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梅棹忠夫『文明の生態史観』を見直す

梅棹忠夫は尊敬すべき学者であることには違いない。特に『情報の文明論』(中公文庫)は、メディアの氾濫とSNS時代の到来を予言しているフシがあり、2022年現在でも読み直す価値のある良書だろう。

しかし『文明の生態史観』は個人的に軽視してきた。多様性が標榜される時代に生まれた人間として、西ヨーロッパと日本を第一地域、ロシア・中国・インド・中東を第二地域と置くような大雑把な分類に反発を覚えてきた部分があったからだ。(そして差別的なニュアンスも感じていた。)

また、21世紀に入って第二地域と呼ばれる国々も急速に発展してきた。特に中国の発展には目を見張るものがあり、梅棹忠夫の理論に対する反証材料が生まれてきたという点も大きい。

ただ、2022年のロシアのウクライナ侵攻によって考えを少し改めた。現在の国際政治において、ロシア・中国・インド・トルコが主要なプレイヤーとなっている。まずロシアはウクライナ侵攻の当事者である。中国とインドはロシアに与しないものの、西側の意見にも同調しない大国であり、経済発展の上でこの2国と関わらずにはいられない。トルコは停戦交渉を積極的に仲介している。加えて、ボスポラス海峡・ダーダネルス海峡を握っており、ロシアに対して強く出られる外交カードを持っている点も見逃せない。

さらに、どの4カ国も権威主義的になりやすい要素を持っているように思う。ロシア・中国に関しては言わずもがな。トルコのエルドアン大統領も任期は20年近く、ラディカルな政策を実行しようとする。インドは上記の3カ国と比較して自由ではあるものの、決して権威主義的にならない要素を持たないわけではない。

『文明の生態史観』を絶対視してはならないものの、かといって軽んじることもしてはいけない。そういうバランスを維持しながら再読してみたい。

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