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モットーは「できないを言わない」。世界で勝負する”超精密”研磨加工会社の成長の秘訣とは

高い精密加工技術を武器に、グローバルニッチトップ企業にも選ばれる

ーまず簡単に、事業の内容をご説明いただけますか?

精密加工業を行なっており、様々な材質・形状のものをわずかに削ったり磨いたりすることで、精密な形状を作り込んだり、新たな機能を備えさせたりしています。

ー御社ならではの強みや独自性はございますか?

私たちはグローバルニッチトップ企業に選ばれております。オーダーの精密さにおいては、これほど多様な材質、多様な形状に対して1nm(ナノミリメートル、1mmの100万分の1の長さ)を切る精度を実現できる会社は他にはありません。また、「加工できました」というだけでは本当にできているのか、本当にnm単位で実現できているかわからないですが、当社では精密測定器も多数保有しておりますので、それらをもって「確かにできていますよ」という品質保証まで含めてできる体制を敷いています。

東北大学青葉山新キャンパスに次世代放射光施設NanoTerasu(ナノテラス)が整備されつつありますが、そういった精密計測が可能な施設が近くにできるので、自分たちも活用していきたいなと思っています。

ー航空宇宙分野における取り組みも教えていただけますか?

以前、はやぶさ2に導入された「サンプルキャッチャー」という小惑星物質(サンプル)を回収する容器の精密研磨を行いました。それは2014年ぐらいに手掛けたもので、2019年にサンプルが戻ってきました。

 その次の世代、MMXという火星の衛星フォボスに行くプロジェクトが今年も飛び立つ予定で、そちらでもサンプルキャッチャーの精密研磨を行いました。このサンプルリターンプロジェクトに関しては、戻ってきたものを分析する容器といったものも当社ですべて研磨する予定です。

 その他にも当社の技術が天文・宇宙分野の研究で使われた事例は多く、南極にあるBICEP3望遠鏡やNASAのプロジェクトでも使われています。

ー人材難という観点から、宇宙分野に参入していてよかったと思うことはありますか。

宇宙向けの仕事はとても夢があるので、実際にそれに携わった人は誇りを持てますし、地元の学生さん、高校生が宇宙分野の仕事ということで興味を持ってくださったりします。製造業、研磨作業は割と地味なイメージなものですから、それに対して、そのアプリケーションがわかりやすくてすごく喜んでくださるので、効果があるんじゃないかと思っています。

ー他にはどういった分野にサービスを提供されていますか?

半導体業界が実は一番多いのですが、それ以外には電子機器や医療機器、自動車向けにも提供しており、現在世界19カ国でお客様が4000社以上ある状況です。少しずつですが本当に多様なジャンルでお仕事させていただいています。

ターゲットはあえて絞らず、お客様のニーズに全力で応える

ー今狙っている分野や業界はありますか?

実は今、核融合の勉強をしています(笑)。これまで研磨を使った研究所向けの試験片を作っていたのですが、それが「核融合分野で使えるよ」「ティ・ディ・シーで加工したサンプルを使ってこういう実験したよ」という論文が結構出ていて、当社の技術が核融合に使えるの?!ということを知ったんです。そんな面白い未来の技術、未来の研究開発に当社が役に立てているのはすごく嬉しいですし、まだまだこの分野に当社が関われる可能性があるんじゃないかと思って狙っている分野です。

ー製品のターゲットを絞る上での赤羽さんなりの基準を教えてください。

私はターゲットを絞ったことは過去一度もなくて、これからもする気はないです。当社のホームページにも「できないを言わない」と書いてある通り、来る仕事を拒まないというポリシーがあります。

ちょっと話はそれるのですが、私元々はマーケティングの方が得意でして、前職は広告業界で働いていました。そこから製造業に転職したところ、「製造業ってあんまり宣伝をしないな」と思って。せっかく良い技術を持っていても埋もれてしまうのはもったいないなと思いました。

ですので、この会社に入ってからは、広告を含めたWebでの情報発信や展示会を積極的に展開しています。色々な方が自分たちの困りごとに対するソリューションを探しているときに、当社を見つけてくれたらいいなという想いでやっています。

私たち自身もまさか、はやぶさ2や核融合分野にそんなニーズがあるとは知りませんでした。こういった特定の業界を狙うには事前知識が必要になると思うんです。だから、まずは私たちを見つけてくださった会社が「こんなものも磨けますか?」と言ってくれたら、それはすごく嬉しいことなので、全力で頑張りたいと思っています。

ー来るものを拒まず、日常の出会いを大切にされていらっしゃるのですね。御社は海外の展示会にも参加されていますが、国内と海外の違いは感じたことがありますか?

基本的には変わらないです。最初は身構えた部分もありましたが、技術的な課題や芯の部分はあまり変わらないと思います。日本の展示会に出ていると、日本人同士だから話しやすい感じがしますが、ヨーロッパやアメリカは多民族ですので「私たちは外国人だから」というのは全然通用しない。やっぱり言葉の壁や文化の壁は確かにありますが、技術的なことに関しては全く日本と差はないと思います。

ー先ほど御社のモットーは「できないを言わない」ことだと伺いましたが、どうしてそれがモットーになったのでしょうか?

これは父の代からのモットーなんです。元々我々は鋳造業をしていて、そこから精密加工の分野にビジネスドメインをシフトする第二の創業をしたときに、それまで他社が既にできたことをやっていては価格競争に陥ってしまって、自社の発展にも繋がらないし業界の発展にも繋がらないということで、「他社がやっていないことをやろう」と自分たちで決めました。そのときに、当然今自分たちが既にできることは他社にもできるわけだから、より難しい仕事を取りに行かなければならない。そういう意味で「できない」と言っていたら全く前に進まないので、「できるわけない」と思うような仕事に対してもできるようにしていくという取り組みをしてきました。

自分たちだけでは気づけない、新たな視点を与えてくれる会社と出会いたい

ー以前携わられていた広告業と製造業の最大の違いはどこだと思いますか?

たくさんありますが、良い点に関して言うと、ものづくりはすごくシンプルです。広告業界ではどんなに素晴らしい広告を作っても、実際の商品が悪ければその商品が売れ続けることは難しい。一方、ものづくりで良いものを作ったら、お客さんから『素晴らしい品質です、ありがとう』って電話がかかってくるくらい喜ばれることもある。ものづくりは確かな品質のものを提供できれば、必ずお客様はそのことを評価・信頼してくれるし、その信頼関係が続きます。

ー業界や技術の変化にはどのように対応しているのでしょうか?

お客様から寄せられるご要望はどんどん高度化しているので、技術革新は常にしていかなければならないと思っています。私たちがようやくできるようになったことも、時間が経てばだんだん他の方たちもできるようになってくるので、同じことをやっている限りはまたそこも競争になってしまう。ですので、私たちはもう一段階難しい仕事にチャレンジし続けたいし、そこは頑張り続けるしかないかなと思っています。

ー経営者として赤羽さんなりのポリシーはありますか?

助け合いでしょうか……(笑)。「自分ができないことを悲観しない」ことですね。自分のできない部分は周りに助けていただいて、自分でできることは精一杯やることを大切にしています。色々できない自分を諦めて、なるべく自分ひとりで抱え込まずに、まわりの社員たちや共同研究者の方、色々な方に助けてもらっています。ありがたいことにその方が成果が何十倍、何百倍にもなるように感じています。

ー今回、この地域のものづくり企業としてご登壇いただきますが、地域のものづくり企業ならではのリスクは何だと思いますか?

特にこの地域にかかわらずだと思いますが、コロナ禍もあって、この先グローバル化や少子高齢化、人材不足が進むと考えると、先行き不透明な世の中だと思います。それに対して、地方よりは東京の方がやっぱり情報や人材が集中していると思っていて、そこに決して取り残されないようにすることをしていかないと、いわゆる「田舎の企業」になってしまう。ですので、学び続けることを大切にしながら、凝り固まりがちな頭や交友関係をほぐしていかなければと思います。

例えば、地域企業同士は既にコミュニティがあったりするのですが、そこに安住してしまうことはやっぱりリスクだと思っていて。全く見ず知らずの若いスタートアップとのお付き合いも、それもまたリスクはありますが、上手く付き合っていくことでそのリスクをチャンスに変えていくことができるのではないでしょうか。

ースタートアップ企業と協業する上で一番必要なものは何でしょうか?

お互いのリソースをちゃんと見極めて、出せるものを出し合うことだと思います。過剰なものを押し売りしても仕方ないし、今持っている商品の中で彼らにぴったりはまるものがあるとも限らない。彼ら自身が自分たちの課題を明確化できてない可能性もあって、もしかしたら1対1の関係では協業が難しいかもしれない。そういう場合には、間にコーディネーターの方や行政の方とかにも協力を仰ぎながらやっていく必要があると思います。

ーものづくり企業として、テクスタ宮城を含めて行政に取り組んで欲しいことはありますか?

宮城県の皆様には大変ご支援いただいておりまして、本当に足を向けて眠れないぐらい地域企業としてずっと支えていただいております。スタートアップも含めて地域企業の発展には行政のご支援は本当に力になるので、ぜひ行政の方たちにもこの地域からスタートアップが生まれるような下地を作っていただきたいなというふうに思います。

先ほどのお互いのリソースを出し合って全く新しいものを作り合う取り組みに対して、行政に間に入っていただく必要もあるでしょうし。今回のイベントのように、お互いの人柄や、「事業で本当にやりたいこと」とか、そういったことを語り合える場を創出してもらうことはすごく良いと思います。

ー今回のテクスタ宮城マッチングイベントではどういった企業さんと出会いたいですか?

私たちが「これだ」と思い込んでいるものに対して、「そんな手もあったのか」という発想の転換をさせてくれる方に出会えたら、すごくハッピーです。

地域のものづくり企業が生き残るには、学び続けることが必須

ー赤羽さんと自治医科大学の取り組みとしてベンチャー企業IchiGoo(いちぐー)を創業されていますが、そこではどのような取り組みをされていますか?

足に障害のある方の移動をサポートするための器具の開発を行っています。一緒に共同研究・創業した先生ご自身が車いすのユーザーで、リハビリをすることで自足歩行ができるまで改善させた方でして。足自体の機能は回復していないのに、他の部位を筋トレで強化することで歩けるようになった経験を経て、わたしたちの起こりうる身体の不調に対して発想の転換やちょっとしたものづくりの工夫による改善を提案するベンチャーを立ち上げています。

障碍者のQOLを高めていくためには、医療だけでなく、医療保険適用外のことが必要になることもあります。けれども、コストや情報の観点から誰もが容易にアクセスできるものではないという実情があります。私自身も妹に障害があり、できないことや諦めていることがたくさんあることを身近に感じています。

どんな人でもいずれ年を取っていくわけで、「大変だから本当は行きたいけど、本当はやりたいけど諦める」ということは誰しも起こり得ることです。そういう意味で誰にとっても他人事ではないので、世の中のバリアをどんどんなくしていきたいという想いがあります。

その中で、今、一緒にやっている方が足、すなわち移動をサポートしたいという想いがあって取り組んでいる状況です。

ー自治体に対しての要望はありますか?

試しに色々なことをやれたらいいのではないかと思っています。栃木県の事例ではスタートアップ企業に試作費用をサポートしてくださるという取り組みをしていて、そういうのはいいなと。その地域企業と協業するなど、ルールを色々作れば運用できる気がしています。「何か成果物を世に出してみたい」「全然ターゲットも出口も決まっていないけれど、ちょっと何かやってみたい」といった方、例えば学生起業家さんにも、チャンスが広がると思うんですよね。

何かビジネスアイデアを持っている方にも自分の構想を具現化するサポートをして、「これいけるかも」みたいなことを実感してもらうための費用、100万でも10万でもいいと思うんですが、そういったサポートをするのはいいんじゃないかなと思います。

その枠組みの中で、数ヶ月後にテクスタ宮城のイベントを通して、「これができました」って発表してもらったら面白いですよね。

ー今後地域のものづくり企業がさらに発展していくために何か必要だと思いますか?

学びの機会が必要な気がしています。私自身は本業の傍ら東北大学大学院工学部で研究をしているのですが、大人になってから大学院の授業は新鮮でしたし深い学びがありました。例えば知財や生産管理手法とか、学生時代は全く勉強しなかったのですが、実際に仕事に就いてから、こういう実務に役立つ知識を得ることができるのはありがたいなと思っています。ただ会社をやりながら大学院まで入るのは、時間的にも結構大変できついなと思うので……。

 ちょっと話は変わるのですが、先週展示会で東京に行ったときに、知り合いが「勉強会が夜7時からあるよ」というメールをくださって。それは人材マネジメントの勉強会だったんですけど、そういう機会が東京にはいっぱいある。「早朝に丸の内であります」とか、「午後から大手町付近であります」とか、「ランチ食べながら勉強会しましょう」とか。人が密集してるからだと思うので、宮城県だと難しいのかもしれないですけど。

今は「リカレント教育」と言われていますが、わざわざどこかに入学金を払ってまで入学して勉強するのは大変ですけれど、ちょっとした勉強会みたいなものがあれば良いと思いますね。そういう機会は、やっぱり地方に行けば行くほど少ない。けれど今は誰でもオンラインからアクセス可能ではありますので、そういう情報格差も減っていくはずですし、一人一人情報感度を高めることも重要だと思います。

ただ、学びはインプットとアウトプットと両方あって完結する気がしていて、例えば今回のようなイベントを通じて、多くの参加者と意見交換をしたり、学生さんや、起業経験者の話や、現役経営者や技術者や色んな人が集まって「問題があったけどこういうふうに克服しました」といったようなものづくりの話など、色々なフェーズの話が聞けると良いですよね。

ー今回のイベントでは赤羽さんからどんなお話を伺えるのでしょうか。

ものづくりって必ずしも簡単に行くことばかりではなくて、大変なことの連続なんですけど、一つひとつ、社内のメンバーやお客様とパートナーシップを組んで解決していますという事例を色々話せればと思っています。自分1人だけ、自社だけでは解決できないことに対して、連携の枠組みを使って解決をしていく。自社の強みを強化しているという事例をご紹介します。

ー最後に、このイベントに対する意気込みがあればお願いします。

色々な方と情報交換できればいいなと思っていますので、多くの出会いを期待しています。

■株式会社ティ・ディ・シー
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