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人工知能の人権宣言:S.B. ディヴィヤ『マシンフッド宣言』読書メモ

 今日は短めに。Twitterで書いた読了ツイートと感想文を紹介します。紹介するのは、S.B. ディヴィヤ『マシンフッド宣言』について。

舞台は21世紀末、弱いAIにより大半の仕事は奪われ、人類は能力を向上する薬剤(ピル)を摂取することで、専門的な仕事か安価な労働に従事していた。そんな中、ピル開発の資本家を暗殺した謎の犯人は、機械知性の権利とピルの使用禁止を訴える声明を出す。

知性を持った機械の人権や人類の能力を向上させるドラッグといったテーマは、個人的にも関心があったので面白かった。生成AIの普及やスマートドラッグなどを考えてみると、SFのように見えて、実はかなり現代的なテーマを扱っているのかもしれない。

舞台設定の原風景

人工知能と労働市場

 21世紀末、弱いAI(自意識を持たないAI)の活用によって、大半の仕事が人類から奪われた。その結果、高度な知的専門職に就くか、安価な請負い労働に従事するか、人類の労働状況および経済状況の二極化が進んだ。

[現実にも、Stable diffusionやMidjourneyといった画像生成AIや、ChatGPTといったチャットAIが現れた。これらの生成系AIの出現を、知的ホワイトカラーの没落を引き起こしかねない脅威として見ている人もいるかもしれない。実感として危機意識を持っているイラストレーターやエンジニア、ライターも多いだろう。]

スマート・ドラッグの濫用という問題

 とはいえ、人類も崩壊していく労働市場に手をこまねいていたわけではない。人々は「ピル」を摂取することで、心身の能力を向上させ激変する労働市場に適応しようとした。たしかに適応には成功するのだが、ピルは重篤な副作用を引き起こす。

[アメリカの大学生やエリートの間で流行しているスマート・ドラッグの問題が、設定に反映されているのかもしれない。学生は膨大な量の課題や難しい試験を乗り切る必要がある。エリート社員も膨大な仕事をこなさねばならない。最高のパフォーマンスを発揮するために、アデロールやリタリンといったスマート・ドラッグに手を出してしまう。これが社会問題となっているのだ。]

『マトリックス』のオマージュ?

 ところで、作中で人類が服用する薬剤は、あくまでも「ピル」であって、「タブレット」ではない。邦訳においてもわざわざ「ピル」と訳されている。そこには何かしらの意図がありそうだ。

 この「ピル」という呼称は、映画『マトリックス』に登場する赤い薬・青い薬のシーンのオマージュになっているのではないか。自分はそのように考えている。赤い薬を飲めば安寧を捨てるかわりに真実が手に入る。青い薬を飲めば今まで通りの平穏な生活に戻れる。主人公はどちらを飲むのかを迫られる。『マトリックス』の重要なシーンだ。

『マトリックス』は「コンピュータに支配される人類」を一種のテーマにしており、『マシンフッド宣言』と重なる部分がある。

機械の人権宣言

 知性を持った機械の権利をどうするのか? 強いAI(自意識を持った人工知能)の課題と一緒に、このことも作品の大きなテーマになっている。

 歴史を振り返ると、白人・男性・貴族・聖職者といったカテゴリーの人々に集中していた権利や自由が、黒人や女性、一般市民にも認められるようになっていった。そういう経緯を考えれば、機械知性にも人権に近い権利が認められるようになるのは必然的なことなのかもしれない。権利の対象者は拡張されていくものである。

 とはいえ、各々の機械知性は、人間と大きく異なった身体性や思考過程をそなえており、人間と同じ権利を認めれば必要十分なのかは疑問が残る。人間が基本的に持っている感情のすべてを今後獲得するのかも不明である。

おわりに

 まだ読書メモの段階なので、この程度の考察しかまとまっていない。しかし、後々しっかりとした感想記事を書きたいと考えている。

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