『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団(著:森功)』〜犯罪の舞台は日常にある--「地面師」たちと出会ったかもしれない夜
※ネタバレ(?)します。
【内容】
土地の持ち主になりすまして、土地を売り飛ばす詐欺師たちに取材したノンフィクション。
【感想】
この本を読んでいるうちに、10年ほど前、深夜残業の帰りに立ち寄った池袋北口の老舗餃子屋のことを思い出しました。使い込んだ鉄板でしっかりと焼かれた小振りの餃子が絶品で、たまに訪れていた店です。しかし、あんなに遅い時間に行ったのは初めてでした。
その日、店内には厳つい中年男性の二人組がいて、自分の斜め後ろで何やら話し込んでいました。耳に入ってきたのは、こんな会話でした。
「〇〇千万は、〇〇から引っ張ってくるから」
「それを元手に、〇〇仕掛ける。上手くいけば、〇億円が…」
今になって思い返すと、あの人たちはこの本に登場する「地面師」の池袋グループの一員だったのではないか。
また、巣鴨にある『伯爵』という昭和レトロな雰囲気の喫茶店を訪れたことも思い出しました。巣鴨という土地柄、高齢者が多い印象でしたが、昭和喫茶のブームに乗り、若い女性客も多く、ちょっと並ばないと入れない人気店でした。ところが、この店が詐欺師グループの巣窟になっているという話が本に出てきて、驚きました。
都内に住んでいると、このように馴染みのある土地や店名が犯罪の舞台として登場することもあり、犯罪が自分の日常圏で平然と行われているのだと再認識させられます。
また、昔読んだ本で、空襲で焼けた土地に他人が勝手に家を建て、そのまま住み着いてしまったという話を思い出しました。それが日本における「地面師」の起源なのだと、この本で初めて知りました。
本書のテーマとなっている積水ハウスの地面師事件は、発覚当時、世紀の大型詐欺事件として大きな話題になり、私自身も興味を持っていました。最近ではNetflixのドラマにもなり、「もうええでしょう」というフレーズが流行語にエントリーするなど、再び注目を集めています。事件が風化しつつある積水ハウスも、辞めてくれと思っているのかもしれません。こういったテーマに切り込めるのは、日本の広告業界や国内経済界に縛られない海外企業の制作ならでは、という印象も受けました。
日本にも、海外の実話を元にしたドラマに負けないくらい衝撃的な事件がいくつもあります。こうした事件がどんどんドラマ化されてほしいと思いました。
ただ驚いたのは、積水ハウス事件のような例外を除けば、この種の犯罪はほとんど罪に問えないケースが多いという事実です。さらに、日本にはこうした巧妙な犯罪を計画できる頭の良い地面師がそれほど多くないため、同じメンバーが何度も事件を起こしているというのも興味深い話でした。それにも関わらず、警察が動きたがらない場合が多いという点も含め、被害者の奪われた金の行方が分からないままという事実には、なんとも言えない虚しさを覚えます。
このようなノンフィクションを読むことは、「大人の社会科見学」のようなもので、タチの悪い野次馬根性かもしれません。それでも、この本は非常に興味深いと同時に、こんな人間に狙われたら本当に怖い、と身震いさせられる一冊でした。
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