質問095:フォームを動画に撮影するとめっちゃ変
回答
▶フォームを気にする弊害
映像を拝見したところ、一般的に模範とされているサーブのフォームに比べて、ラケットダウンが浅いようにはお見受けされます。
しかしだからといって別段、ご自身が気にするほどおかしくは、ぜんぜんないと思います。
スピードも結構速いのが行っており、この映像からだと、サービスボックスに入っているのか入っていないのかまでは分かりませんが、ほとんど問題ないように思われます。
サービスボックスに入らないのだとしたら、それはフォームがめっちゃ変なのではなく、「フォームを気にする取り組みが弊害」と言えます。
フォームを気にすれば気にするほど、ボールに集中できません(回転やケバが見えません)から、「ここだ!」が感じられずに打球タイミングがズレて、映像にもありましたが(2打目)ラケット面の芯を食わず、コントロールの方向性がそろわなくなります。
逆に言えば、どんなサーブを打つか(およびテニスコートにレイアウトされたラインやネットを、目で見なくても想像できる空間認知)のイメージがあり、ボールに集中すれば、体はそのサーブを実現するために必要な動きを否が応にもやってしまいますから、意識しなくてもフォームは自然とふさわしい動作に収束します。
ちなみに空間認知とは、目で見なくても冒頭写真にある「福笑い」が上手にできるようなイメージ力といって差し障りないでしょう。
▶「タメ」はぶん殴るイメージで自然とできる
以前、「タメ」に関するご質問でも回答しました。
そんなシーンが実際にあるかどうかはさておき一例として、相手の顔面を思い切ってぶん殴る渾身のストレートを打つイメージがあれば、自然とこぶしを引き、タメを作ろうとしなくてもタメができて、「セーノ」でガツンッとパンチするダイナミックなフォームになるでしょう。
それはこぶしの引き方だけではなく、見た目に見えない力の込め方・抜き方、打ち出すタイミングなどもイメージが司ります。
もちろん競技ボクシングの場合は、あからさまにこぶしを引きすぎると対戦相手に見破られるし、引いている間にサクッと逆にパンチを入れられてしまいかねません。
なので、パンチのパワーはさておきなるべく速くヒットさせたいのであれば、こぶしを引かない「ジャブ」になろうかと思います。
このあたりの対応もイメージが司ります。
▶「自分、こんな打ち方してるの?」
ちまたに溢れるフォームについての解説は、それがいいか悪いかは別として、すべて「後づけ」です。
内側に保有しているショットのイメージを遂行しようとする外側に、フォームが自然と現れます(それがまさしく「自然なフォーム」ですね)。
私はうっかり先に、「ラケットダウンが浅い……」みたいな話を口走ってしまいましたが、ボールを打つときにラケットダウンなど、ゆめゆめ意識されませんように。
繰り返しになりますが、ご自身が感じるほど「めっちゃ変」ではありません。
ただしおおよそ自分のプレーをビデオに収めて見てみれば、多くの人が「自分、こんな打ち方してるの!?」などと戸惑いがちになるものです。
「めっちゃ変」と思うのです。
なぜか?
▶フォームをイメージどおりにしたいなら
ビデオで確認し、ご自身が自分のフォームについて違和感を覚える理由は、イメージと実際の動作との間にギャップがあるからです。
コチラで百獣の王・武井壮氏が紹介しているような、腕を水平に上げているつもりでも、実際には傾いているギャップがある。
こんな単純なスタティック(静的)な動作でも、そうなる。
ダイナミック(動的)なテニスだとなおさら言わずもがな、というわけですね。
なのでどうしてもフォームを整えたい(イメージどおりになぞらえたい)ならば、今回のようにビデオに撮って確認する。
歪んだ姿勢を正したければ、鏡に映して客観視するのと同じです。
現状を把握しないことには、変化の起こしようもありませんし、現在地が分からないと、進む方向性も定まらないのです。
あるいはボールを打つことなく、打球タイミングのない素振りで、身体動作をボディスキャンするように丁寧に感じる。
あるいはボールを打ちながらフォーム改造に取り組むのでしたら、飛んでいくボールの行方は一切気にせず行なう。
▶フォームが整ったからといって、レベルアップするとは限らない
ただしフォームが整ったからといって、それでサーブのスピードやコントロールや回転量が、アップするとは必ずしも限らない点につきましてはご留意ください。
今のフォームは、打とうとするショットのイメージに呼応して、ご自身の顕在意識では自覚できない筋力や、筋肉を動かす神経伝達スピード、筋肉の柔軟性や関節可動域、手足の長さなどありとあらゆる身体情報をもとに、選ぶというより、潜在意識に選ばれています。
ですからプロでもフォームはみんな違います。
身体情報が人それぞれだからです。
ストレッチできる可動域には違いがあるのに、動画や連続写真を参考にフォームだけプロに似せようとしても、それは無理筋というものです。
▶お父さんのスプリントを安定させるには?
イメージと現実との間にズレがあると、お父さんの徒競走よろしく、ずっこけますよ。
若いころのイメージのまま走り出すと、現実の体力が追いつかないからです。
そしてビリになる、ケガもする。
だとしても現実として備わる現時点での体力は、今すぐ変えられません。
そんな場合はまずイメージのズレを現実に合わせると、スプリントは安定するんです。
すると、もっと速く走れるようにもなってくるんです。
ちなみに走るときにも、一般的に始動されるようなモモの上げ方や足の出し方などのフォームを意識しすぎると、逆に遅くなるし、競技歴が長い上級者ほど、走り方すら分からなくなります(具体名は後述)。
▶自分の連続写真を見て病魔に取り憑かれる
コチラでご紹介しているのはゴルフの例ですが、パットに定評のあった佐藤信人プロは、ゴルフ雑誌に掲載された自身の連続写真を見てパターのフォローを意識し始め、「いけない。真っすぐ打たないと……」などとフォーム改造に取り組んだ結果、かえってひどくパフォーマンスを落としてしまいます。
イップスという、(実際には治りますけど)「不治の病」と怖れられる病魔に取り憑かれたのです。
動かそうとする腕が、勝手に固まります。
止めようとする腕が、勝手に暴走します。
まっすぐ前へ振り出そうとしたら、真上へ行きます。
腕に電流が走ったかと思えば、腕の中の大蛇が暴れまくるかのようにさえ感じられます。
プロですら、フォームを意識するとそうなる恐れがあります。
というか、そうなりました。
先の、フォームを意識して走り方が分からなくなった例も山ほどある。
「陸上イップス」や「ランニングイップス」で検索すると情報が出てきます。
改造と改善は必ずしも一致しません。
▶だれもが「イップス予備軍」入りしかねない
プロですら、フォームを意識するとイップスをも発病する。
いえプロだから、なのか?
確かに佐藤信人氏の場合は「賞金のかかるプロだから」プレッシャーが特に強まるのは想像に難くないですし、実は私も組織の一員としてテニスを生業にしていたころイップスに罹患したものの「(生活のために、そして好きだから……)テニスを辞めるに辞められない」事情がありました。
ですがそういったプレッシャーの多寡とは別に、いずれにせよフォームを意識するのは後述する理由も含め「危険」なのです。
なので「プロだから?」は当てはまりません。
フォームを意識するだれもが「イップス予備軍」入りしかねないのです。
それが証拠にテニスゼロの「イップス友の会」に集うのは、スポーツで賞金を稼ぐプロというよりも、趣味として楽しみたい(のに楽しめずに苦しんでいる)愛好家のテニスプレーヤーが、ほとんどなのですから。
昨日俎上に載せた「相席食堂」もそうですが(番組自体は主観的に楽しませてもらってます!)、私がフォーム指導・フォーム矯正に厳しすぎるきらいがあるとするならば、それは上記のような(そして後述する下記の)「危険」をはらむからでもあるのです。
▶タイミングが合えばフォームは自ずと洗練される
フォームを改造しようと意識するのではなくて、打球タイミングが合ってくると、自ずとご自身にふさわしい洗練されたフォームがにじみ出てきます。
それを端から見た人が、「あの人はフォームがきれい」などと、主観的に評価するにすぎません。
それが証拠にかのロジャー・フェデラーだって打球タイミングが遅れれば、一般的には誤りと評価されるのけ反ったフォームになる。
これはフォームが乱れたのでは決してなくて、のけ反って、遅れたタイミングをジャストへ合わせるためにアジャストしてくれる、体による優れた反応・対応なのです。
つまりのけ反るのは、「乱れた」のではなくて、「整った」(この映像のポイントはすべて、フェデラーが獲っています!)
それが証拠に、時間として振り遅れたにも関わらず、一般的に正しいと評価される「軸まっすぐ」の形を維持するように意識するならば、もっと詰まったインパクトになってミスもしてしまうでしょう。
なのでご自身の場合、サーブを打つときにラケットダウンが仮に浅いとすれば、それは打球タイミングが遅れないようにラケットヘッドを深く落とさない、調整された体による優れた反応・対応なのかもしれませんね。
所属されている部活あるいはテニススクールでも、フェデラーの映像にあるような「羽子板打ち」でもしようものなら、顧問やコーチに「ちゃんと回り込め!」などとドヤされるかもしれませんね(もちろん、理想の打点に入れれば御の字ですが、お父さんの徒競走よろしく現時点ではそうなる事情が、確かにあったのです)。
▶フォームの乱れ(!?)は、体による優れた反応・対応
ついでに先の例をもう少し補足すると、のけ反るばかりではありません。
インパクト時に上半身が前かがみになるとすれば、それは打ち急いだ早すぎるタイミングに、体がアジャストしようとしてくれる優れた反応・対応。
体を突っ込ませて、合わせにいっているのです。
こんなときに模範とされる「軸まっすぐ」の正しいフォームを意識したら、振り出すもラケットがボールに届かず空振りしてしまいます。
もう一例を挙げると、「スタンスは肩幅強」などといわれるけれど、遠いボールに対してはそれどころではない「開脚スタンス(spread legs)」になる。
こんなときにも模範的とされる「肩幅強」のフォームを意識したら、やはりボールに届かず空振りするのです。
▶「フォーム固め」とは言うけれど……
例を上げれば枚挙にいとまがありません。
フォームは状況に応じて変化します。
そして特にテニスは状況が、刻一刻と著しく変化するオープンスキルの競技である。
ですから「これが正しいフォーム」というのは実在し得ない、と言えるでしょう。
一般的には「フォーム固めが大切」とは言うけれど、むしろ固めれば固めるほど対応力を損なうから、テニスが下手になるのです。
▶「基本のフォーム」はおとぎ話
そうはいっても、「基本のフォームくらいはあるのでは?」
それは温室の中に限る人工的に作られたおとぎ話です。
顧みれば、だれしも痛いほど分かるはず。
試合では、基本のフォームで打てる常況など、ほとんどないのですから。
なのに基本のフォームで打とうとするから、意識するから、テニスが破綻するのです。
▶たくさんプレーするからテニスエルボーになるわけではない
振り遅れた打球タイミングに対してのけ反る優れた反応・対応を体が行ない、アジャストしてくれると先述しました。
こんなときにのけ反ることなく、模範とされる「軸まっすぐ」を維持したまま詰まったインパクトになると、先述したミスをするばかりか、体に伝わる打球衝撃も強くなって、ヒジや手首にも負担がかかってしまいます。
すると(つまりフォームを意識すると)、テニスエルボーの誘因にもなりかねません。
そもそも「意識して動く」行為が自然界では不自然なので、筋肉に余計な緊張が及んで負担を強います。
いくらチーターは足が速いからといって、腕振りとかモモの上げ方とか意識していません。
スイングを押したり運んだり意識するのは、ブレーキ(抵抗)でしかないのです。
テニス肘の話で言えば『テニス・ベースメソッド』にも書きましたが、たくさんプレーするから、テニスエルボーになるわけでもないのです。
▶芯を食うインパクトだと「手応え」はなくなる
「テニスエルボーになるのは、テニスのやりすぎだよ!」
もし、たくさんプレーするからテニスエルボーになるのであれば、週に1日、1回に月2~3時間程度のウィークエンドプレーヤーよりも、毎日のように長時間テニスをプレーしているプロのほうが受傷しやすそうなものですが、プロは、(ほかにヒジを傷める原因はあるにせよ)テニスエルボーになりません。
それは、打球タイミングが正確だから。
そしてそれが叶うのは、フォームを意識していないからなのです。
その意味でもフォームを意識するのは、先述した病魔に取り憑かれかねないリスクをはらむとともに、傷めるから「危険」と言えるのです。
また会心の当たりを「手応え」などと言うけれど、実際には打球タイミングがドンピシャ合う「芯を食ったインパクト」だと、抜けるように軽やかなヒッティングになるため、「手応え」はなくなります。
なくなるというと語弊がありますが、「ガツッ!」と来る衝撃というより、「スコーン」あるいは「フワッ」と抜けるフィーリング。
なので、ヒジや手首に伝わる当たりも柔らかいのですね。
▶ボールに集中すると、テニスエルボーにならない
「プロは筋力があるから、たくさんテニスをやってもテニスエルボーにならないのでは?」
そう考えるのは、些か早合点でしょう。
実例としてコチラでもご紹介しているとおり、彼女は腕立て伏せが10回もできなかったとささやかれます。
それでも毎日のようにテニスをプレーし、シングルス世界ランキングはキャリア自己最高4位の高みに到達。
それだけではなくダブルスにも積極的に参戦するハードワーカーで、こちらもキャリア自己最高4位でした。
たくさんプレーしてもテニスエルボーにならないのは、決して筋骨隆々だからでもなくて、打球タイミングが正確だから。
そしてそれは、ボールに集中する(フォームを意識しない)からなせるワザ。
テニスエルボーになると、日常生活でペットボトルのフタをひねるだけでも難儀します。
▶下手のままではテニスは楽しめない
顔では笑っていても、テニスというスポーツは、下手なままだと楽しめません。
それは、テニスはミスするスポーツだから自己肯定感を損ねやすいきらいがあるためであるとともに、コチラでも述べているとおり、モロに「痛い」から。
そうなると、いくらテニスが好きでも、続けられなくなります。
ですから、上手くなってください。
高校1年生、応援しています。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
https://note.com/tenniszero
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero