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空白の力:医療者の秘密兵器

医療従事者はうつやバーンアウトに陥りやすい、と言われています。
それは多忙な勤務形態や、感情労働といわれる仕事の特性が原因です。

心を疲弊させないためのストレス対策について、巷では様々な情報が溢れています。

その中でも、
最近話題に上ることが多くなった「空白時間」について今回は解説していきたいと思います。


空白時間・ホワイトスペースとは


ホワイトスペースとは、
アメリカのコンサルティング会社CEOであるジュリエット・ファントが提唱した概念です。

彼女は、ホワイトスペースを「活動の間に取る戦略的な一時停止」と定義し、
忙しい日々の中で創造性を取り戻し、燃え尽き症候群を防ぐための重要な概念として提唱しています。

つまり、
現代人のタイムスケジュールがパンパンになっていることについて警鐘を鳴らしたわけですね。

毎日の業務や家事に追われていると、「何もしない時間」というものが生まれません。

加えて深刻なのが、
スマホの登場によってただでさえ少なかった空白時間がSNSやゲームによって「潰されるもの」になってしまった事です。

2018年に行われた株式会社テスティーの調査によると、
20〜30代の平均スクリーンタイムは5時間を超えているそうです。(n=686)

通勤電車の中、昼食を食べている時、コンビニのレジに並んでいる間…
片手にスマホを持っていない人の方がもはや珍しいかもしれません。

デジタル機器から意識的に距離を取って、自分と向き合う戦略的な休止時間。
それをホワイトスペース、と呼びます。

ホワイトスペースの効果

それでは、
ホワイトスペースがもたらす効果を順番に見ていきたいと思います。

①脳機能の回復

回復のためのホワイトスペース。
意図的な休息や空白の時間によって、前頭葉の機能が回復する。

現代は何かと刺激過多です。
特にデジタルデバイスの中には、僕らの目を引く情報で溢れています。

そうしたたくさんの情報に次々と注意を切り替えていくと、
知らず知らずのうちに注意力を司る前頭葉が疲弊していくんですね。

休憩時間にスマホをいじることは、実は休息になっていないと言われています。
目に入る情報を処理する脳がちっとも休まらないからです。

少しの間ぼーっとするような、本当の休息を意識して取ることが大切です。

②創造力の向上

構築のためのホワイトスペースを設けることで、創造力や問題解決能力が向上する。

簡単に解決できない問題にぶち当たった時、
一旦リフレッシュして頭を冷やすと、意図せずアイデアが降ってくる事があります。

それこそが、ホワイトスペースの威力です。

一つの問題にじっくり向き合って、集中して考える時間を作ることも構築のためのホワイトスペースに含まれます。

③深層心理へのアクセス

内省のためのホワイトスペースを設けることで、自分の中に埋もれている欲求を発見する。

今後のキャリアプランや仕事をする上で何を一番大切にするか等、
じっくり考えるべきことに向き合う時間を確保している人は多くありません。

内省のための時間を意図的に設けることで、初めて気付ける事がたくさんあるんです。

④パフォーマンスの維持

戦略的な休息により、高いパフォーマンスを維持できる。

徹底的に力を込める仕事と、ある程度手を抜いても構わない仕事を分けて考えることも有効です。

その際は自分にとって何を優先するべきかを考えるために、③に挙げた内省時間を確保しましょう。

⑤燃え尽き症候群の予防

適切な休息はコルチゾールレベルを低下させ、ストレス管理に寄与する。
適切なホワイトスペースの確保は燃え尽き症候群の予防に効果的。

喉が乾いてから水を飲んだのでは遅いように、疲れを自覚する前に小休止を挟む必要があります。

仕事のスケジュールが出た段階で、
どの隙間にホワイトスペースを差し込めるか、あらかじめ予定に組み込んでおくと良いでしょう。

⑥洞察力の向上

空白の時間が物事の本質を見抜く力を養う。

何かに集中していると他のことが目に入らなくなります。
反対に、ホワイトスペースを確保しているときは視野が自然と広くなっていることに気が付くでしょう。

そうした時にこそ、新しい気付きが訪れるものです。

リハビリ職が陥りがちなホワイトスペースの欠如

続いて、
医療者の中でもリハビリ職に焦点を絞って、ホワイトスペースが不足する原因を考えてみましょう。

ホワイトスペースが不足する原因


1、過密なスケジュール

患者対応やリハビリプログラムの計画・実施に追われ、休息時間が確保できない。

2、書類業務の多さ

リハビリ計画書や報告書の作成に多くの時間を費やし、自己ケアの時間が取れない。

3、緊急対応

急な電話対応や患者の状態変化が頻繁に発生し、予定外の業務が増える。

4、職場の同調圧力

同僚や上司からの期待やプレッシャーにより、休息を取ることが難しい。

仮にリハビリ予定が急遽キャンセルになったとして、
その空白時間をじっくり思考のために費やすことは職場環境的に難しいと考える人が多いのではないでしょうか。

しかし、本当はそれこそが必要なことなんです。

医療従事者のためのホワイトスペース


僕たち医療従事者の仕事は、患者さんの生活を左右する重要なものです。

その一方で、
日々の業務の緊張感、長時間労働、そして患者さんやご家族との感情的なやりとりは、僕らの心身に大きな負担をかけます。

このような環境下では、ホワイトスペースを確保することが、単なる自己ケアを超えた、プロフェッショナルとしての責任と言えるのではないでしょうか。

なぜなら、
適切な休息と内省の時間がなければ、高品質の医療を提供し続けることは難しいからです。

ではどうすれば良いのでしょうか?
具体的な解決策をいくつか見てみましょう。

❶スケジュールの見直し

患者対応の間に短い休息時間を意図的に設ける。

予定より2分早めに介入を終了したとしても、相手の満足度が高ければ文句を言われることはほぼありません。

その間に水分補給したり、少しだけ目をつぶって深呼吸するだけでも焦燥感は和らぎます。

❷仕事内容の削減

書類業務や患者対応を効率化し、個々の負担を軽減する。

どんな仕事にも不必要な部分があります。
自分がやらなくて良い仕事、やる必要がそもそもない業務を選別し、それを削減しましょう。

必要のない仕事を(家事でも同じですが)リスト化してしまうのが最もおすすめです。

権限を委譲する、という考え方を身につけると、上に立つ立場の人は仕事が楽になります。

また、
報告書の作成のような頭を使う作業を前頭葉の疲弊が少ない午前中に持ってくることで、作業時間の削減が可能になるかもしれません。

❸スペースの活用

職場内で人が少ない場所を休憩や内省の時間に利用する。

同僚とのおしゃべりも大事ですが、時には一人で内省のための時間を確保できる空間に身を置きましょう。

自宅で捗らなかった勉強が図書館で進むように、人は環境からとても大きな影響を受けています。
仕事に行き詰まったら、環境を変えてから再度考え直してみるのも有効です。

❹終わりの合図を作る

仕事の終わりや、一区切りついた段階でモードを切り替える儀式を行う。

ダラダラと残業して家でも仕事のことを考えていると、プライベートとの境目も曖昧になってしまいます。

仕事とプライベートの切り替え、
一人の患者のリハビリから次の患者への切り替え、
そこに意図的な行動…儀式を挟むことで自分にスイッチを入れる(オフにする)方法です。

儀式はなんでも構いません。

車通勤の人なら退勤の時にドアを閉めたらそこからプライベート、仕事のことをひとまず考えないと決める。
次の患者さんに挨拶をしたら、前の患者のことは考えない。

しっくりくるマイルールを作ってみましょう。

❺デジタルデトックスの1日を作る

意図的に電子機器を手放す機会を作り、思考のための時間を確保する。

SNSやスマホゲーム、Netflixやテレビゲーム、デジタルで行うこうした活動は全てホワイトスペースに含まれません。

スマホやタブレット、TV、PCなしで1日を過ごすのは、おそらく現代人にはかなり抵抗があるのではないでしょうか。

だからこそ、効果があるんです。

丸1日とは言わないまでも、
寝る前の数時間、週末の半日だけ、等、なるべくデジタルから距離を置く機会を作りましょう。

これらの方法を組み合わせることで、
リハビリ職がより効果的にホワイトスペースを確保し、質の高い医療サービスの提供と自己ケアの両立を図ることができると思います。

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心理学をリハビリと絡めた記事を隔週で木曜日に更新しています。
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