稿版が掲載されている。

第二次世界大戦が終わってから10年ばかり経過した、ある夏の夜。中部日本の紡績地帯にある紡績工場(おそらく1956−7年の四日市の東亜紡織泊工場)を舞台にした喜劇。
綴り方運動サークルの中心人物である今井を軸として、紡績工場で働く農村出身の若い女性たちが、書くことや同僚との親交を通じて自分で考え成長していき、やがて積極的に労働問題や農村問題に取り組んでいく。

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